
私は25年以上にわたり外科医として働いてきました。今回はその経験の中で感じてきたことを、少し肩の力を抜いて「本音」としてお伝えしたいと思います。暴露話のような刺激的なものではなく、日々患者さんと向き合ってきた中で心に残っていること、思い続けてきたことをお話しします。途中で、我が家の犬の「本音」も織り交ぜながら、少しやわらかい雰囲気で進めていきましょう。
まず最初にお伝えしたいのは、やはり「手術はとても大切な治療法だ」ということです。
病気の治し方にはいろいろあります。薬を使う方法や、体に放射線をあてて治す方法などもあります。しかし私自身、数えきれないほどの患者さんの治療に関わってきて、特に早い段階で見つかった病気に関しては「手術こそが一番効果的だ」と感じています。
もちろん、手術は体に大きな負担をかけます。だからといって「外科医が患者さんを治す」という発想ではなく、むしろ「人間が本来持っている自然に治ろうとする力を妨げず、最大限に引き出すためのサポートをする」という役割だと思っています。
我が家の犬に置き換えてみましょう。散歩をしていて足を痛めたとき、犬自身が自分で休んで回復しようとする力を持っています。飼い主は無理に走らせたりせず、静かに見守ったり栄養を整えてあげたりする。外科医の役割もそれに近いと感じています。
二つ目の本音は、外科医の腕には差があるということです。
これは隠しようのない現実です。経験豊富で手際の良い外科医もいれば、まだ慣れていない外科医もいます。丁寧に準備しても、技術や判断の差によって結果が変わることがあります。
患者さんの立場であれば「できるだけ上手な先生に手術をしてもらいたい」と思うのは当然です。ただし、どの先生が「上手」なのかを見抜くのは簡単ではありません。できる工夫としては、同じ種類の手術を多く行っている病院を選ぶこと。そして、執刀する先生に「どれくらい経験があるのか」を、失礼にならない範囲で尋ねてみることです。
犬の散歩で例えるなら、慣れた人がリードを持てば犬も安心して歩きますが、不慣れな人が持つと犬が不安そうに振り返ることがあります。外科医と患者さんの関係も、それに似ているのかもしれません。
三つ目の本音は「手術で全てを救えるわけではない」ということです。
どれだけ腕のある外科医が全力を尽くしても、思うように結果が出ないことがあります。手術後に体のトラブルが起きたり、しばらくしてから病気が再び姿を現したりすることもあるのです。
特に病気がかなり進んでいる場合、手術だけでなく薬や放射線、栄養や生活のサポートなど、さまざまな方法を組み合わせる必要があります。つまり「外科医一人の力だけでは足りない」と痛感する瞬間が少なくありません。
犬でいえば、病気になってしまったときに、食事や休養、場合によっては薬などいろいろな工夫が必要になるのと同じです。
四つ目の本音は「恐怖や無力感に襲われることがある」ということです。
外科医は人の命を預かります。法律的に認められているとはいえ、人の体をメスで切るという行為は、最初のころは本当に怖くて足が震えました。
手術の最中、想定していなかった出血が起きることがあります。大きな血管から血が止まらず、患者さんの血圧が下がっていく。そのときの恐怖は、言葉にできないほどのものです。「自分のせいで目の前の命を失ってしまうかもしれない」という思いに押しつぶされそうになります。
また、いざ開けてみたら病気を取りきれないことが分かったとき、あるいはせっかく成功したと思った手術のあとに病気が再発してしまったとき、外科医は強い無力感に襲われます。自分の力の限界を思い知らされる瞬間です。
犬も似たような感覚を持っているのではないかと感じます。雷の音に怯えて、何もできず震えている姿を見ると「恐怖」とは誰にでもある自然な感情なのだと思います。外科医もまた同じように、日々恐怖や無力感と向き合いながら仕事をしています。

そして最後、五つ目の本音は「患者さんが元気になっていく姿こそが最大の励みになる」ということです。
外科医の仕事は「きつい、汚い、危険」の三拍子がそろっているとよく言われます。実際、長時間の手術は体力的にも精神的にも過酷です。しかし、その大変さを上回るやりがいがあります。
それは、手術を終えた患者さんが少しずつ元気を取り戻し、笑顔を見せてくれる瞬間に立ち会えることです。その姿を見るたびに「この仕事を続けてきてよかった」と心から思います。
犬の散歩でも同じです。足を痛めていた犬が少しずつ走れるようになり、嬉しそうに尻尾を振る。その変化を見ることほど飼い主を励ましてくれることはありません。人も犬も「良くなっていく姿」は、周囲に大きな希望を与えるのです。

最近は外科医を目指す若い人が減っています。時代の流れを考えると仕方のない部分もあるでしょう。しかし、外科はとてもやりがいのある仕事です。患者さんの回復を目の当たりにできるという点で、他の仕事では得られない喜びがあります。
これから医師を志す方や、将来の進路を考えている学生さんには、ぜひ外科医という道も一つの選択肢として心に留めていただけたら嬉しく思います。
外科医の本音を五つにまとめてお伝えしました。厳しさや限界、恐怖といった側面もありますが、それ以上に「患者さんが元気になる姿に立ち会える」という大きな魅力がある仕事です。犬と同じく、人もまた本来持っている力で回復していきます。その力を支え、背中を押すことができること。それが外科医としての最大の喜びだと、今も心から感じています。