
がんと共に生活を送っている方の中には、犬や猫などのペットと一緒に暮らしている方が少なくありません。私自身、そうした姿を見て「とても素敵なことだな」と感じています。実際、外来でお会いする患者さんの中には、毎日愛犬との散歩を日課にしている方がいます。診察のときには必ずわんちゃんの話題になり、とても生き生きとお話をされるのが印象的です。
もちろん、住宅事情や体力面などでペットを飼うのが難しい方もいらっしゃいます。それでも、もし可能であればペットとの暮らしを考えてみる価値は十分にあると私は思っています。というのも、ペットと過ごすことは、がんと向き合う方にとって多くのメリットをもたらしてくれるからです。
一方で、「治療中にペットと一緒に暮らしても大丈夫なのだろうか?」と心配になる方もいるかもしれません。そこで今回は、ペットと暮らすことの利点と、生活するうえでの注意点をお伝えしていきたいと思います。

アメリカでは「ペットセラピー」と呼ばれる取り組みが広く普及しています。動物とのふれあいを通して心身の回復を助ける方法で、病気の治療に取り入れられているのです。実際、小児がんや乳がんの患者さんを対象にした研究では、ペットと触れ合うことで生活の質が高まることが報告されています。日本でも一部の病院や施設で導入され始めています。
では、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは5つに分けてご紹介します。
ペットと過ごす時間の一番の魅力は「癒し」ではないでしょうか。がんと向き合う日々は、どうしても強い緊張や不安を伴います。そんなとき、愛らしい仕草や温もりに触れるだけで心が落ち着き、気持ちが軽くなるものです。研究でも、動物との時間がストレスをやわらげる効果を持つことが確認されています。
一日中、自分の病気や治療のことを考え続けるのは大きな負担になります。ですが、ペットと遊んでいるときや散歩しているときは、その瞬間に集中でき、つらさを忘れる時間が生まれます。ほんの一時でも「がんのことを考えない時間」があることは、心の健康にとても大切です。
実際の研究でも、ペットと過ごすことで気分が高まり、不安や痛みが軽くなることが報告されています。撫でたり抱っこしたりすることで安心感が得られ、心の落ち着きが体の感覚にも良い影響を与えるのです。
ペットはただの動物ではなく、大切な家族の一員です。「この子のために頑張ろう」「一緒にもっと長く暮らしたい」という気持ちは、日々を前向きに生きる力につながります。治療中の方にとって、「生きがい」を持てることは大きな支えとなります。
犬の散歩やペットとの遊びは、自然と体を動かすきっかけになります。ひとりでウォーキングを続けるのは大変でも、「散歩に行かなきゃ」と思うと習慣にしやすいものです。楽しみながら運動できるのは大きなメリットといえるでしょう。
ここまで見ると「ぜひペットを飼ってみたい」と感じる方も多いと思います。ですが、治療中にはいくつか注意が必要です。
まず気になるのは「治療中にペットと一緒で大丈夫なのか」という点です。これについては複数の研究で、治療中にペットと接しても感染のリスクが特別高くなるわけではないと報告されています。基本的には、治療を受けている方でもペットと暮らすことは可能だと考えられています。
ただし、体の抵抗力が大きく落ちている時期は注意が必要です。特に薬の影響で免疫が極端に弱まっているときには、普段よりも慎重に過ごすことが望ましいでしょう。また、免疫を抑える薬を飲んでいる場合も、感染症のきっかけになる可能性があるため、かかりつけの医師に相談しておくと安心です。
さらに、以下のような点にも気をつけておきたいところです。
こうした点を守れば、犬や猫との生活は安心して楽しむことができるはずです。

ペットと過ごす時間は、がんと向き合う日々の中で大きな力になります。心を癒し、ストレスを和らげ、病気のことを忘れさせてくれる。さらには生きがいや適度な運動のきっかけにもなります。
一方で、治療中は体の状態によって注意が必要な場面もあります。体調や薬の影響を考え、必要であれば主治医に相談しながら工夫していくことが大切です。
「ペットと暮らす」という選択は、ただ癒されるだけでなく、がんと共に生きる力を与えてくれる大切な存在につながります。もし環境が整っているのであれば、その温もりを日々の生活に迎え入れることは、大きな支えとなるでしょう。