
リハビリテーションの現場では、患者の身体機能を回復させ、生活の質を向上させるために多種多様な治療が行われています。その中でも大きな柱のひとつとなっているのが「物理療法」です。物理療法とは、温熱・電気・光・牽引などの物理的なエネルギーを用いて症状の改善を目指す治療法であり、運動療法と並んで理学療法の重要な手段となっています。本記事では、物理療法の代表的な方法とその効果、さらに留意すべき禁忌について詳しく紹介します。
リハビリテーションにおける治療は大きく二つに分けられます。
運動療法
理学療法士や作業療法士が主体となって行う治療で、関節可動域訓練や筋力増強訓練、歩行訓練、上肢の巧緻動作訓練などが含まれます。患者自身の能動的な動きを通じて機能回復を図る点が特徴です。
物理療法
温熱・電気・光線・牽引などを用いて血流改善、疼痛緩和、筋緊張の緩和を促す治療です。患者にとっては「心地よい刺激」として感じられることも多く、リハビリの導入部分としても有効に活用されます。
物理療法の中でも代表的な方法が「温熱療法」です。ホットパックは人間の体温に近い温度から温泉程度の温度に加熱したパックを、肩や腰、膝などの患部に10~15分程度当てる方法です。
温めることにより血流が促進され、筋肉のこわばりがほぐれ、代謝が高まります。血流が良くなると、自律神経(交感神経と副交感神経)の働きが整い、体がリラックスしやすくなるのも大きな効果です。これは温泉療法とも共通しており、温浴による心身の安らぎは医学的にも裏付けられています。
さらに、運動後に生じる乳酸などの疲労物質の排出を促し、筋肉の疲労回復に寄与します。ホットパックは医療機関だけでなく、酒井医療、日本メディックス、アズワン、ミナト医科学といった企業から多様な製品が提供されており、臨床現場で幅広く利用されています。
電気を利用した治療の中で広く行われているのが「低周波治療」です。低周波とは1200Hz以下の周波数の電流を指し、高周波に比べて身体の深部まで電流が到達しやすい特性を持っています。

電流が流れることで筋肉が収縮し、ポンプ作用によって血流が改善します。これにより筋疲労の回復やこわばりの緩和が期待できます。
1965年、心理学者メルザックと生理学者ウォールが提唱した「ゲートコントロール理論」により、低周波治療の鎮痛効果が説明されます。触覚が強く刺激されると痛覚の伝達が抑制される仕組みで、肩こりや腰痛の軽減に有効です。実際に電気刺激を受けると、皮膚にピリピリとした感覚が生じ、痛みを感じる神経の働きが鈍くなるため、慢性的な痛みの緩和に用いられています。
オムロン、伊藤超短波株式会社、Panasonic、セルコムといった企業が家庭用から医療用まで幅広い機器を開発しており、近年は一般家庭でも利用できる製品が普及しています。
ラジオ波治療
電流ではなく電波を利用し、電子レンジと同じ原理で体内を加温する方法です。深部組織の加温が可能で、慢性疼痛の緩和に用いられます。
赤外線療法
光線を用いて患部を温める治療で、日光浴と同じ原理に基づきます。レーザー治療もその一種として位置付けられています。
磁気療法
磁気ネックレスや磁気マッサージ器具に代表される方法ですが、その効果のメカニズムは未だ完全には解明されていません。ただし、臨床的には血流改善や肩こりの緩和に寄与するケースも報告されています。
物理療法には以下のような効果が期待されます。
これらの効果は、リハビリ全体を円滑に進めるうえで重要な役割を果たします。
物理療法は多くの患者に有益ですが、適用してはいけないケースも存在します。
急性損傷
例えばアキレス腱断裂などの直後に温熱療法を行うと、腫れや出血が悪化する可能性があります。
感染・炎症
化膿している部位を温めると炎症が拡大し、症状を悪化させる恐れがあります。
これらの場合にはむしろ安静や冷却が必要であり、医師や理学療法士の適切な判断のもとで治療が行われるべきです。

リハビリテーションにおける物理療法は、患者の痛みを和らげ、血流や代謝を改善し、運動療法を効果的に進めるための大切な基盤となっています。ホットパックによる温熱療法や低周波治療をはじめ、赤外線やラジオ波、磁気療法など多彩な方法が存在し、それぞれに特徴と効果があります。しかし一方で、適応を誤れば逆効果となる場合もあるため、必ず専門家の指導のもとで安全に実施することが重要です。
物理療法は、単なる「気持ちよい治療」ではなく、科学的な根拠に基づいた医療の一分野として確立されています。正しく理解し活用することで、患者の生活の質を大きく向上させる可能性を秘めているのです。