がんと診断された方の中には、日常の生活習慣の見直しを考える方が少なくありません。
そのなかでも「食事」に関しては、多くの患者さんが悩み、
また「本当に変える意味があるのか?」と疑問を抱くことが多いテーマです。
医師に相談すると、
「特に気にしなくてもいいですよ」
「好きなものを食べて構いません」
といった答えが返ってくる場合もあります。
これは、がん診断後の食事に関する十分な科学的根拠(エビデンス)がまだ限られているためです。
しかし近年、研究が進むにつれて「やはり食事は再発や生存率に関係があるのではないか」というデータも報告されるようになってきました。
今回は、最新の臨床試験を紹介しながら、
「がんになってから食事を変えることに意味があるのか?」
という問いについて丁寧に考えていきます。

まず前提として大切なのは、「がん」と一口にいっても種類や進行度、治療方法は多岐にわたるという点です。
さらに、患者さんの年齢、体力、基礎疾患、もともとの食生活、栄養状態も人によって大きく異なります。
そのため「がんになったらこれを食べればよい」という万人に当てはまる答えは存在しません。
エビデンスが不十分であることもあり、医師からは
「好きなものを食べて大丈夫」
というアドバイスが多いのが現状です。
とはいえ、がんの再発や予後と食事との関連を探る研究が増えつつあり、食生活を工夫することが患者さんにとって意味のある可能性が示されてきています。

2023年10月に Clinical Cancer Research 誌に報告された研究があります。
これはイタリアの複数施設で行われた DIANA-5 試験 という
ランダム化比較試験で、乳がんの再発と食事療法の関係を検証したものです。
対象となったのは、手術を受けたステージ1〜3の
乳がん患者さんのうち、再発リスクが高いと判断された1500人以上の方です。
条件としては、
参加者は無作為に2つのグループに分けられました。
食事療法群では以下の食材が推奨されました。
一方で控えるべきとされたのは、精白された穀物(白米・白パン)、ポテト、砂糖やデザート、赤肉・加工肉、高脂肪乳製品、アルコールなどでした。

5年間の経過観察ののち、両グループの再発率を比較しました。その結果、食事療法群とコントロール群の間で 全体的な再発率に有意な差は見られなかった のです。
一見すると「やはり食事を変えても意味がないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし研究チームは、食事療法群の中で「どれだけルールを守ったか」に注目しました。食事の改善度合いを自己申告で点数化し、食事スコアが大きく変化した人(しっかりと健康的な食事に切り替えた人)と、あまり変化のなかった人とを比較したのです。
その結果、最も食事スコアが改善したグループでは、再発率が41%低下していた ことが分かりました。つまり、実際に食生活を大きく変えた患者さんでは、再発リスクが下がっていたのです。
■ 研究から見えてくること
この結果から重要なのは、
「食事療法に振り分けられた」
だけでは効果がなく、
「実際に行動として食事を変えた」場合にのみ再発率が下がった。
という点です。
つまり、食事を変えること自体には意味があり得るが、
それを 継続して実践するかどうか が大きな分かれ道になるといえます。

今回の研究でも推奨されていたように、日本の伝統的な食事、
いわゆる 和食 は健康的な食事パターンとして高く評価されています。
豆類や大豆食品、発酵食品(みそ・しょうゆ)、海藻類、魚を中心とした和食は、栄養バランスがよく、抗酸化作用や抗炎症作用のある成分も多く含まれています。
これらは生活習慣病の予防だけでなく、
がんの再発リスク低下にも寄与する可能性がある
と考えられています。
最後に強調したいのは、冒頭でも述べたように「正解は一人ひとり違う」ということです。
がんの種類や治療内容、体力やライフスタイルによって、取り入れられる食事の内容は大きく変わります。
重要なのは、無理なく続けられる範囲で「体に良いとされる食事」を取り入れ、
自分自身の体調や生活に合った形に調整することです。
「がんになってから食事を変える意味はあるのか?」という問いに対して、現時点では万人に当てはまる明確な答えはありません。
しかし、イタリアの乳がん患者を対象とした研究では、
食事をしっかりと改善した人では再発リスクが41%低下した
という結果が報告されました。
つまり、食事を変えること自体に意味がある可能性は十分にあり、特に和食のような伝統的で健康的な食事は、がん患者さんの予後に良い影響を与えるかもしれません。
結論として、
「がんになってからの食事の工夫には意味がある。
ただし、その効果は患者さんごとに異なる」
ということになります。
これからも最新の研究結果に注目しながら、無理のない範囲で、自分に合った
健康的な食事を取り入れていくことが大切です。