膝の裏側に、ある日ふと気がつくと柔らかいコブのようなものができている──。患者さんが外来を受診する理由の中で、意外に多いのがこの症状です。特に中高年の女性に多くみられ、「悪い腫瘍ではないか」と不安になって来院される方が少なくありません。この膝の裏のコブの正体が「ベーカー嚢腫(のうしゅ)」です。今回は、このベーカー嚢腫について、その仕組みや原因、診断方法、治療の考え方を丁寧に解説していきます。

ベーカー嚢腫とは、膝の裏にできる袋状の腫れで、中には関節液(滑液)が溜まっています。表面から触ると柔らかく、握り拳ほどの大きさになることもあります。腫瘍のように見えるため驚かれる方も多いのですが、がんなどの悪性腫瘍ではなく、膝関節の構造に由来する良性の変化です。
ベーカー嚢腫を理解するためには、まず膝の関節の構造を知っておく必要があります。膝は太ももの骨である大腿骨と、すねの骨である脛骨、そしてその外側にある腓骨で構成され、前面には膝蓋骨(いわゆるお皿の骨)が存在します。これらの骨同士が関節を形成し、さらに周囲を筋肉や靭帯が支えています。
膝の動きを滑らかにする役割を果たすのが「滑液包」と呼ばれる小さな袋です。滑液包には大きく2つの役割があります。
膝を曲げ伸ばしすると、関節包の中の圧力は上下します。圧が高まるたびに関節液は後方の滑液包に流れ込みます。この動きが繰り返されることで、膝の裏側にある滑液包が次第に膨らみ、大きな袋のように成長してしまうのです。これがベーカー嚢腫の正体です。
MRI画像で確認すると、膝の裏に白っぽく写る袋状の影が見えます。これは関節液が溜まっていることを示しており、診断の大きな手がかりになります。大きい場合には拳ほどのサイズになり、皮膚の下に目立つしこりとして触れるようになります。

ベーカー嚢腫には以下のような特徴があります。
ベーカー嚢腫は良性であり、がんなどの心配はありません。多くの場合は無症状で、見た目や触った感触から不安になって病院を受診されます。痛みや強い不快感がなければ、治療を行わずに様子をみるのが一般的です。
ただし、まれに膝関節の炎症や関節リウマチ、変形性膝関節症といった病気に伴って発生することもあります。その場合は、嚢腫そのものよりも、背景にある関節の病気への対応が重要になります。
症状が強いときには、穿刺して中の液体を抜いたり、場合によっては手術で嚢腫を取り除くこともありますが、再発することも少なくありません。そのため、ほとんどのケースでは保存的に経過を見ていきます。

ベーカー嚢腫は、膝の裏にできる柔らかいコブのような腫れで、滑液包に関節液が溜まって生じます。
つまり「膝の裏に袋ができる病気」ではありますが、心配する必要はあまりありません。大切なのは、このコブが悪性腫瘍ではなく、膝の仕組みによって自然に起こる現象だと理解することです。もし不安があれば整形外科で検査を受け、説明を受けて安心されると良いでしょう。
膝の健康は日常生活の快適さに直結します。ベーカー嚢腫について正しい知識を持ち、不安に振り回されないことが大切です。