最も安上がりな「がん予防法」その2:理想的な睡眠時間とは

がん予防のための理想的な睡眠時間とは?

私たちが毎日欠かさず行っている「睡眠」。これは単なる休息の時間ではなく、心と体の健康を守るために欠かせない大切な営みです。疲れを取ったり気分を整えたりするだけでなく、病気を防ぐ働きもあるといわれています。その中でも近年注目されているのが、「睡眠とがんとの関係」です。

実は、睡眠不足が体に悪いことはよく知られていますが、逆に「寝すぎ」もまた健康に悪影響を与える可能性があることが研究から分かってきました。では、一体どのくらい眠るのが理想的なのでしょうか。今回は、睡眠時間とがんのリスクについての研究結果を紹介しながら、がん予防のために心がけたい睡眠の取り方について考えてみたいと思います。

睡眠時間とがんリスクの関係

睡眠時間とがんリスクの関係

海外で行われた大規模な研究によると、平均的な睡眠時間である6~9時間眠っている人たちに比べ、睡眠が6時間未満と短い人は大腸がんになるリスクが約2倍に増えることが分かりました。さらに驚くことに、9時間以上眠る人ではそのリスクが約3.8倍にも上昇していたのです。

また女性を対象とした調査では、7~9時間眠る人に比べ、長く眠る人は乳がんや子宮体がん、卵巣がんといった女性ホルモンに関係するがんのリスクが22%も高くなるという結果も出ています。

加えて、睡眠が不規則な人にも注意が必要です。夜勤や交代制勤務などで生活リズムが乱れてしまうと、乳がんをはじめとした性ホルモンに関連するがんの発症率が高くなることが報告されています。これは日本国内の研究でも同様の結果が出ており、特に日本人女性を対象とした追跡調査では、6時間以下しか眠らないグループは7時間眠るグループに比べ、乳がんのリスクがおよそ60%も高くなることが分かっています。

つまり、睡眠は「短すぎても長すぎても」体に負担を与え、がんのリスクを高めてしまうのです。

なぜ睡眠時間でがんのリスクが変わるのか?

では、なぜ睡眠時間によってがんのリスクが増えたり減ったりするのでしょうか。実はその理由はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの仮説が提唱されています。

まず注目されているのが「メラトニン」というホルモンです。メラトニンは夜眠っている間に分泌され、体内時計を整えたり眠気を誘ったりする働きがありますが、同時にがん細胞の増殖を抑える作用があるといわれています。特に女性ホルモンの分泌を抑える効果があるため、乳がんなど女性特有のがんを防ぐ可能性があると考えられています。睡眠不足だとメラトニンが十分に分泌されず、がんのリスクが高まるのではないかとされています。

一方で、長く眠りすぎると別の問題が生じます。長時間の睡眠は、体内の炎症を促す物質を増やし、がん細胞が育ちやすい環境をつくってしまうことがあるのです。さらに、長時間の睡眠は「コルチゾール」というホルモンの分泌を増やし、肥満のリスクを高めるといわれています。肥満自体もがんの大きな危険因子ですから、寝すぎもまた注意が必要なのです。

睡眠と筋肉量の関係 ― サルコペニアとのつながり

睡眠時間は、がんそのものだけでなく、がんと闘うための「体力」にも影響を与えることが分かってきました。その鍵を握るのが「サルコペニア」と呼ばれる筋肉の減少です。

年齢を重ねたり病気をしたりすると筋肉量が落ちてしまうことがありますが、この状態になると体力が低下し、治療を受けても回復が遅くなるなど不利な状況に陥りやすくなります。研究によると、サルコペニアは睡眠時間とも深く関わっているようです。

1万7千人以上を対象にした複数の研究をまとめたデータでは、6~8時間眠る人たちと比べて、6時間未満しか眠らない人はサルコペニアのリスクが70%以上も増えていました。さらに、8時間以上眠る人もリスクが50%以上増えていたのです。

つまり、筋肉の減少に関しても「睡眠不足」と「寝すぎ」の両方がリスクとなることが示されています。

理想的な睡眠時間は?

理想的な睡眠時間は?

では、がんを防ぐためにはどのくらい眠るのが良いのでしょうか。これまでの研究を総合すると、6~8時間の睡眠がもっとも理想的であると考えられています。

特に、日本人約10万人を15年近く追跡した研究によれば、がんに限らずすべての病気や事故による死亡率が最も低かったのは「7時間眠る人」でした。短すぎず長すぎない、ちょうど良いバランスの睡眠が健康に直結していることが分かります。

もちろん、人によって必要な睡眠時間は違います。体質や年齢、日中の活動量によっても適した時間は変わりますが、目安として7時間前後を心がけるのが良いといえるでしょう。

睡眠の質を高める工夫

睡眠の質を高める工夫
睡眠時間だけでなく、「質」も大切です。同じ7時間でも、ぐっすり眠れた7時間と、何度も目が覚める7時間では効果がまったく違います。

睡眠の質を高めるためのポイントをいくつか挙げてみます。

  1. 寝る前のスマホ・パソコンを控える
     強い光はメラトニンの分泌を妨げ、眠気を遠ざけます。就寝前は画面から離れ、落ち着いた時間を過ごしましょう。
  2. 規則正しい生活リズムを保つ
     毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きることで体内時計が整い、自然と眠りにつきやすくなります。
  3. 適度な運動を取り入れる
     軽い運動は深い眠りを促します。ただし寝る直前の激しい運動は逆効果なので注意が必要です。
  4. 寝室の環境を整える
     暗く静かで快適な温度の寝室が理想です。寝具も体に合ったものを選ぶと眠りやすくなります。

まとめ

睡眠は、ただの休養ではなく、体を守る大切な武器でもあります。睡眠不足はもちろん、寝すぎもまたがんや筋肉量の減少につながり、健康を損なう要因となることが分かってきました。

数々の研究から見えてきた理想の睡眠時間は「6~8時間」、特に「7時間前後」。これはがんをはじめとした病気の予防や、体力を保つためにも最適な目安といえるでしょう。

毎日の眠りを大切にし、短すぎず長すぎないバランスのとれた睡眠を意識すること。それが、がん予防の第一歩になるのです。