今回は、APD(聴覚情報処理障害)に関連する脳の5つの働きについて詳しく解説します。
耳そのものの聴力には異常がないのに「聞き取りづらい」と感じることがある方は、ぜひ読み進めてみてください。
原因が分からず、職場やプライベートでストレスを感じている方もいらっしゃるかもしれませんね。「もしかしたら」と思う方には、APDの原因を深掘りし、対策を一緒に考える機会にしていただければと思います。
結論から言うと、「脳が音声を処理する際に必要な要素のうち、どれか1つでも欠けるとAPDの症状につながる」ということです。
この記事では、これら5つの要素を一つひとつ丁寧に紐解きながら、聞き取る力を向上させるための具体的な対策もご紹介します。

聞き取る力は耳だけではなく脳の働きによって支えられています。この脳の働きには5つの要素が関係しており、それぞれがスムーズに機能することで、私たちは相手の話を正確に理解することができます。では、その5つの要素について詳しく見ていきましょう。
日常生活には、無数の音が存在します。オフィスのざわめきや外を走る車の音、エアコンの低い機械音など、どこにいても音が溢れていますよね。その中で、例えば上司が「〇〇さん」と名前を呼んだとき、意識的に注意が向く現象があります。これが注意を集中させる力です。
しかし、この注意には以下の4種類があり、この4種類のうちどれか1つでも欠けていると、聞き取りにくさが生じる可能性があります。
• 持続的注意:特定の対象に長時間注意を向け続ける力です。これが弱いと、長い話や複雑な説明を聞き取るのが難しくなります。
• 選択的注意:騒がしい環境の中で、必要な音や声だけを聞き取る力です。皆さん、カクテルパーティー効果ってご存じですかね?1953年に心理学者のコリン=チェリー氏によって提唱されたもので、パーティーのような誰が何を言っているのかわからないくらい騒がしい場所でも、自分の名前が呼ばれると聞こえる効果について名付けられました。選択的注意が弱いとこのようなカクテルパーティー効果が発動せず、必要な話が聞こえにくくなります。
• 分配的注意:複数の話者や情報に同時に注意を向ける力です。1対1の会話では何も不都合はないのですが、3人以上の会話になると同時に複数の人の言葉に注意を払う必要があるので、聞き取りにくくなります。
• 注意の転換:一つの話題から別の話題に素早く切り替える力です。急な質問や話題転換が苦手な人は、この能力が不足している可能性があります。
次に重要なのが、「ワーキングメモリ(作業記憶)」です。
「アメリカ合衆国の初代大統領は?」と問われると、「ジョージ=ワシントン」と記憶している方が多いと思います。ワーキングメモリはこのような記憶とは別者です。
ワーキングメモリは、聞いた情報を一時的に記憶し、必要な情報を選び出す能力を指します。
例えば、上司が「今日、月1回の定例会議だったよね。今、確認したら、今回の定例会議は13時から始まるから、今日の11時までに会議の資料を10部印刷してホチキスで留めておいてね」と指示したとします。
この中で仕事をする際に必要な情報(会議時間、資料の数、締切)は、「13時の定例会議の資料」「11時までに10部印刷」「ホッチキスで留める」です。
対して、「今日月1回の定例だったよね」とか「いま確認したら」は捨てても問題なく仕事がこなせる情報ですよね。
ワーキングメモリがうまく働くことで、聞いた情報を取捨選択しながら理解し、記憶し、覚えておくことができます。
ワーキングメモリが弱いと、次のような状況が起こりやすいです:
• 情報を整理できず、何を優先すべきか分からない。
• 話の後半になるほど混乱して、全体を把握できなくなる。
• 早口の人や、一度に多くの指示を受けると、対応が難しい。
知らない言葉や専門用語が含まれると、それだけで理解が難しくなります。
例えば、あなたが寿司屋の新人アルバイトだと想像してください。店長から「アニを持ってきて」と言われたら、戸惑いませんか?
実はこれは業界用語で先に使う材料または古い材料を指しています。ネタとしては古い、年上ということで兄と呼ぶのです。
このように、語彙力や背景知識の不足も、聞き取れない原因の一つです。
また、同じ日本語でも地域ごとの方言や訛りが聞き取りにくさを引き起こすことがあります。特に職場などで新しい業界用語や専門用語に直面する場合、理解が追いつかず、話の全体像を見失いがちです。
睡眠不足や疲労が蓄積していると、脳の覚醒水準が低下します。これが集中力や注意力に影響を与え、聞き取りにくさの原因になります。
実際、ある研究によれば、APDの主訴で来院した成人のうち睡眠障害は全体の5%というデータもあり、脳の覚醒水準が影響している可能性が高いと指摘されています。
最後に、推測する力です。知らない単語が出てきたり聞き漏らしたりしたときに、その部分を文脈や状況から補い、意味を推測する能力が欠けていると、会話の全体像を理解するのが難しくなります。
例えば、方言や訛りが強い話し方に対応するには、この推測力が必要です。
一方、カタカナ語やビジネス用語が頻繁に使われる場面では、文脈から推測することが難しくなることもあります。たとえば、「その日は繁忙期だから、その店舗に8人くらいアサインしておいて」などの指示が突然出ると、「アサイン」の意味が分からず戸惑ってしまうかもしれません。
APDの対策としてお勧めなのが、ラジオを聴くトレーニングです。ラジオは音声のみで情報を得るツールのため、聞き取る力を集中的に鍛えることができます。
映像がない分、聞き取ることに集中せざるを得ない状況を作り出せるのが特徴です。
最初は3日に1回ぐらいからでいいので、好きなラジオ番組を選び、内容を追いかける習慣をつけましょう。慣れてきたら、ニュースや討論番組など、聞き取りに挑戦が必要なコンテンツに挑戦すると効果的です。

APDに影響する脳の5つの要素:
1.注意(集中力)
2.記憶(ワーキングメモリ)
3.知識(語彙力)
4.覚醒水準
5.推測(理解力)
以上が、脳が聞き取る仕事をするときに必要な5つの要素の紹介でした。おそらく、何か一つだけかけていた方よりも、2つ3つ複合的に欠けていたと感じる方が多いのではないかと思います。
APD症状でお困りの方はそれぞれの背景によってもかけている要素、そして因果関係も異なります。
聞き取りづらさを感じたら、これらのどれが欠けているのか振り返ってみてください。
改善のためには、ラジオを活用したリスニングトレーニングを取り入れるのも一つの方法です。自分のペースで少しずつ継続し、聞き取りの力を高めていきましょう。
また、APD当事者同士が交流し、情報を共有できるコミュニティもあります。例えば、「APD Peer Support」が運営するオープンチャットでは、匿名で参加し、悩みや対策について話し合うことができます。一人で悩まず、他の方の経験を参考にしてみてください。
いかがでしたでしょうか?聞き取れない理由やその背景が少しでも明確になり、解決のヒントが得られたなら幸いです。