みなさんは「脂肪肝」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
名前からなんとなくイメージできるかもしれませんが、これは肝臓に余分な脂肪がたまってしまう状態のことをいいます。肝臓が脂肪でぎゅうぎゅうに詰まった状態になるため、まるで「フォアグラ」のようになると例えられることもあります。
脂肪肝の主な原因は、食べすぎ・飲みすぎ・運動不足といった生活習慣です。エネルギーとして使いきれなかった糖や脂肪が体の中で中性脂肪となり、肝臓に蓄積することで起こります。
ここで怖いのは、脂肪肝になっても自覚症状がほとんどないということです。痛みや不調を感じることなく進んでいくため、多くの人が健康診断の血液検査で「肝臓の数値が悪い」と指摘されて初めて気づきます。つまり、知らないうちに進行してしまう「サイレントキラー(静かな殺し屋)」のひとつといえるのです。

脂肪肝は特に太っている人に多くみられます。体格を示す数値であるBMI(体格指数)が増えるにつれて、脂肪肝を持つ人の割合もどんどん高くなります。実際、BMIが30を超える人では、男女ともに約8割が脂肪肝だといわれています。
しかし「脂肪肝=太っている人だけの問題」ではありません。痩せていても生活習慣によっては脂肪肝になることがあり、誰にとっても無関係ではないのです。
脂肪肝は大きく分けて2つのタイプがあります。
1つは「アルコール性脂肪肝」。これは文字通り、お酒を飲みすぎることで肝臓に脂肪がたまってしまうタイプです。
もう1つは「非アルコール性脂肪肝」。お酒をあまり飲まない人でも発症する脂肪肝で、近年特に注目されています。
なぜなら、この「非アルコール性脂肪肝」が進むと肝臓に炎症を起こし、さらに悪化すると「肝硬変」や「肝臓のがん」にまでつながることがあるからです。この流れは世界的に問題視されており、実際にウイルス性肝炎による肝がんが減る一方で、脂肪肝が原因の肝がんは増えているといわれています。
さらに恐ろしいことに、脂肪肝は肝臓だけの問題ではありません。近年の研究では、胃や大腸、すい臓、胆のうなど他の臓器のがんリスクまで高めることがわかってきたのです。

2024年6月、医学誌「J Clin Oncol」に韓国の大規模な研究が報告されました。これは20歳から39歳の若い成人、なんと500万人以上を対象に行われたものです。
研究では、参加者に採血などの健康診断を受けてもらい、その結果をもとに「脂肪肝の可能性」を評価しました。本来であれば肝臓の組織をとって調べる精密検査や超音波検査が必要ですが、症状のない若者に行うには負担が大きいため、今回はより簡単な「脂肪肝指数」という指標を用いました。
脂肪肝指数は、中性脂肪、肝臓の酵素値(γ-GTP)、BMI、腹囲の4項目から計算されます。数値が高ければ高いほど脂肪肝のリスクが高いとされ、
という目安が示されています。実際、日本循環器予防学会のサイトでは自分の数値を入力するだけで簡単にチェックできます。
ちなみに、私自身も健康診断のデータを入力してみたところ「18.58」という数値が出て、一応脂肪肝の可能性は低いという結果でした。
研究チームは、脂肪肝指数が30以上の人を「非アルコール性脂肪肝」と定義し、お酒をよく飲む人は除外しました。そしてその後、長期的に追跡して脂肪肝のある人とない人とで、50歳未満で発症する消化器のがんリスクを比較したのです。
結果は驚くべきものでした。
非アルコール性脂肪肝がある人は、そうでない人に比べて 消化器系のがん全体のリスクが16%も増加 していたのです。しかも時間が経つほどにリスクは高まっていきました。
がんの種類ごとに見ると、
という結果でした。数字からもわかるように、脂肪肝は肝臓だけの問題ではなく、他の消化器にも広く影響を与える可能性があることが示されたのです。
非アルコール性脂肪肝はがんのリスクだけではありません。動脈硬化を進め、心臓や脳の血管の病気の原因にもなります。最悪の場合、命にかかわる事態を招くこともあります。
自覚症状がないまま進んでしまい、気づいたときには手遅れになっていることもある――まさに「サイレントキラー」と呼ぶにふさわしい病気です。
ここまでの話を聞いて「ちょっと怖い」と感じた方もいるかもしれません。ただ、脂肪肝は早めに気づけば生活習慣の改善で十分に良くすることが可能です。
こうした日々の心がけが、脂肪肝の改善につながります。もし健康診断で「肝機能がよくない」と言われた場合や、心配な数値が出たときには、早めにかかりつけ医で相談することをおすすめします。

脂肪肝は、自覚症状がほとんどなく進行する「サイレントキラー」です。とくにお酒を飲まない人でも起こる「非アルコール性脂肪肝」は、肝臓だけでなく、胃・大腸・すい臓・胆のうなど幅広いがんのリスクを高めることがわかってきました。
「まだ若いから大丈夫」と思っていても、研究では20代や30代でもリスクが上がることが示されています。
気づかないうちに進行し、命に関わる病気につながる脂肪肝。だからこそ、健康診断の結果に耳を傾け、日々の生活習慣を少しずつ整えることが大切です。
自分の体を守るのは、毎日のちょっとした積み重ね。食べ方や運動、休養のバランスを見直し、肝臓に余計な負担をかけない生活を心がけましょう。