リバース型人工肩関節の話【医師によるわかりやすい解説】

リバース型人工肩関節の話【医師によるわかりやすい解説】

本日は「リバース型人工肩関節」についてお話ししたいと思います。
その前に、まずは人工関節とは何かを簡単におさらいしておきましょう。

人工関節とは

人工関節とは

人工関節とは、関節の変形や損傷によって痛みや動きの制限が強くなった際に、傷んだ関節の一部を人工の部品に置き換える手術のことを指します。最もよく知られているのは「人工股関節」や「人工膝関節」で、これらは日本国内でも毎年20万人以上の方が受けている非常に一般的な手術です。

股関節を例にとると、太ももの骨である大腿骨の先端には「骨頭」と呼ばれる丸い部分があります。これが骨盤のくぼみにはまり、滑らかに動くことで脚の動きを支えています。しかし、この骨頭や骨盤のくぼみが変形してしまうと痛みや可動域の制限が起こるため、これを人工の金属や樹脂のパーツに置き換えるのが「人工股関節置換術」です。

同じように、膝関節でも骨の表面を金属や樹脂で覆い、スムーズな動きを取り戻すのが「人工膝関節置換術」です。これらは高齢者を中心に広く行われており、痛みを取り除き、歩行や生活動作を改善する効果があります。

人工肩関節とは

これに対して、肩関節の人工関節手術は実施件数こそ少ないものの、同様の目的で行われます。肩関節は、上腕骨(腕の骨)の先端が丸い「骨頭」となっており、これが肩甲骨のくぼみにはまることで滑らかな動きを生み出します。

人工肩関節では、この上腕骨の骨頭部分を金属製の骨頭に置き換え、さらに肩甲骨側のくぼみに合うように人工のソケット(受け皿)をはめ込むことで、関節の形状を再現します。いわば、壊れた関節を人工のパーツに入れ替えて、正常な関節の動きを取り戻す手術というわけです。

ここで重要なのは、人工関節手術というのは「変形した骨を人工の部材に置き換える」ことを目的としている点です。このことが、のちに説明するリバース型人工関節の理解にもつながっていきます。

リバース型人工肩関節とは

さて、今回のテーマである「リバース型人工肩関節」についてです。
通常の人工肩関節は、上腕骨の先に丸い骨頭を入れ、肩甲骨側にくぼみを設けるという構造でした。しかし、リバース型人工肩関節ではその構造がまったく逆になっています。

すなわち、肩甲骨の端に「丸い金属の骨頭」を取り付け、上腕骨側には「くぼみのある部材」を入れ込むという、まさに“逆転(リバース)”の構造になっているのです。
まるで野球のピッチャーとキャッチャーが入れ替わったような関係だと考えると分かりやすいかもしれません。それほど、通常の人工肩関節とはまったく異なる仕組みなのです。

なぜこのような「逆転構造」にするのか

それでは、なぜこのような特殊な構造が必要になるのでしょうか。
その理由は、「腱板断裂(けんばんだんれつ)」という病気にあります。

肩の関節は多くの筋肉で支えられていますが、その中でも関節のすぐ外側を取り囲む4枚の薄い筋肉(腱板)が非常に重要な役割を果たしています。腱板は肩の安定性を保ち、腕を上げたり回したりする際に働いているのです。

しかし、加齢や外傷によってこの腱板が骨から剥がれてしまうことがあります。これを腱板断裂といい、軽度の場合は部分的な断裂ですが、重症になると前後上下すべての腱板が切れてしまう「広範囲断裂」となります。

このような状態になると、腕を自力で上げることができなくなってしまいます。
また、腱板が完全に切れてしまうと、手術で縫い合わせることも難しくなります。そこで開発されたのが、この「リバース型人工肩関節」です。

リバース型人工関節の目的と仕組み

リバース型人工関節では、腱板が働かなくても腕を上げられるように、関節の構造を逆転させています。
肩甲骨側に丸い骨頭を、上腕骨側にくぼみを配置することで、三角筋という大きな筋肉がより有効に働くようになり、腱板の代わりに腕を挙げられるようになるのです。

つまり、この手術は「切れた腱板を修復する手術」ではなく、「腱板がなくても腕を上げられるようにする手術」なのです。
腕を上げる機能に特化した手術といえるでしょう。

適応となる患者

適応となる患者

リバース型人工肩関節は、主に以下のような患者さんに適応されます。

  1. 腱板の広範囲断裂(全断裂)で、修復が困難な場合
  2. 重度の骨折で肩関節の形が崩れてしまった場合
  3. リウマチなどで骨や軟部組織が大きく変形してしまった場合

これらのケースでは、従来の人工肩関節では十分な効果が得られないため、リバース型が選択されます。

手術の効果と利点

リバース型人工関節の最大の利点は、「上がらなかった腕が再び上げられるようになる」という点です。
腱板が切れてしまっても、三角筋をうまく利用して腕を上げることが可能になるため、日常生活の動作を大きく改善できる可能性があります。

たとえば、髪をとかす、食事をする、服を着るなど、これまで困難だった動作ができるようになることも多く、患者さんにとっては大きな福音となる手術です。

一方で注意すべき点も

ただし、この手術にはいくつかの制限や注意点もあります。
リバース型人工関節は「腕を上げる」動きには効果がありますが、「内外旋(ないがいせん)」、すなわち腕を体の内側・外側に回す動きは制限されることがあります。

この内外旋の動きは、本来は腱板が主に担っているため、腱板が機能しない状態ではどうしても動かしづらくなってしまうのです。
そのため、術後も「腕を上げることはできても、細かな回旋動作は苦手」という方が多く、手術前に十分な理解と説明が必要です。

手術を受ける際に大切なこと

リバース型人工関節は、決してすべての肩の病気に適応されるわけではありません。
どのような動作を重視するのか、日常生活で何が困っているのかをしっかりと医師と相談し、手術の目的と限界を理解した上で判断することが大切です。

腕を上げられるようになることが最優先であれば、この手術は非常に有効です。
しかし、内外旋の動きを必要とするスポーツや細かい作業を重視する方にとっては、満足度が下がることもあるため、個々の生活スタイルに合わせた選択が求められます。

まとめ

リバース型人工肩関節は、腱板断裂の重症例などで従来の方法が適応できない患者さんに対し、腕を再び上げられるようにするために開発された革新的な手術です。
関節の構造をあえて“逆転”させることで、三角筋の働きを最大限に引き出し、失われた機能を補うことができます。

一方で、肩の回旋動作には制限が残るため、手術の目的や期待する動きを医師とよく話し合うことが重要です。

このように、リバース型人工関節は「腕を上げる」ことに特化した手術として、これまで治療の難しかった腱板断裂患者に新たな選択肢をもたらしています。肩の痛みや動きの制限でお困りの方は、専門医に相談してみるとよいでしょう。