今回は、ある男性のお話をしたいと思います。
その方は、これまでに3つのがんを乗り越えた「がんサバイバー」です。現在80代ですが、今でも元気に外来に通い、笑顔で近況を話してくださいます。
がんを一度治しただけでもすばらしいことですが、3回も克服するのは本当にまれです。
では、どうしてこの方は何度もがんを乗り越えることができたのでしょうか?
今回は、その「秘訣」について考えてみたいと思います。

最初のがんが見つかったのは、今から10年以上前のことでした。
ある日、トイレで「尿の色が紅茶のように濃い」と気づいたのがきっかけだったそうです。気になって病院を受診したところ、体の中で胆汁(たんじゅう)という液体の流れが悪くなっていることが分かり、その原因を調べた結果、十二指腸の出口付近にできたがんが見つかりました。
当時すでに70代でしたが、持病もなくとても元気でした。主治医と相談のうえで大きな手術を受けることを決意され、無事に成功。術後の回復も順調で、退院後は以前と変わらない生活に戻られました。
ところが、最初の手術から約1年後、定期検査で撮ったCT画像に「肺に小さな影」が写っているのが見つかりました。念のために詳しく調べてみると、今度は肺にがんができていたのです。
幸い、早い段階で見つかったため、胸に小さな穴をあけてカメラを入れる方法で、肺の一部を切除する手術を行いました。傷も小さく、体への負担も少ない方法でした。こちらも無事に終わり、再び元気を取り戻されました。
2度のがん治療を乗り越えてから10年以上、Aさん(仮名)は再発もなく元気に過ごしていました。ところがある日、定期的に受けていた血液検査で「腫瘍マーカー」と呼ばれる値が上昇していることが分かりました。
これまで治した2つのがんが再発したのではないかと心配されましたが、詳しく検査すると、別の場所――大腸に新しいがんができていることが分かりました。
幸い、こちらもごく初期の段階で見つかり、手術ではなく大腸カメラを使って、表面を削り取るようにして切除することができました。入院期間も短く、体への負担も少なく済みました。

このように、Aさんは80代という年齢にもかかわらず、3つのがんを乗り越え、最初の手術から10年以上たった今も、元気に暮らしておられます。
医学的には、がんがいずれも早い段階で見つかり、治療のタイミングがよかったこと、そしてがんそのものの性質が比較的おだやかだったことが大きいと考えられます。
しかし、私はそれだけではないと思っています。
むしろ、Aさんの生活習慣や考え方が、がんを克服する力につながったのではないかと感じています。
Aさんにお話をうかがう中で、「これが秘訣だな」と思ったことが3つありました。
まず一つ目は、「とにかく活動的であること」です。
Aさんは今でも毎日1時間ほど散歩をされています。ときには1時間以上歩くこともあるそうです。
背筋も伸びていて、見た目にはとても80代とは思えません。
手術のあとも、体調が落ち着くとすぐに散歩を再開されたそうです。
こうして日々体を動かしていたからこそ、次の治療を受けるときも十分な体力を保てたのでしょう。
どんなに医学が進歩しても、やはり「自分の体を動かす」ことほど確実な健康法はありません。
二つ目は「メンタル」、つまり心の持ち方です。
がんの宣告を受けると、誰でも落ち込みます。一度ならず、二度、三度も続けば、気持ちが折れてしまっても不思議ではありません。
しかしAさんは、どんなときも笑顔を絶やしませんでした。
もちろん、最初に病気を告げられたときはショックを受け、落ち込むこともあったそうです。けれども、治療の方針が決まると「やるしかない」と気持ちを切り替え、過去を引きずらない性格でした。
「心配しすぎても、良くなるわけじゃないですからね」と、穏やかに笑って話されるその姿が印象的です。
がんと向き合ううえで、こうした「前向きでおだやかな心」が何よりも大切だと感じます。

三つ目は「病院の定期受診を続けていたこと」です。
がんを経験した人は、別の場所に新しいがんができやすい傾向があります。そのため、治療が終わっても定期的な検査が欠かせません。
Aさんの場合も、最初のがんの経過観察のために受けていた検査がきっかけで、2つ目と3つ目のがんが見つかりました。どちらも、症状が出る前のごく早い段階でした。
もし検査を怠っていたら、発見が遅れていた可能性もあります。
「面倒だから」「元気だから」といって受診をやめてしまう方も少なくありませんが、Aさんの例は「続けることの大切さ」を教えてくれます。
まとめると、Aさんが3つのがんを乗り越えられた理由は――
この3つに尽きると思います。
どれも特別なことではありませんが、実際に続けるのは簡単ではありません。
Aさんはそれを何年も自然に続けてこられた。その積み重ねが、結果として大きな力になったのだと思います。
医療の進歩により、がんは「治らない病気」ではなくなりつつあります。
これからはAさんのように、人生の中で二度、三度とがんを経験しながら、元気に生活する人も増えていくでしょう。
大切なのは、がんを恐れすぎないこと。
治療を終えたあとも、自分の体を大切にし、心を健やかに保ち、定期的な検査を続けることです。
Aさんの姿からは、「がんを克服する力」は医療だけでなく、自分自身の生き方や心の持ち方にもある――そんな大切なメッセージを感じます。