頚椎人工椎間板の話 

頸椎人工椎間板置換術とは

〜新しい首の手術、その意義と課題〜

近年、「頸椎人工椎間板(けいついじんこうついかんばん)」という言葉を耳にする機会が少しずつ増えてきました。まだ一般にはなじみのない言葉かもしれませんが、これは首の骨(頸椎)に対して行われる新しい手術方法の一つです。文字通り、首の椎間板を人工の部品に置き換えるという治療法です。

では、これはどのような病気に対して行われるのか、従来の手術とは何が違うのか、そしてどのような利点や注意点があるのか。ここでは、頸椎人工椎間板置換術について分かりやすく解説していきましょう。

椎間板とは何か

椎間板とは何か

人間の背骨は、いくつもの小さな骨が積み重なってできています。その一つひとつの骨の間には「椎間板」と呼ばれるクッションのような軟骨組織が存在し、衝撃を吸収したり、首や背中のしなやかな動きを支えたりしています。

しかし、この椎間板が加齢や負荷によって変形・損傷し、神経を圧迫してしまうと、痛みやしびれ、筋力低下などの症状が現れます。これが、よく知られる「椎間板ヘルニア」や「頸椎症性神経根症」と呼ばれる疾患です。

手術が必要になる病気

手術が必要になる病気

1. 頸椎椎間板ヘルニア

椎間板の中の柔らかい部分が後方へ飛び出し、脊髄や神経根を圧迫する病気です。首や肩、腕にかけての痛みやしびれ、力が入りにくいなどの症状を引き起こします。

これまで行われてきた代表的な手術は「椎間固定術(ついかんこていじゅつ)」です。飛び出した椎間板を取り除き、その代わりに骨の塊(移植骨)を挟み込む方法で、最終的に上下の骨が一つの塊として癒合し、動かなくなります。神経の圧迫は解消される一方で、首の動きが部分的に制限されてしまうという欠点がありました。

2. 頸椎症性神経根症

こちらは、加齢によって首の骨の端に「骨棘(こつきょく)」と呼ばれる小さな突起ができ、それが神経を圧迫してしまう病気です。これも手や腕のしびれ、動かしにくさなどを引き起こします。

この場合も、従来は骨棘を削り取ると同時に椎間板を除去し、そこに骨を挟み込む椎間固定術が行われてきました。上下の骨をひとつに固定することで安定を得ますが、可動性は失われてしまいます。

頸椎人工椎間板置換術とは

こうした背景のもとに登場したのが、「頸椎人工椎間板置換術」です。これは、損傷した椎間板を取り除いたあとに、動きを保つことができる人工の椎間板を挿入する手術です。

手術の適応

次のような条件のもとで行われます。

  1. 椎間板ヘルニア、または骨棘による神経圧迫(頸椎症性神経根症・脊髄症)などの疾患。
  2. 首の7つの骨のうち、第3〜第7頸椎の間で、連続する2か所までが対象。
  3. 約3か月以上の保存的治療(薬やリハビリ)を行っても改善しない場合。

このような条件を満たす患者さんに対してのみ、人工椎間板の使用が認められています。日本では平成29年(2017年)に正式に承認され、現在は一部の専門施設で行われています。

人工椎間板の構造

人工椎間板は、一見すると複雑な構造に見えますが、基本的な仕組みはとてもシンプルです。

上の骨の下面と下の骨の上面にそれぞれ金属のプレートを取り付け、その間に「ポリエチレン」という特殊なプラスチック製のクッション材を挟みます。つまり「金属―ポリエチレン―金属」という三層構造になっています。

この構造は、膝や股関節の人工関節とほぼ同じ考え方に基づいており、金属とプラスチックの組み合わせでなめらかな動きを再現します。手術後も首の骨同士が動くことができるため、可動性をある程度保てるのが最大の特徴です。

この手術の利点と課題

利点

  • 椎間固定術のように骨を完全に固めないため、首の動きをある程度保てる。
  • 手術後も自然な首の動作に近い形で生活できる。
  • 隣接する椎間への負担が少なく、長期的に見てほかの部位の変性を防ぐ可能性がある。

課題・問題点

しかし、この手術にはまだ課題も多く残されています。

  1. 新しい治療であること
     日本で承認されたのは平成29年と比較的最近であり、長期的な成績についてはまだ十分なデータがありません。
  2. 欧米での経験
     実は、腰の部分に対する「腰椎人工椎間板」は2004年ごろから欧米で広く行われていました。しかし、ポリエチレンのクッション部分がずれてしまったり、摩耗・破損したり、さらには手術中に血管損傷などの合併症が起こる例も報告され、現在では欧米でも使用が減っています。頸椎でも同様の課題が懸念されており、今後の経過観察が必要とされています。
  3. 効果の差が小さい
     従来の椎間固定術と比較して、神経症状(しびれや運動障害)の改善度に大きな差はないという報告もあります。そのため、「可動性を保ちたいか」「長期安定性を重視するか」という点で、医師と患者が十分に話し合って選択することが大切です。

今後の展望と選択のポイント

今後の展望と選択のポイント

頸椎人工椎間板置換術は、従来の手術に比べて“動きを残す”という新しい発想のもとに生まれた治療法です。しかし、まだ登場してからの年月が浅く、長期的な安全性や耐久性には未知の部分もあります。

一方で、従来の椎間固定術も決して悪い手術ではありません。1か所を固定しても首全体では十分な可動域が保たれるため、日常生活での不自由はほとんどありません。

したがって、どちらの手術が「優れている」と一概に言うことはできません。重要なのは、自身の症状や生活スタイル、今後の希望などを主治医としっかり相談し、最適な方法を選ぶことです。

まとめ

頸椎人工椎間板置換術は、首の椎間板ヘルニアや頸椎症性神経根症などに対して行われる新しい外科的治療です。人工椎間板によって首の動きを保ちつつ、神経の圧迫を取り除くことを目的としています。

ただし、この手術はまだ新しく、長期的な結果や合併症のリスクについてはこれからの研究が待たれます。従来の椎間固定術と比較して劇的な差があるわけではないため、手術を受ける際には、それぞれの利点と欠点を理解したうえで選択することが大切です。

新しい医療技術の登場は、患者にとって選択肢が増えるという意味で大きな前進です。だからこそ、最新の情報を踏まえながら、自分にとって最も納得できる治療法を見極めていきましょう。