私たちが健康のために「運動をしましょう」と言われるとき、よく耳にするのが「有酸素運動」という言葉です。ジョギングやウォーキング、水泳、サイクリングなど、息を弾ませながら長時間続ける運動がこれにあたります。
では、「有酸素運動」とは、具体的にどのようなしくみで体を動かしているのでしょうか。今回は、人の体の中で行われているエネルギー生産の仕組みを通して、わかりやすく説明していきましょう。

「有酸素運動」という言葉だけ聞くと、「運動中に酸素を使う運動」という意味に思えます。確かに人は、どんな運動をしても呼吸をしていますし、酸素がなければ生きていけません。しかしここで言う「有酸素運動」とは、「筋肉がエネルギーをつくる過程で酸素を使う運動」を指しています。
つまり、ただ呼吸しているかどうかではなく、「エネルギーを作り出す仕組みの中に酸素が関わっているか」がポイントなのです。
人の体を構成するすべての細胞の中には、「ミトコンドリア」という小さな器官があります。これは、細胞の「発電所」とも呼ばれる存在で、ここで日々、生命活動に欠かせないエネルギーが作り出されています。
食事から摂った糖分や脂肪は、まず分解されて「ピルビン酸」などの物質になります。このとき、少量のエネルギーがすでに生まれますが、それだけでは筋肉を長く動かすには足りません。
その後、このピルビン酸や脂肪酸がミトコンドリアに運ばれ、酸素の力を借りて分解されることで、非常に多くのエネルギーが生まれるのです。このときに生まれるエネルギー源こそが、「ATP(アデノシン三リン酸)」です。ATPは、体を動かすための“燃料”ともいえる物質で、筋肉の収縮や脳の活動、内臓の働きなど、あらゆる生命活動に使われます。
ATPをわかりやすく言えば、「体内の電気のようなもの」です。火力発電所が石炭を燃やして電気を作るように、ミトコンドリアは糖や脂肪を“燃やして”ATPを作ります。
このATPは使うとすぐに分解されてしまいますが、その分、また次々と新しく作られるという循環が起きています。運動している最中、筋肉が繰り返し収縮を続けられるのは、このATPが絶えず生み出されているからです。

筋肉のエネルギーを作る仕組みには、主に二つのルートがあります。
1つ目は「酸素を使わずにエネルギーを作る」方法で、これは無酸素運動と呼ばれます。糖を急速に分解してエネルギーを生み出すため、短時間で大きな力を発揮できます。短距離走や筋トレ、バーベル運動などがこれに当たります。瞬発的な力を必要とする反面、長時間は続けられません。
2つ目が「酸素を使ってエネルギーを作る」方法、すなわち有酸素運動です。こちらはミトコンドリアの中で、糖と脂肪が酸素と結びついて大量のATPを生み出すルートです。この方法は時間をかけてゆっくりとエネルギーを作るため、長く続けられる運動に適しています。ジョギングやサイクリングなど、持久力を必要とする活動がこれに当たります。
有酸素運動が「脂肪燃焼に効果的」と言われるのは、このエネルギー生成の過程に理由があります。
体は、糖が十分にあるときにはまず糖を使ってATPを作りますが、長時間運動を続けて糖が減ってくると、今度は脂肪を分解してエネルギー源にします。つまり、有酸素運動をある程度の時間続けることで、脂肪が効率的に燃焼されるのです。
有酸素運動は、エネルギー生成の仕組みだけでなく、全身の健康にも多くの良い影響をもたらします。
まず、心臓や肺の働きが強化されます。長時間、酸素を取り込み続けることで心肺機能が向上し、酸素を全身に効率よく運ぶ力が高まります。また、血流が良くなるため、冷え性や肩こり、むくみの改善にもつながります。
さらに、脂肪が使われることで体脂肪率が下がり、肥満予防やダイエットにも効果的です。糖や脂肪を上手に燃やす代謝機能が整うことで、糖尿病や高血圧、動脈硬化などの生活習慣病の予防にもつながります。
心の健康にも良い影響があります。適度な有酸素運動を行うと、「セロトニン」や「エンドルフィン」と呼ばれる幸福ホルモンが分泌され、気分が安定しやすくなります。ストレス解消や睡眠の質の向上にも役立つといわれています。

効果を最大限に引き出すには、運動の「時間」と「強度」が大切です。
一般的に、ウォーキングや軽いジョギングなどを20〜30分以上続けると、脂肪の燃焼が本格的に始まります。最初の10分ほどは主に糖が使われ、その後に脂肪がエネルギー源として利用されるためです。
また、呼吸がやや弾む程度、会話ができるくらいのペースが理想的です。激しすぎる運動は無酸素運動に近づき、脂肪よりも糖が多く使われてしまうため、ダイエット効果を狙う場合は適度な強度を保つことがポイントです。
私たちの体は、見えないところで精密に働いています。酸素を使ってエネルギーを生み出すミトコンドリアの活動は、まさに生命を支える小さな発電所。有酸素運動は、その力を最大限に活かすための自然な方法なのです。
今日から少しずつ、自分のペースで呼吸を感じながら体を動かしてみましょう。きっと体も心も、軽く、明るく変わっていくはずです。