みなさんは「運動ががんに効く」と聞いたことがありますか?
最近では、がん患者さんが体を動かすことで治療の効果が上がる、あるいは再発のリスクが下がるという研究が次々と発表されています。
つまり「運動」そのものが、薬や手術と並ぶ“がん治療の一つ”になりつつあるのです。
とはいえ、これまでの研究は少し信頼性に欠けるという指摘もありました。
というのも、多くの研究は「観察研究」と呼ばれるもので、もともと元気で運動できる人と、体調が優れず運動していない人を比べているにすぎません。
つまり、「運動しているから健康」なのか、「健康だから運動できる」のかがはっきりしなかったのです。
しかし、2024年に発表された最新の研究が、この疑問に明確な答えを出しました。
それが「運動が本当にがんに効く」と科学的に証明された、画期的な研究です。

この研究は、2024年6月にアメリカの大きな学会で発表され、同時に世界的に有名な医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(NEJM)』にも掲載されました。
学会でのタイトルは「Movement is medicine」──つまり「動くことこそ薬である」。
この言葉の通り、運動が“治療”としての効果を持つことを示した内容だったのです。
研究の対象になったのは、手術で大腸がんを取り除き、その後に薬による治療(いわゆる抗がん剤治療)を終えた約900人の患者さんたち。
全員が手術後の経過は安定していましたが、再発のリスクはそれなりに高い人たちでした。
この患者さんたちを2つのグループに分けました。
1つ目は「運動プログラム」を3年間しっかり実践するグループ。
もう1つは「健康的な生活を心がけましょう」というパンフレットだけを渡され、自分のペースで過ごすグループです。

運動プログラムに参加した人たちは、トレーナーやコーチから定期的に指導を受けながら、週に3〜4回、1回45〜60分の運動を続けました。
運動の内容は、早歩き、ジョギング、水泳、自転車、スキー、カヤックなど。
自分に合った種目を選び、無理のない範囲で体を動かすというものでした。
単なる“軽い運動”ではなく、しっかりと計画を立てて、3年間継続して取り組んだという点が大きな特徴です。

3年後に両グループを比べてみると、運動をした人たちは「がんの再発」や「新たながんの発症」、「がんによる死亡」のリスクが大幅に下がっていました。
数字で見ると、運動した人たちはそうでない人たちに比べて、再発などのリスクが約28%も低かったのです。
つまり、運動することでがんの再発が3割近くも減ったということになります。
さらに、全体の「生存率」──つまりすべての原因による死亡リスクを比較しても、運動グループの方が37%も低かったという結果が出ました。
この効果は、一部の抗がん剤の効果にも匹敵する、あるいはそれを上回るほどのインパクトがあると言われています。
研究者たちも「ここまでの差が出るとは予想していなかった」と驚いたそうです。
もちろん、抗がん剤はがん細胞そのものを狙って攻撃する治療法です。
一方で運動は、免疫力を高めたり、血流をよくして体の回復を助けたり、ホルモンや炎症のバランスを整えたりと、体全体の働きをサポートする効果があります。
つまり、がんだけでなく「がんに負けにくい体」をつくるという点で、運動は“体にやさしい薬”といえるのかもしれません。
実際、この研究では運動による副作用も報告されましたが、その多くは筋肉痛や軽い関節の痛みなど、ごく軽いものでした。
薬のように重い副作用が出ることはほとんどなかったそうです。
現在、がんの治療といえば「手術」「薬(抗がん剤)」「放射線治療」が基本です。
でも今回の研究結果から、将来的には「第4の治療」として「運動療法」が正式に加わる可能性が出てきました。
もちろん、今回の研究は大腸がんの特定のステージに限ったものです。
すべてのがんに同じような効果があるとまでは言えません。
ですが、運動ががんの再発を防ぎ、長生きにつながるという確かな証拠を示した点で、医療の世界でも非常に注目されています。
とはいえ、「運動が体にいい」とわかっていても、実際に続けるのはなかなか難しいものです。
特に、治療後の体調が万全でない時期に無理をすると、逆に疲れをためてしまうこともあります。
大切なのは「少しずつでも続ける」こと。
例えば──
こうした小さな積み重ねでも、続けることで体の回復力や気分が変わってきます。
「体を動かす=生きる力を取り戻す」と考えてみると、運動はまさに自分でできる“自己治療”なのです。
実際に、最近は「がん患者さんのための運動法」を紹介する書籍や動画も増えています。
たとえば『がんにも勝てる長生き筋トレ』という本では、なぜ筋トレががんの予防や治療に効果があるのか、最新の研究をもとにわかりやすく解説しています。
体力を取り戻したい人や、再発を防ぎたい人にとって、無理なく続けられるヒントがたくさん載っています。
筋トレと聞くと「きつそう」と思うかもしれませんが、軽いスクワットやペットボトルを使った腕の運動など、自宅でできるものも多く紹介されています。
動画を見ながら行えるように工夫されているので、運動が苦手な人でも始めやすい内容です。

がん治療というと、多くの人は「病院で受けるもの」と思いがちです。
しかし、今回の研究はその常識を変えつつあります。
手術や薬だけでなく、自分の体を自分で動かすことが、再発を防ぎ、寿命を延ばすことにつながる。
つまり、運動は単なる“リハビリ”ではなく、“自分でできる治療”なのです。
もちろん、体調や年齢によってできる範囲は人それぞれです。
でも、「少しでも体を動かす」ことから始めてみる価値は十分にあります。
これからは、がん治療の一部として運動を取り入れる時代。
「動くことが薬になる」──その言葉の通り、今日からできる一歩を踏み出してみませんか。