脂肪は「がん」の敵か味方か?自分の脂肪でがん退治!

私たちの体に存在する「脂肪」は、健康の象徴にも、病の温床にもなり得る不思議な存在です。


ダイエットや生活習慣病の文脈ではしばしば悪者として扱われますが、近年の研究では、脂肪ががんの発生や進行に関わるだけでなく、逆に“がんを抑える力”を持つ可能性もあることが明らかになってきました。


果たして脂肪は、がんの敵なのか、それとも味方なのか――。今回はその二面性についてご紹介します。

◆ 脂肪ががんを助ける「味方」になるとき

◆ 脂肪ががんを助ける「味方」になるとき

2017年に科学誌『Nature』に報告された研究によると、転移性のがん細胞は脂肪をエネルギー源として利用していることが明らかになりました。がん細胞は通常、糖を主なエネルギー源としていますが、転移や増殖が盛んながんは、周囲の脂肪を取り込み、効率的に代謝して成長を早めるのです。

マウスを用いた実験では、高脂肪食を与えた群で腫瘍の成長速度が明らかに速くなり、人においても脂肪摂取量の多い人や内臓脂肪の多い人では、がんの発生率が高い傾向が示されています。


つまり、脂肪ががん細胞にエネルギーを供給する「味方」として働く場合があるのです。

このメカニズムの背景には、脂肪細胞とがん細胞の密接な“共存関係”があります。脂肪組織は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、さまざまなホルモンやサイトカイン(炎症性物質)を分泌する活発な組織です。これらの物質ががんの増殖や転移を促進することで、脂肪ががんの進行を後押ししてしまうのです。

◆ しかし、脂肪はがんの「敵」にもなり得る

ところが、近年の研究では、脂肪ががんの「味方」ではなく、むしろ「敵」として働く可能性が示されました。


2025年2月に『Nature Biotechnology』に掲載された注目の論文では、遺伝子操作によって改変した脂肪細胞を移植することで、がんの成長を抑えられたという報告がされています。

この研究で鍵を握るのが、「脂肪細胞の種類」です。脂肪細胞には、大きく分けてエネルギーを蓄える白色脂肪細胞と、エネルギーを消費する褐色脂肪細胞の2種類があります。

◆ 白色脂肪と褐色脂肪のちがい

白色脂肪細胞は、余ったエネルギーを脂肪として蓄積する働きを持っています。皮下や内臓の周囲に分布し、いわゆる「皮下脂肪」「内臓脂肪」と呼ばれるものです。飢餓状態ではこの脂肪を分解してエネルギーを放出しますが、現代のように栄養過多の環境では、過剰に蓄積して肥満や生活習慣病の原因になります。

一方、褐色脂肪細胞はまったく異なる性質を持っています。肩甲骨や腎臓の周囲などに分布し、寒さなどの刺激に反応してカロリーを燃焼し、熱を産生する「エネルギー消費型の脂肪」です。


この熱産生の中心的な役割を担うのが、「UCP1(脱共役タンパク質1)」というミトコンドリア内の遺伝子です。UCP1は、脂肪を燃やして熱を生み出す際に活性化されます。

近年では、白色脂肪をベージュ脂肪と呼ばれる“中間型”の脂肪へ変化させる研究も進んでおり、遺伝子操作や寒冷刺激によって白色脂肪を褐色化できることがわかっています。

◆ 「褐色脂肪細胞」ががんを抑える

◆ 「褐色脂肪細胞」ががんを抑える

では、この褐色脂肪細胞がどのようにがんを抑えるのでしょうか。
前述の研究では、まず人のがん細胞をマウスに移植し、腫瘍を形成させました。その後、遺伝子操作によってUCP1を強く発現させた脂肪細胞を褐色脂肪細胞へと変化させ、3次元培養したものを同じマウスに移植しました。

すると、褐色脂肪細胞を移植したマウスでは、腫瘍の増殖が明らかに抑制されたのです。乳がん、膵臓がん、前立腺がんなど、複数のがんモデルで同様の結果が得られました。
さらに、乳がんの発生を遺伝的に誘導したマウスにおいても、褐色脂肪を乳腺や背中に移植すると腫瘍の成長が抑えられることが確認されました。
つまり、体のどこに褐色脂肪細胞が存在しても、がんの進行を抑制できる可能性があるというのです。

◆ 自分の脂肪でがんを治す時代へ?

さらに興味深いのは、ヒト由来の実験結果です。乳がん患者から採取したがん組織をマウスに移植し、同じ患者の乳腺由来の脂肪細胞を遺伝子操作で褐色化させて移植したところ、腫瘍の成長が抑えられたのです。

この結果は、将来的に「自分の脂肪を利用したがん治療」が可能になるかもしれないという期待を生みました。


患者自身の脂肪を採取し、それを遺伝子操作で褐色脂肪に変えてから自家移植することで、がんの進行を抑える――そんな個別化医療が現実になる日も遠くないかもしれません。

もちろん、これはまだ動物実験段階の研究であり、臨床応用には安全性や再現性など多くの課題が残されています。しかし、「脂肪=悪」というこれまでの常識を覆す重要な発見であることは間違いありません。

◆ まとめ:脂肪の二つの顔

◆ まとめ:脂肪の二つの顔

脂肪は、がんの「味方」にも「敵」にもなり得る、非常に興味深い存在です。
脂肪が過剰に蓄積すれば、がん細胞のエネルギー源となり、炎症やホルモンの変化を通じて発がんを促進します。


一方で、エネルギーを燃焼する褐色脂肪のような“活性型脂肪”は、がんの成長を抑える可能性を秘めています。

つまり、私たちが目指すべきは「脂肪をなくすこと」ではなく、“良い脂肪を育てること”なのかもしれません。


バランスの取れた食事や適度な運動、そして寒冷刺激などによって褐色脂肪を活性化させる生活習慣は、がんの予防にも役立つと考えられています。

脂肪は敵か味方か――答えは、「どのように付き合うか」にかかっているのです。