みなさんは「筋トレ」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか?
たくましい体をつくるための運動、若い人がするもの、あるいは美容やダイエットのための習慣――そんな印象があるかもしれません。
でも実は、筋トレはがんを防ぐ力を持っているということが、少しずつ明らかになってきています。
これまで多くのがん患者さんを見てきたなかで、私が強く感じているのは「筋肉がある人ほど病気に負けにくい」ということです。
筋肉は見た目だけでなく、体の中でさまざまな働きをしており、その力ががん予防にもつながっているのです。
そこで今回は、筋トレががんを防ぐ理由、実際にどのくらいの効果があるのか、そしてどのくらいの運動量がちょうどいいのか――この3つを中心にお話しします。

筋肉は、単に体を動かすためだけの組織ではありません。
筋トレをすると、筋肉から「マイオカイン」と呼ばれる物質が分泌されます。難しい言葉ですが、これはいわば体が自分でつくる天然の健康ホルモンのようなものです。
マイオカインには、血糖値を整えたり、脂肪を減らしたりといった生活習慣病を防ぐ働きがあります。
さらに最近では、このマイオカインの一部が、がんの成長を抑える力を持っていることも分かってきました。
つまり、筋トレをすると、体の中で“天然の抗がん成分”がつくられるというわけです。
また、筋トレをすると血液の中で免疫細胞が活発になります。
特に「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」と呼ばれる、がん細胞を攻撃する力の強い免疫が増えることが知られています。
この細胞は、体の中をパトロールしながら、異常な細胞を見つけて排除してくれる“ボディガード”のような存在です。
筋トレによってこの免疫が活発になることで、がん細胞ができたとしても早いうちに退治してくれる可能性が高まります。
さらに、筋トレには血糖値を安定させる働きもあります。
血糖値が高い状態が続くと、体は多くのインスリンというホルモンを分泌しますが、インスリンはがん細胞の成長を助けることが知られています。
筋トレをすることで糖の利用がスムーズになり、インスリンの分泌を抑えられるため、がんを育てにくい体づくりにつながるのです。
このように、
といった複数の面から、筋トレががんの予防に役立つことが少しずつ明らかになっています。
「理屈はわかったけれど、本当に効果があるの?」と思う方もいるでしょう。
実際に、筋トレとがんの関係を調べた大規模な研究がいくつかあります。
イギリスで8万人以上を対象に行われた研究では、週に2回以上筋トレをしている人は、そうでない人に比べて、がんで亡くなるリスクが31%も低かったという結果が出ています。
しかも、特別な器具を使った筋トレだけでなく、自宅で行う腕立て伏せやスクワットなどの“自重トレーニング”でも同じような効果が得られたとのことです。
つまり、ジムに通わなくても、自宅でできる範囲の筋トレで十分効果があるというわけです。
また、日本の研究でも、筋トレをしている人はがんによる死亡リスクが12%、すべての病気を含めた死亡リスクが15%低いという結果が報告されています。
研究の条件や対象によって数字は多少異なりますが、どの研究でも共通して「筋トレをしている人ほど健康で長生きしている」という傾向がみられました

では、がんを防ぐためにはどのくらい筋トレをすればいいのでしょうか?
「筋トレは多ければ多いほどいい」と思われがちですが、実はそうではありません。
日本の研究によると、筋トレの時間が週に30分程度の人が、最も死亡リスクが低かったという結果が出ています。
それ以上、たとえば週に130分を超えるような長時間の筋トレをしている人では、逆にリスクが高くなる傾向も見られたそうです。
つまり、がんを防ぐためには「やりすぎない」ことも大切。
“ほどほど”がベストということです。
週に30分といっても、1回15分を週に2回、または1回10分を週に3回でもOKです。
無理なく続けられるペースで取り組むことが一番大事です。
ここからは、特別な器具がなくてもできるおすすめの筋トレを3つ紹介します。
どれも簡単で、体力に合わせて強度を調整できます。
①腕立て伏せ
上半身を中心に鍛える定番のトレーニングです。
きつい場合は、膝をついたままでもOK。無理をせず、自分のペースでゆっくり行いましょう。
②フロントブリッジ(プランク)
体幹を鍛える運動です。うつ伏せの姿勢で、肘とつま先で体を支えます。
背中が反ったりお尻が上がったりしないように、体をまっすぐに保つのがポイントです。
最初は20秒でも十分です。慣れてきたら少しずつ時間を伸ばしましょう。
③スクワット
下半身の筋肉をしっかり使う運動です。
太ももやお尻の筋肉は大きく、鍛えることで代謝が上がり、血糖値のコントロールにも役立ちます。
膝や腰に不安がある方は、椅子を使って立ち座りを繰り返す“椅子スクワット”でもOKです。
これらを組み合わせれば、1回10~15分ほどでちょうどいい運動量になります。
朝の時間やテレビを見ながらなど、生活の中に無理なく取り入れてみましょう。

筋トレというと、若者やアスリートのためのものと思われがちですが、実際には年齢を重ねるほど大切な習慣です。
筋肉を保つことで体力が維持され、転倒や骨折の予防にもなります。
それだけでなく、血糖値やホルモン、免疫のバランスを整えることで、がんをはじめとする多くの病気のリスクを減らしてくれるのです。
とはいえ、無理をして毎日やる必要はありません。
ポイントは「ほどほど」「続けられる範囲で」です。
週に30分、少し息が上がる程度の筋トレをコツコツ続ける――それだけで、体は確実に変わっていきます。
がんを防ぐために、そして健康でいきいきとした毎日を過ごすために、
今日から「ほどほど筋トレ」を始めてみませんか?