近年、発達障害との関連性が指摘される「聴覚情報処理障害(APD)」が注目を集めています。
「上司の指示が頭に入ってこない」「雑音の多い場所で会話が聞き取りにくい」「長い話を聞き続けるのが難しい」といった経験はありませんか? これらは単なる「聞き間違い」や「注意力の問題」ではなく、APDという障害による可能性があります。
本記事では、聴覚情報処理障害(APD)について以下の観点から詳しく解説します。
ご自身や身近な方が「聞き取りづらさ」でお悩みの場合、この障害について知ることが困りごとや苦手感の軽減への第一歩となるかもしれません。

聴覚情報処理障害(APD)は「Auditory Processing Disorders」の略で、音としては聞こえているのに、その意味を理解するのが難しい状態を指します。
耳に問題があるわけではないのに、人混みの中や雑音の多い環境での会話が聞き取りづらいといった特徴があります。
通常、学校や職場で行う聴力検査(標準純音聴力検査)では「正常」と診断されるため、APDは見逃されやすい障害の一つです。そのため、日常生活に困難を抱えている方でも、自身の症状に気づかず「なぜ自分だけが聞き取れないのだろう」と悩んでしまうケースが少なくありません。
最近の研究では、APDの発症率は人口の約1%にのぼるとされています。
日本に当てはめると約120万人がAPDの可能性を抱えていることになります。
さらに、APDを訴える方の多くに発達障害が見られることが報告されています。
例えば、APD患者の成人例71%、小児例65%が自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)、注意欠陥障害(ADD)を併発していたというデータがあります。
また、統合失調症や双極性障害、睡眠障害などもAPDと関連している場合があります。
このように、APDは単独の障害ではなく、さまざまな背景要因と結びついていることが特徴です。

APDの主な症状は以下の通りです。
以下は実際にAPDの当事者から挙がった具体的な悩みです。
• マスクの着用により相手の口の動きが見えなくなり、話が聞き取りづらい。
• BGMが流れる場所や雑踏の中では、話しかけられても内容がわからない。
• 英語のリスニングが苦手で、学習が進まない。
• マニュアルのように文字で書いてあると理解できるのに口頭の指示だと理解できない
• 静かな場所であっても、長い話を集中して聞き続けることが困難。
これらの症状は、日常生活の多くの場面で「聞きづらさ」を引き起こします。そのため、APDを抱える方は「理解されない」という心理的苦痛を感じることも少なくありません。

APDに対する確立された治療法はまだ存在しませんが、研究の進展によりいくつかの有効な対策が提案されています。
以下に代表的な方法をご紹介します。
①環境調整
雑音の多い場所を避け、静かな環境で仕事や学習を行うようにすることが有効です。
例えば、個室や遮音性の高い場所を利用することで聞き取りやすさが向上します。
②補聴器やFMシステムの利用
音声を明瞭化する補聴援助システムを使用することで、APDの症状が軽減される場合があります。
ただし、これによって逆に「障害を抱えている」という意識が強まる可能性もあり、使用に際しては本人の意思や心理的な状態を考慮する必要があります。
③聴覚トレーニング
「耳トレ」などのトレーニングによって、音声情報を処理する能力を向上させる方法です。
④視覚的手段の活用
口頭の指示を文字情報として記録し、紙や電子機器で表示することで内容を理解しやすくする方法です。音声認識アプリを活用すれば、リアルタイムで指示を文章化することも可能です。
⑤心理的支援
専門医によるカウンセリングやセラピーを受けることで、心理的負担を軽減することができます。
アメリカでは、患者ごとに苦手な周波数を除去した楽曲音源を一定期間提供する音楽療法が用いられており、生活の質が向上したという報告もあります。
APDの症状は外見からは分かりにくいため、当事者は「なぜ自分だけが困難を感じるのか」と孤立感を抱えることが少なくありません。
しかし、最近では大阪や首都圏で小中高校生約5000人を対象とした調査が行われるなど、少しずつ社会的な認知が広まりつつあります。
こうした調査や啓発活動を通じて、APDの理解が進むことで、当事者が相談しやすい環境が整い、心理的負担が軽減されることが期待されます。日常生活の中で困難を感じている方やその家族、周囲の人々にとって、APDについて正しく知ることが解決への第一歩です。
「聞こえるけれど聞こえない」APDについての理解が広がり、当事者の方が少しでも生きやすい環境が実現することを願っています。
本記事がその一助となれば幸いです。