〜健康寿命をのばすために〜
私たちは年齢を重ねるにつれて、「最近、足腰が弱くなった気がする」「少し歩いただけで疲れるようになった」と感じることがあります。これは自然な老化現象の一つですが、実は筋肉量の減少による影響が大きいのです。今回は、高齢者が健康に過ごすために欠かせない「筋トレ」と「食事」について、最新の知見をもとに分かりやすく解説します。

研究によると、筋肉の量は60歳を過ぎるころから少しずつ減り始めます。男女ともに、1年間でおよそ0.8〜1%ずつ筋肉量が減少していき、筋力に関してはそれ以上、年に3〜4%低下するという報告もあります。つまり、何もしなければ10年で3割近くの筋力を失う可能性があるということです。
このように全身の筋肉が著しく減少した状態を「サルコペニア(加齢性筋肉減少症)」と呼びます。サルコペニアが進むと、歩行速度が遅くなったり、転倒のリスクが増えたり、日常生活の動作が困難になります。
サルコペニアは次の2つの方法で簡単にチェックできます。
60歳を超えると握力は少しずつ低下し、80代になると半数近くの人がこの基準値を下回るとされています。また、歩くスピードも加齢とともに低下し、80代では3km/hを切る人が多くなります。こうした変化を放置すると、転倒・骨折・要介護のリスクが一気に高まります。
ここまで読むと「もう遅いのでは」と不安に思うかもしれません。しかし、希望のある研究結果もあります。国立長寿医療研究センターの調査によると、介護が必要な高齢者であっても、週2回・1時間程度の運動を続けることで筋肉量が確実に増加することが示されています。
つまり、年齢に関係なく、適切な運動を続ければ筋肉は再び育つのです。

では、どんな筋トレをすればよいのでしょうか。筋トレには「高強度(重い負荷)」と「低強度(軽い負荷)」の2種類があります。一般に高齢者は関節や筋肉を痛めやすいため、「軽い負荷で回数を多く行う」トレーニングが推奨されます。
複数の研究では、
また、別の研究でも、低強度(20%程度)で80〜100回行うトレーニングが高強度と同等の筋肥大効果を示しました。つまり、ハードな筋トレをしなくても、軽い負荷を継続することで十分な効果が得られるということです。
整形外科医の立場から見ても、無理のない範囲で続けることが最も重要です。週2回・1時間程度の筋トレが理想的で、それ以下では効果が薄れやすいと考えられています。
筋肉を増やすには、運動だけでなく栄養の摂取も欠かせません。特に重要なのがタンパク質です。タンパク質は筋肉の材料であり、十分な量を摂らなければ筋肉は増えません。
● 一日に必要な量
65歳以上の場合、
日本人の平均摂取量はこれを上回っていますが、食事の内容によって筋肉づくりの効果が変わります。
タンパク質は19種類のアミノ酸からできています。そのうち9種類は体内で合成できず、食事から摂る必要があるため「必須アミノ酸」と呼ばれます。特に筋肉をつくるうえで重要なのが、
の3つで、これらを総称して「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」といいます。
BCAAは筋肉合成のスイッチを入れる役割を持ち、筋トレによって分泌されるホルモン(IGF)と協力して「mTOR」と呼ばれるタンパク質を活性化させます。これが筋肉を作り出す合図になるのです。
BCAAは特に以下の食品に多く含まれています。
一方、豆腐や納豆などの植物性タンパク質も健康に良いですが、BCAAの含有量はやや少なめです。そのため、動物性と植物性をバランスよく組み合わせることが理想的です。
運動生理学の研究では、筋トレの直後30分以内にタンパク質を摂取すると、筋肉の合成が最も活発になることが分かっています。トレーニングの後に牛乳やプロテイン、卵料理などを摂ることで、筋肉づくりをさらに促進できます。

高齢者の筋肉は、確かに加齢とともに減少します。しかし、正しい知識と少しの努力で、その流れを大きく変えることができます。
筋肉は、私たちの“第二の命”ともいえる存在です。毎日の生活の中に少しの運動と工夫を取り入れ、「いつまでも自分の足で歩ける人生」を目指していきましょう。