今回は「すい臓がん」と「糖尿病」の関係についてのお話です。
一見、まったく別の病気のように思えますが、じつはこの二つの病気のあいだには、とても深いつながりがあります。
すい臓がんの発見のきっかけになることもあれば、すい臓がんの手術後に糖尿病が起こることもあります。
ここでは、「診断のとき」と「手術のあと」の二つの場面にわけて、すい臓と糖尿病の関係をわかりやすく説明していきます。

まず、すい臓という臓器がどんな働きをしているのかを簡単に見ておきましょう。
すい臓はおなかの奥、胃の裏側あたりにある長細い臓器です。体の中では地味な存在ですが、とても大切な役割を持っています。
その働きは大きく分けて二つあります。
ひとつは、食べ物の消化を助ける「消化液」をつくり、腸の中に流す働き。これを「外分泌(がいぶんぴつ)機能」といいます。
もうひとつは、血糖値(血液中の糖の量)を調整する「ホルモン」をつくる働きです。こちらを「内分泌(ないぶんぴつ)機能」と呼びます。
つまり、すい臓は“食べものを消化する”ことと、“血糖をコントロールする”という、私たちの生命維持に欠かせない2つの仕事を同時にこなしているのです。
すい臓がんができると、その部分に炎症や圧迫が起きて、すい臓全体の働きが悪くなります。
たとえば、食べ物を分解する酵素がうまく出なくなり、下痢や消化不良を起こすことがあります。
また、血糖を下げるホルモン(インスリンなど)が作られにくくなり、血糖値が上がって糖尿病になることもあります。
つまり、「糖尿病の発症」や「糖尿病の急な悪化」が、じつは“すい臓がんが隠れているサイン”である可能性があるのです。
実際に、糖尿病の人はすい臓がんになる確率が一般の人の約2倍に高まるといわれています。
とくに、糖尿病を発症して1年以内の人では、そのリスクが6倍以上にもなるという報告もあります。
そのため、「急に血糖値が上がった」「これまで安定していた糖尿病が最近悪化してきた」といった場合には、すい臓に異常がないかを一度確認しておくことがとても大切です。

次のような特徴に当てはまる方は、すい臓がんのリスクが高いと考えられています。
こうした場合は、腹部超音波(エコー)やCT検査などで、すい臓の状態をチェックしておくと安心です。
最近では、新型コロナの影響で病院の受診を控える人も増えていますが、「糖尿病がある=すい臓がんの可能性がゼロではない」という意識を持ち、定期的に検査を受けることが大切です。
次に、「すい臓がんの手術後」に糖尿病が起こるケースについてお話しします。
すい臓は、血糖を下げるインスリンなどをつくる臓器です。
そのため、すい臓の一部を切除すると、インスリンをつくる量が減ってしまい、血糖値が上がりやすくなります。
もともと糖尿病があった人では、さらに悪化することもあります。
これは、すい臓の中にある「インスリンをつくる細胞(β細胞)」が減るためです。
さらに、手術後に残ったすい臓が炎症を起こしたり、萎縮したりすると、インスリンを作る力がいっそう弱まります。
その結果として、手術のあとに糖尿病が新たに発症したり、症状が進んだりするのです。
すい臓の手術にもいくつか種類があります。
たとえば、すい臓をすべて取り除く「全摘手術」では、当然ながらインスリンを作る部分がなくなるため、全員が糖尿病になります。
一方で、すい臓の頭の部分だけを取る「膵頭部切除術」や、しっぽのほうを取る「膵体尾部切除術」など部分的な手術でも、2〜3割、場合によっては5割ほどの方に糖尿病があらわれることが報告されています。
すい臓のどの部分をどれだけ残すかによってリスクは変わりますが、「どの手術でも糖尿病が起こる可能性がある」ということを覚えておくことが大切です。
また、私が見てきた患者さんの中には、手術を受けてから1年以上経ってから糖尿病を発症した方もいらっしゃいました。
つまり、手術直後だけでなく、長い目で見て血糖の変化を見守ることが必要なのです。

すい臓の手術後に糖尿病が起きた場合でも、ほとんどの人は飲み薬で血糖をコントロールできます。
しかし、手術の範囲が広かったり、すい臓の機能が大きく落ちていたりする場合は、インスリンの注射が必要になることもあります。
治療法は人それぞれ違いますが、大切なのは「早めに気づくこと」です。
喉の渇きが強い、尿の回数が多い、体がだるい、体重が減ってきた――このような症状があれば、迷わず主治医に相談しましょう。
定期的な血糖値の検査も忘れずに受けることが、健康維持の第一歩です。
すい臓がんは、早い段階では自覚症状が出にくく、見つかったときには進行していることも少なくありません。
しかし、「糖尿病の発症」や「血糖値の急な変化」は、その小さなサインになっている場合があります。
また、すい臓がんの手術を受けたあとも、糖尿病があとから出てくることがあります。
手術後しばらく経ってから血糖値が上がることもあるため、退院後も定期的に検査を受けて、自分の体の変化を見逃さないようにすることが大切です。
糖尿病とすい臓がん――この二つは、どちらも生活習慣や体質と深く関係する病気です。
普段から食事や運動に気をつけ、健康診断を欠かさず受けること。
そして、体に「いつもと違う」サインが現れたときには、早めに医師に相談すること。
それが、自分の命を守る最も確実な方法といえるでしょう。