【朗報】がんにも効果が期待される一般薬3選:あの薬はじつは「抗がん剤」と同じ作用をもっていた?

がんの治療といえば、手術・抗がん剤・放射線治療などが中心です。しかし近年、これまでまったく別の病気に使われてきた一般薬が、がんの予防や治療にも効果を発揮する可能性があることが、次々と報告されています。

このように、既存の薬を本来の目的とは異なる病気に応用することをドラッグ・リパーパシング(またはドラッグ・リポジショニング)と呼びます。すでに安全性が確認されている薬を新たな分野に活用できるため、開発コストを抑えつつ、短期間で臨床応用が可能になるという大きな利点があります。

今回は、がんの予防・治療効果が期待されている代表的な3つの一般薬を紹介します。どれも私たちに身近な薬ばかりで、すでに多くの人が服用しているものです。

1. アスピリン ― 血液サラサラの薬が、がんの転移を防ぐ?

1. アスピリン ― 血液サラサラの薬が、がんの転移を防ぐ?

アスピリンは、世界で最も古くから使われている解熱鎮痛剤のひとつです。低用量では脳梗塞や心筋梗塞の再発予防にも用いられており、「血液をサラサラにする薬」としても広く知られています。

ところが、このアスピリンががんの予防や転移抑制にも効果を持つ可能性があることが、多くの研究から明らかになってきました。

2010年に医学誌『ランセット』で発表された複数のランダム化比較試験の解析では、アスピリンを5年以上服用していた人は、そうでない人に比べてすべてのがんによる死亡リスクが約20%低下していたと報告されています。特に大腸がんの予防効果についてはよく知られており、がんの再発や進行を抑える可能性も指摘されています。

さらに最近の研究では、アスピリンが免疫細胞の働きを助けてがんの転移を防ぐことが分かってきました。血小板が作り出す「トロンボキサンA2」という物質が、がんを攻撃するT細胞の働きを弱めてしまうのですが、アスピリンはこのトロンボキサンA2の生成を抑制し、T細胞の攻撃力を取り戻す作用があるのです。

つまり、アスピリンは単なる鎮痛薬にとどまらず、「免疫の味方」としてがんの広がりを防いでくれる可能性があるというわけです。

ただし、副作用にも注意が必要です。アスピリンには胃や腸の粘膜を刺激する作用があり、潰瘍のある人やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を併用している人は慎重に使用しなければなりません。自己判断での服用は避け、必ず医師に相談することが大切です。

2. スタチン ― コレステロールを下げる薬ががん細胞も抑える?

2. スタチン ― コレステロールを下げる薬ががん細胞も抑える?

次に紹介するのは、脂質異常症(高コレステロール血症)の治療に使われる「スタチン系薬剤」です。メバロチン、リポバス、リピトールなどの名称で知られており、日本でも非常に多くの人が服用しています。

スタチンはコレステロールの合成を抑えることで動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞を予防する薬ですが、近年になってがん細胞の増殖を抑制する作用があることが報告されています。

研究では、スタチンががん細胞の増殖や転移を防ぎ、細胞死(アポトーシス)を促進するメカニズムを持つことが示されています。2023年に医学誌『JAMA Network Open』に掲載された研究では、スタチンを服用していた人は服用していなかった人に比べ、肝細胞がんの発症リスクが42%低下していました。

また、がんを発症した患者でも、スタチンを服用していた人はそうでない人より長生きする傾向があることが多くの研究で報告されています。乳がん、肺がん、胃がん、大腸がん、すい臓がん、前立腺がんなど、幅広いがんで死亡リスクが最大50%低下したとの報告もあります。

このような効果が確認されつつあることから、現在ではスタチンを抗がん剤や放射線治療と併用する臨床試験も世界中で進められています。

ただし、スタチンにはまれに「横紋筋融解症(筋肉の障害)」や「重症筋無力症」といった副作用が報告されています。発症率は非常に低いものの、筋肉痛や脱力感を感じた場合には、医師に相談することが重要です。

3. メトホルミン ― 糖尿病薬ががん患者の生存期間を延ばす?

3. メトホルミン ― 糖尿病薬ががん患者の生存期間を延ばす?

3つ目は、糖尿病治療薬のメトホルミンです。ビグアナイド系に分類され、メトグルコやグリコランなどの名前でも知られています。

メトホルミンは、肝臓での糖の新生を抑制し、血糖値を下げる薬ですが、近年になってがんの発症リスクを下げ、生存期間を延ばすという驚くべき研究結果が相次いでいます。

複数の疫学研究によると、糖尿病患者のうちメトホルミンを服用している人は、他の糖尿病薬を使っている人に比べてがんによる死亡リスクが20〜30%低下していました。対象となるがんも、肺がん、乳がん、すい臓がん、大腸がん、卵巣がんなど多岐にわたります。

たとえば2018年に報告された研究では、すい臓の神経内分泌腫瘍をもつ患者の生存期間を比較したところ、メトホルミンを服用していなかったグループの生存期間中央値が約23か月だったのに対し、メトホルミン服用群では約44か月とほぼ2倍に延びていました。

また、肺がん患者においても、標準治療のEGFR阻害剤にメトホルミンを併用したところ、生存期間が有意に延長し、死亡リスクが50%低下したとの報告があります。特にBMI(体格指数)が高い患者で効果が顕著だったとされています。

さらに、近年ではGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など、他の糖尿病治療薬にもがん抑制作用がある可能性が指摘されており、糖代謝とがんの関係に注目が集まっています。

まとめ ― 既存薬が新たながん治療の希望に

今回紹介したアスピリン、スタチン、メトホルミンはいずれも、すでに長年使われてきた信頼性の高い薬です。偶然の観察や臨床研究をきっかけに、それぞれががんの発症や進行を抑える可能性を持つことが分かってきました。

こうしたドラッグ・リパーパシングの発想は、今後のがん治療に大きな変革をもたらすかもしれません。新薬の開発には莫大な費用と時間がかかりますが、既存薬を再利用することで、より早く、より低コストで有効な治療を患者に届けられる可能性があります。

もちろん、これらの薬をがん治療目的で使用するには、今後さらなる臨床試験と科学的検証が必要です。しかし、すでに安全性が確立されている薬が新しい命を救う可能性を秘めているというのは、非常に希望の持てる話です。

がん治療は日々進化しています。これらの一般薬が、将来的に「がん治療の一翼」を担う日も、そう遠くないかもしれません。