今回は、私たちの体のリズムを整える「睡眠ホルモン」として知られているメラトニンと、がんとの深い関係についてのお話です。メラトニンは、眠りを促すだけでなく、体の健康を守るうえでもとても大切な役割を果たしています。
メラトニンは、脳の中央にある「松果体(しょうかたい)」という小さな部分から分泌されるホルモンです。夜、まわりが暗くなると自然に分泌が増え、体に「そろそろ眠る時間ですよ」と知らせてくれます。ですから、メラトニンは「睡眠ホルモン」と呼ばれているのです。
このメラトニンの分泌量は、昼と夜の明るさの変化によって調整されています。昼間は分泌が少なく、夜になるとぐんと増えるという、はっきりとしたリズムをもっています。ところが、夜でも強い明かりの中で過ごしたり、夜遅くまでスマホやパソコンを見ていたりすると、このリズムが乱れてしまうのです。
実際に、部屋の明るさとメラトニンの関係を調べた研究では、ほのかな灯りの中で寝た場合やアイマスクをつけた場合には、夜間にメラトニンの量がしっかりと増えることがわかっています。一方で、明るい照明のまま眠ると、メラトニンがほとんど増えず、ずっと低い状態が続いてしまうのです。

メラトニンといえば睡眠のイメージが強いですが、最近の研究では、がんとも深く関わっていることが明らかになってきました。ここでは、メラトニンとがんの関係を示す3つの研究を紹介します。
まず一つ目は、メラトニンががんの成長を抑えるという研究です。
動物を使った実験では、がんを持つマウスにメラトニンを与えると、がんの成長がゆるやかになったという結果が報告されています。人間での研究でも、直接的な証拠はまだ限られていますが、メラトニンの分泌量が多い人のほうががんの発症率が低い傾向があるという報告があります。
つまり、メラトニンは「眠りのホルモン」であると同時に、「体を守るホルモン」としても働いている可能性が高いのです。

次に、夜の照明とがんとの関係を調べた研究です。
2017年、アメリカのハーバード公衆衛生大学院の研究チームが発表した内容によると、夜間の屋外照明が明るい地域に住む女性は、そうでない地域に住む女性に比べて乳がんの発症率が高いことがわかりました。この研究では、10万人以上の女性を対象に、居住地の夜間の照明の強さと乳がんの発症リスクを調べています。その結果、夜間の照明が強いほど、乳がんのリスクが最大で14%高くなっていたのです。
さらに、こうした傾向は乳がんだけでなく、前立腺がんや大腸がんなど、ほかの種類のがんでも見られています。
夜の明るさが強いと、メラトニンの分泌が妨げられ、体内のバランスが崩れてしまうと考えられます。メラトニンは、体内の酸化ストレスを防いだり、細胞の修復を助けたりする働きもあるため、分泌が少なくなることで、がんを防ぐ力が弱まってしまうのかもしれません。
このように、夜の過剰な照明が体に悪影響を与える現象は「光害(こうがい)」と呼ばれています。便利な生活の裏で、私たちは知らず知らずのうちに光の害を受けているのです。

そして三つ目は、食事に含まれるメラトニンとがんとの関係を調べた研究です。
2024年に発表された日本の「高山スタディ」という大規模な研究では、岐阜県高山市の3万人以上の住民を対象に、食事の内容と肝臓がんの発症との関係を調べました。その中で、食べものに含まれるメラトニンの量を細かく計算したところ、メラトニンを多く摂っている人ほど、肝臓がんになりにくい傾向があることがわかりました。
具体的には、メラトニンの摂取量が多い人は少ない人に比べて、肝臓がんのリスクが約35%も低かったのです。
メラトニンが多く含まれる食べものには、アーモンドやクルミなどのナッツ類、バナナやキウイなどの果物、トマトなどの野菜、さらに牛乳や卵などがあります。こうした食品を日常的にとることで、体の中のメラトニンが増え、がんのリスクを下げる可能性があるということです。
また、メラトニンのもとになる「トリプトファン」というアミノ酸の摂取量とは関係が見られなかったため、食事として直接メラトニンをとることが大事だと考えられています。
これらの研究からわかるように、メラトニンは睡眠だけでなく、私たちの体をがんから守るうえでも大切な働きをしていることが見えてきました。
では、どうすればメラトニンをうまく分泌させることができるのでしょうか?
こうした工夫を続けることで、自然な眠りを得られるだけでなく、体の中から健康を守る力も高まります。
メラトニンは単なる「眠りのホルモン」ではなく、体の健康を守るための大切な味方です。
夜の明るすぎる環境や不規則な生活によって、その働きが妨げられると、がんなどの病気のリスクが高まることがわかってきました。
一方で、夜の照明を控えたり、メラトニンを多く含む食品を意識してとったりすることで、そのリスクを減らせる可能性があります。
「よく眠ること」は、ただの休息ではなく、体の自然な防御力を高めることにもつながっています。
夜は静かに、暗くして、ぐっすり眠る。そんなシンプルな習慣こそが、がんを遠ざけ、健康を守る第一歩かもしれません。
今回は、「睡眠ホルモンとがんの深すぎる関係」というお話でした。