自閉スペクトラム症(ASD)は、発達障害の一つとして知られていますが、大人になってからもその特性が日常生活や職場でのコミュニケーションに影響を与えることがあります。
その中でも特に多くの方が悩むのが「指示の理解が難しい」という問題です。職場で指示を受けた際に内容を正確に把握できず、結果としてミスをしてしまったり、叱責を受けたりすることで、自己肯定感を損なうケースも少なくありません。
この記事では、ASDの方が職場でのコミュニケーションの困難を乗り越えるために効果的な「視覚化」の活用法を中心に、具体的な対策やその実践方法について詳しく解説します。また、ASDの特性に理解のある職場環境を作るためのヒントも併せてご紹介します。
ASDの方が職場で感じる困難の一つに、口頭指示がうまく理解できないという問題があります。このような困難は、多くの場合、以下のような形で現れます:
• 上司や先輩からの指示が頭に入らず、何をすればよいかわからなくなる。
• 曖昧な表現(例:「適当に」「ざっと」など)を理解できず、どの程度作業を進めればいいのか判断できない。
• 指示通りに作業を進めたつもりでも、期待された結果とずれてしまい注意される。
こうした問題が続くと、職場での疲労感が高まり、自己評価が低下する悪循環に陥りがちです。また、誤解やミスが積み重なることで、周囲との関係にも影響を及ぼすことがあります。
ASDの方が指示の理解に困難を感じる背景には、情報処理の特性が関係しています。
以下のような特徴が一般的に見られます:
ASDの特性を踏まえたうえで、職場での指示の理解を助ける最も効果的な方法の一つが「視覚化」です。視覚化とは、目に見えない情報を見える形に変えることで、情報の理解をサポートする方法を指します。

<視覚化の具体例>
• メモを取る
指示を受けた内容をその場で書き留め、目で確認できる形にします。
• タスクをリスト化する
仕事の進捗を確認できるよう、やるべきことを箇条書きにします。
• スケジュールや手順を可視化する
作業の流れをフローチャートや図解で整理することで、何をすればよいか一目でわかるようにします。
視覚化は、ASDの方に限らず多くの人に役立つ方法ですが、特にASDの方には大きな効果をもたらします。その理由を以下で詳しく解説します。
ASDの方は、口頭で受けた情報を正確に理解するのが難しい場合があります。例えば、英語のリスニング問題では内容が頭に入らなくても、文字で書かれた問題文なら理解できる、という経験をしたことがある方もいるでしょう。
視覚化を通じて、口頭の情報を文字や図解に変換すれば、自分のペースで内容を確認でき、誤解を防ぐことができます。実践のポイントは次の通りです:
• 箇条書きでメモを取る
話の流れ全体を追うよりも、キーワードや要点を抜き出して書き留めます。
• 重要な部分を強調する
指示の中で特に優先すべき部分をマーカーなどで目立たせると良いでしょう。
ASDの方は、「ざっと」「適当に」「いい感じで」といった曖昧な表現を文字通り受け取ることが多く、それがミスやトラブルにつながる場合があります。
対応策としては、指示を受けた段階で曖昧な点を確認することが重要です。その際には以下のように具体的な質問を心がけましょう:
• 「どの部分を優先してまとめれば良いですか?」
• 「適当に、というのは具体的にはどの程度を指しますか?」
曖昧さを排除することで、誤解によるミスを大幅に減らすことができます。
ASDの方は、同じ作業を繰り返し行う「同一性保持」の特性があります。この特性を活用して、視覚化をルーティン化することで、効率的に指示を処理できるようになります。
<ルーティン化の例>
ASDの方が働きやすい環境を整えるためには、本人の努力だけでなく、周囲の理解も重要です。特に、職場の上司や同僚が以下のような配慮を行うことで、コミュニケーションが格段にスムーズになります:
• 曖昧な表現を避ける
指示内容を具体的に伝えることで、誤解を防ぎやすくなります。
• サポートツールを提供する
メモ帳やデジタルツールを活用できる環境を整えることで、視覚化をサポートします。
• フィードバックを丁寧に行う
ミスがあった場合でも原因を明確に伝え、改善策を一緒に考える姿勢を持つことが大切です。
ASDの方が職場での指示を正確に理解し、ミスを防ぐためには、視覚化が非常に効果的です。本記事でご紹介した内容をまとめると、以下のポイントが挙げられます:

1)口頭指示を視覚化することで情報処理の負担を軽減する
2)曖昧な表現に対しては質問を通じて具体化する
3)視覚化をルーティン化し、自分の特性を強みに変える
また、ASDの方と共に働く周囲の方も、特性に理解を深め、環境を整える努力をすることで、より良い職場環境を作ることができます。
まずは、視覚化を実践するところから始めてみましょう。小さな工夫が、大きな変化につながるはずです。