
〜動脈・静脈・末梢血流の働きとトラブルの仕組み〜
私たちの体は、心臓を中心とした血液の循環によって生きています。心臓から送り出された血液は動脈を通って全身へと運ばれ、手足の先まで酸素や栄養を届けます。そしてその後、静脈を通って再び心臓へ戻ってくる――この一連の流れを「血流」といいます。
この血液の流れを支えるのは、太い血管だけではありません。体の隅々には、髪の毛よりも細い「末梢血管」と呼ばれる血管が張り巡らされており、手足や皮膚、筋肉、神経にまで酸素と栄養を届けています。したがって、血流に関係するトラブルは、動脈・静脈・末梢血管などあらゆる場所で起こり得るのです。今回は、それぞれの血流障害の特徴と、実際に起こる症状・治療法について詳しく見ていきましょう。
まず、血液を送り出す側である「動脈」で血流が悪くなる場合です。
動脈の血流障害というと、代表的なものが脳梗塞や心筋梗塞です。これらは動脈が詰まることによって、脳や心臓に酸素が届かなくなり、重大な障害を引き起こす病気です。
動脈が詰まる原因には大きく分けて2つのタイプがあります。
1つ目は梗塞(こうそく)と呼ばれるもので、血管の内側にコレステロールや脂質のかたまり(プラーク)がたまり、それを覆うように血小板などが付着して、血管の内腔が狭くなっていく状態です。これはいわゆる動脈硬化と呼ばれるもので、血流が徐々に悪くなっていきます。
2つ目は**塞栓(そくせん)**です。こちらは血管そのものに問題があるわけではなく、心臓など別の場所でできた血のかたまり(血栓)が血流に乗って運ばれ、脳や手足などの動脈に詰まってしまうことで起こります。
どちらの場合も、結果的には血液の通り道が狭くなり、臓器や組織に酸素が届かなくなります。脳や心臓は生命維持に欠かせない臓器ですから、突然の血流停止は命に関わる事態となります。また、足の動脈が詰まると、血流が途絶えて組織が壊死し、最悪の場合は足が腐ってしまうような深刻な症状に至ることもあります。
したがって、動脈硬化や高コレステロール血症の治療・予防は非常に重要です。
次に、心臓へ血液を戻す「静脈」で起こる血流障害について見ていきましょう。
静脈の障害は動脈とは異なり、「血液が詰まる」というよりも「うまく戻れなくなる」ことで生じます。主な原因は次の2つです。
1つは静脈の弁の異常です。
静脈の中には、血液が逆流しないようにするための小さな弁がいくつも存在します。ところが、この弁が壊れたり、うまく閉じなくなったりすると、血液が逆流して足の血管が膨らみ、いわゆる**下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)**を引き起こします。血液がうまく流れなくなるため、足先がむくみやすく、だるさや重さを感じるようになります。
もう1つは筋肉のポンプ作用の低下です。
血液を心臓へ押し戻す力の多くは、ふくらはぎや太ももの筋肉の収縮によって生み出されています。歩いたり動いたりすることで筋肉が収縮し、静脈の血液を押し上げるのです。
しかし、長時間座りっぱなしや運動不足の状態が続くと、このポンプ機能が働かなくなり、血流が滞って足がむくんだり、だるくなったりします。特に、膝の痛みや関節症で歩行が難しくなる高齢者に多く見られます。
静脈系の血流障害は、主に下半身で起こりやすく、代表的な症状は「足のむくみ」や「だるさ」です。上半身に起こることはまれですが、長時間同じ姿勢を続ける生活習慣の人は注意が必要です。

さらに、動脈と静脈の間にある「末梢血管」のトラブルも見逃せません。
末梢血管は手足の細部まで張り巡らされており、その血流が滞ると「手足の冷え」や「しもやけ」といった症状が現れます。末梢の血流障害には、いくつかの原因があります。
まず1つは寒さです。
寒冷環境では体温を保つために、体は自動的に手足の血流を減らし、熱が逃げないようにします。そのため、指先やつま先が冷たくなりますが、これは生理的な反応でもあります。
2つ目は運動不足です。
筋肉を動かさないと、血液を末梢まで送り出す力が弱まり、血流が滞ります。日常的な歩行やストレッチなどの軽い運動でも、血流改善に大きな効果があります。
3つ目は自律神経の乱れです。
交感神経や副交感神経のバランスが崩れると、血管の収縮と拡張がうまく調整できなくなり、血管が収縮しすぎて血流が悪化することがあります。ストレスや生活リズムの乱れも、このタイプの血流障害を招く要因です。
また、糖尿病や関節リウマチなどの病気によっても末梢の血流障害が起こることがあります。これらの疾患では血管そのものが傷つきやすくなるため、特に注意が必要です。
末梢血流障害の治療では、原因に応じて血流改善薬が使われます。
比較的軽度の場合には、ビタミンEが用いられることがあります。ビタミンEには血行促進作用があり、自律神経を整える効果も期待できます。
より直接的に血管を広げる薬としては、プロスタグランジンE1という薬剤があります。これは血管を拡張させて血流を増やし、組織への酸素供給を改善します。重度の冷えや末梢循環不全に対してよく使用される薬です。

血流障害というと、「手足のしびれ」と結びつけて考える人も多いかもしれません。しかし、実際には血流の悪化だけでしびれが起こることはあまりありません。しびれは主に神経の障害によって起こる症状だからです。
ところが、血流を改善する薬がしびれの改善に役立つことがあります。その理由を理解するために、「腰部脊柱管狭窄症」を例に見てみましょう。
この病気は、加齢などにより背骨の中の「脊柱管」という神経の通り道が狭くなり、その中を走る脊髄神経が圧迫されることで起こります。腰の部分で神経が圧迫されると、坐骨神経を通じて足のしびれや痛みが現れます。
重要なのは、神経だけでなく、その神経を栄養している血管も同時に圧迫されている点です。神経への血流が悪化すると、神経の働き自体が低下してしまいます。
そこで血流改善薬を使用すると、神経周囲の血流が回復し、栄養が十分に行き渡るようになります。その結果、神経の機能が改善し、しびれの症状も軽くなるのです。
このように、血流と神経の健康は密接に関係しており、血流を整えることが神経症状の改善にもつながるケースがあるのです。
血流は私たちの生命を支える根本的な仕組みであり、心臓から手足の先まで絶えず循環しています。
動脈・静脈・末梢血管のいずれかに障害が起これば、体のどこかで不調が現れます。
動脈では「詰まり」、静脈では「戻りの悪さ」、末梢では「冷えや循環不全」といった形で異なる症状を示します。
血流を守るためには、バランスのとれた食事、適度な運動、ストレス管理が欠かせません。
そして、しびれやむくみ、冷えといったサインが出たときには、単なる疲れや体質と片づけず、血流の異常が潜んでいないかを考えることが大切です。
血流を整えることは、全身の健康を保つ第一歩です。日常生活の中で少しずつでも意識して、体のすみずみまで「新鮮な血」が行き渡るようにしていきましょう。