【最新研究】カロリー制限でがん治療効果(生存率)がアップ?絶食模倣食(FMD)の効果は?

がん治療の際に「どのような食事を取るのがよいのか」という問いは、患者さんやご家族にとって大きな関心事です。
「栄養をしっかり取って体力をつけた方がいい」という考えもあれば、「がん細胞に栄養を与えないように食を控えた方がよい」という意見もあります。実際のところ、明確な答えはまだ出ていません。

しかし近年、この難しい問題に対して新しい視点からのアプローチが注目されています。それが、「絶食模倣食(Fasting Mimicking Diet:FMD)」と呼ばれる食事療法です。

絶食模倣食(FMD)とは?

絶食模倣食(FMD)とは?

絶食模倣食とは、完全に断食するのではなく、体に“絶食している”と錯覚させるような低カロリー食を、短期間だけ実践する方法です。
具体的には、4〜5日間ほど、摂取カロリーを1日あたりおよそ300〜600kcalに制限します。野菜スープやハーブティーなどの液体を中心に、最低限の栄養を摂りながら過ごすのが基本です。水分は制限されず、自由に摂取できます。

この制限期間の後は、およそ20日間の通常の食事に戻します。この「制限期」と「回復期」をひとつのサイクルとして繰り返すのが特徴です。
アメリカの老化研究の第一人者、南カリフォルニア大学の
ヴァルター・ロンゴ博士が提唱した食事法として知られ、もともとは老化や代謝疾患の予防を目的に開発されました。

ところが近年、このFMDががん治療との相性が良い可能性を示す研究が次々と発表され、医療界でも注目が高まっています。

最新研究①:免疫療法との併用で効果が増大

最初に紹介するのは、科学誌『Nature Communications』に報告されたマウス実験の研究です。
この研究では、皮膚がんを移植したマウスを対象に、「通常の食事」と「FMDを繰り返す食事」を比較し、さらに近年がん治療で広く使われる「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」を併用した場合の効果を調べました。

結果は非常に興味深いものでした。
FMDを実践したマウスでは、ICIの有無に関わらず、腫瘍の増殖が遅くなったのです。つまり、FMD単独でもがんの進行を抑える作用が認められました。

さらに驚くべきことに、FMDだけを行ったグループの方が、通常の食事でICI治療を行ったグループよりも腫瘍の成長が遅かったという結果も得られました。
つまり、食事制限だけでも、ある程度の抗腫瘍効果がある可能性を示しています。

加えて、副作用の面でも注目すべき発見がありました。
ICI治療の副作用として知られる心臓の線維化(心毒性)が、FMDを行ったマウスでは明らかに軽くなっていたのです。
このことから、FMDは治療効果を高めると同時に、副作用を軽減する可能性
もあると考えられています。

最新研究②:乳がん患者の生存率を改善?

次に紹介するのは、人を対象とした臨床研究の報告です。
国際的ながん専門誌『International Journal of Cancer』に掲載されたこの研究では、トリプルネガティブ乳がん(ホルモン受容体やHER2のいずれも陰性のタイプ)患者を対象に、FMDと抗がん剤治療の併用効果を調べました。

研究では、過去に行われたFMD併用試験の参加者の中から、カルボプラチンとゲムシタビンによる化学療法を受けた14人の乳がん患者のデータを抽出し、
同じ治療を通常食で受けた76人のデータと比較しました。

その結果、FMDを取り入れたグループの全生存率が、有意に高いことがわかりました。
対象人数は少ないものの、トリプルネガティブ乳がんにおいてFMDが治療成績を向上させる可能性が示された重要な知見です。

なぜカロリー制限ががん治療に有利なのか?

なぜカロリー制限ががん治療に有利なのか?

では、なぜこのような「絶食に近い食事」が、がん治療に良い影響を及ぼすのでしょうか?
その鍵は、正常細胞とがん細胞が絶食に対して見せる反応の違いにあります。

まず、正常な細胞はエネルギー不足の状態になると、「オートファジー(自食作用)」という細胞の修復システムを活性化します。
これにより古くなったタンパク質や損傷した細胞小器官を分解し、再利用します。いわば「細胞の大掃除」が行われるのです。
その結果、正常細胞は省エネモードになり、抗がん剤などのダメージにも強くなると考えられています。

一方、がん細胞は常に大量の栄養とエネルギーを必要としています。
絶食状態では必要な糖やアミノ酸が不足し、DNA損傷を修復できなくなります。
その結果、抗がん剤によるダメージを受けやすくなり、細胞死(アポトーシス)が起こりやすくなるのです。

さらに、絶食状態では体の免疫バランスも変化します。
がん細胞を攻撃するT細胞やナチュラルキラー細胞の働きが強まり、逆に免疫抑制的な細胞(制御性T細胞など)は減少することが報告されています。
つまり、FMDによってがんを攻撃する免疫機能が活性化されるというわけです。

注意点と今後の展望

ここまで紹介したように、FMDはがん治療の新たな補助的手段として期待が高まっていますが、現時点ではまだ研究段階です。
臨床試験の多くは少人数で行われており、長期的な安全性や有効性は確立されていません。

特に注意が必要なのは、がん患者の多くが体重減少や栄養障害(カヘキシア)のリスクを抱えていることです。
このような状態で無理にカロリー制限を行うと、かえって体力を奪い、治療継続が難しくなることもあります。
また、糖尿病や腎疾患、重度の心疾患を持つ方には適さない場合があります。

したがって、FMDを試みたい場合は、必ず主治医や専門家と相談し、医療のサポートのもとで実施することが重要です。

まとめ:食事が「治療の一部」になる未来へ

まとめ:食事が「治療の一部」になる未来へ

カロリー制限や絶食模倣食は、単なる民間療法ではなく、細胞レベルでのメカニズムが科学的に検証されつつある新しい医療の方向性です。
治療の補助としてFMDを取り入れることで、抗がん剤や免疫療法の効果を高め、副作用を軽減できる可能性があります。

ただし、それは「誰にでも安全で有効」という意味ではありません。
FMDの最終的な評価を下すには、より大規模で長期的な臨床研究が必要です。

がん治療と栄養の関係は、今まさに世界中で活発に研究が進められている分野です。
近い将来、「食事が治療の一部として組み込まれる」時代がやってくるかもしれません。

それまでの間は、科学的知見を冷静に見極めつつ、医療と生活の両面から最適な選択をしていくことが大切です。