がんの研究は日々進歩しており、薬や放射線による従来の治療法だけでなく、さまざまな新しい治療の可能性が探られています。その中には、思わず「えっ?」と驚くような、少し変わったアプローチもあります。今回は、現在開発中あるいは臨床試験の段階にある、ユニークながん治療法を3つ紹介したいと思います。

細菌と聞くと、「病気を起こすもの」「できるだけ避けたいもの」というイメージが強いかもしれません。ところが最近、この細菌を使ってがんを退治しようという研究が注目されています。
この新しい研究を進めているのは北陸先端科学技術大学のグループです。彼らは、大腸がんにかかったマウスの腫瘍の中に、「がんを抑えるはたらきを持つ細菌」が潜んでいることを見つけました。がんの内部は酸素が少ない特殊な環境で、これまでも「がんを促す菌」と「がんを抑える菌」の存在が知られていましたが、その分離は難しく、はっきりとした実験結果が得られていませんでした。
ところが今回、研究チームはその中から2種類の「がんを抑える菌」を取り出すことに成功したのです。そして、この2つの菌をそれぞれ「A-gyo(あぎょう)」と「UN-gyo(うんぎょう)」と名付け、2つを組み合わせたものを「AUN(あうん)」と呼びました。これは、お寺の門前で悪を追い払う金剛力士像の「阿形」と「吽形」から名づけられたもので、まさに“がんを退治する力士”のような存在です。
実験では、この細菌を投与されたマウスのがんが約30日後に消失したという驚きの結果が報告されました。しかも、この菌は腫瘍の外にある正常な組織にはほとんど影響を与えなかったとのこと。つまり、副作用の少ない新しいタイプの治療法になる可能性があるのです。
「細菌ががんを治す日」が来るかもしれない——そんな希望を感じさせる研究です。

次に紹介するのは、少し意外な「寒さ」によるがん治療です。2022年に世界的な科学雑誌『ネイチャー』で発表された研究では、寒い環境に身を置くことで体内の脂肪が活性化し、それががんの成長を抑える可能性があることが報告されました。
私たちの体の脂肪には2種類あります。
ひとつはおなじみの「白色脂肪」。これはお腹まわりや太ももなどに多く、エネルギーをため込むはたらきをします。もうひとつは「褐色脂肪」と呼ばれるもので、肩甲骨のまわりなど一部の場所にあり、こちらはエネルギーを燃やして体温を保つ役割を持っています。
寒さを感じると、この褐色脂肪が活発になり、体内のエネルギーをどんどん使うようになります。そうすると、体の中の糖分が減り、がん細胞に必要な栄養が届きにくくなるため、結果的にがんの成長が抑えられるという仕組みです。
この研究はまだ動物実験の段階ですが、実用化への期待が高まっています。アメリカでは「クールファットバーナー」という、着るだけで体を冷やすベストのような機器を使った臨床試験も始まっています。もともとはダイエットや糖尿病の治療を目的に開発されたものですが、今後はがん治療にも応用できるのではないかと注目されています。
「寒さでがんが小さくなる」と聞くと一見不思議ですが、体の代謝の仕組みをうまく利用した、まったく新しいタイプのアプローチなのです。

そして今回の第1位は、なんと「他人の便を使う」治療法です。少し抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、これはすでに臨床試験が行われており、実際にがんの治療効果が高まったという報告もある、非常に注目されている方法です。
この治療の背景にあるのは「腸内環境」と「免疫」の関係です。人の腸の中には無数の細菌がすみついており、それぞれが健康や病気に深く関わっています。最近の研究では、腸内細菌のバランスが、がん治療の効果を左右することが分かってきました。
特に、免疫の力を利用してがんを攻撃する「免疫療法」では、腸内環境の違いによって治療の効果や生存率に大きな差が出ることが確認されています。
そこで生まれたのが、「便移植」というアイデアです。治療がうまくいった人の便を採取し、そこに含まれる“良い腸内細菌”を、治療が効かなかった人の腸に移すという方法です。移植は大腸カメラなどを使って行われます。
2021年には、アメリカの研究チームがこの治療で大きな成果を上げたと報告しました。皮膚がんの一種であるメラノーマの患者において、免疫療法が効かなかった人に「効果があった人の便」を移植したところ、がんが小さくなり、なかには完全に消えてしまった例もあったのです。さらに、がんの組織を詳しく調べると、多くの免疫細胞が集まり、がんを攻撃している様子が確認されました。
現在もこの「便移植+免疫療法」の組み合わせは世界中で臨床試験が進んでおり、将来的には一部のがん治療に取り入れられる可能性があります。「他人の便でがんが治る」と聞くと驚きますが、腸内細菌の力を借りて免疫を高めるという考え方は、今後の医療の大きな流れになっていくかもしれません。
今回は、「ちょっと変わったがんの治療法」を3つ紹介しました。
第3位は「細菌」でがんを治す方法。
第2位は「寒さ」でがんを治す方法。
そして第1位は「他人の便」でがんを治す方法でした。
これらはいずれもまだ研究や臨床試験の段階にありますが、発想の豊かさや生命の仕組みを利用する点で、とても興味深いものです。
かつては想像もできなかった「がんの治療」が、今まさに現実に近づいています。これからの研究によって、安全で効果のある新しい治療法が生まれる日を、期待しながら見守りたいものです。