抗がん剤の副作用 好中球減少は予後良好(生存率改善)のサイン?

抗がん剤治療を受けている患者さんにとって、副作用は避けて通れない大きな問題です。吐き気や脱毛、しびれなど、自覚的に現れる副作用はもちろんのこと、血液検査で初めて分かるような自覚症状のない副作用も少なくありません。これらの副作用は、生活の質(QOL)を大きく低下させるだけでなく、症状が強い場合には治療を延期し、場合によっては中止せざるを得ないこともあります。

しかし最近の研究では、そんな「厄介な副作用」の中に、治療がしっかり効いているサインと考えられるものがあることがわかってきました。その代表例が、「好中球減少」です。
今回は、この“好中球減少と治療効果の不思議な関係”について、最新のエビデンスを交えながら詳しく解説します。

好中球とは?体を守る“最前線”の免疫細胞

好中球とは?体を守る“最前線”の免疫細胞

好中球とは、白血球の一種で、細菌などの外敵から体を守る“免疫の最前線”で働く細胞です。体内に細菌や異物が侵入すると、真っ先に反応してそれを攻撃・除去します。血液検査では、白血球の中でも最も多くを占める成分です。

通常、血液1マイクロリットルあたり1500〜8000個ほどの好中球が存在しますが、抗がん剤治療を行うとこの数が減少することがあります。これが「好中球減少(neutropenia)」です。

抗がん剤は、がん細胞の分裂を抑えることで効果を発揮しますが、同時に骨髄で血液細胞を作る能力(造血機能)も抑えてしまいます。結果として、赤血球や血小板、白血球(特に好中球)が減少してしまうのです。
一般に、好中球が1マイクロリットルあたり1000個未満になると感染リスクが高まり、500個を下回ると重篤な感染症を起こすリスクが大幅に上昇します。

このため、好中球減少は危険な副作用として扱われることが多いのですが、実は近年、好中球が減ること自体が「抗がん剤がしっかり効いている証拠」である可能性が報告されるようになっています。

好中球減少が“予後良好”のサイン?驚きの研究結果

この興味深い関係を示した研究は、2012年に発表された乳がんの臨床研究です。対象となったのは、早期乳がんの患者325人。
彼らは「FEC療法」と呼ばれる、フルオロウラシル・エピルビシン・シクロフォスファミドという3種類の抗がん剤を組み合わせた標準的な治療を受けました。

研究では、治療後の患者を次の3つのグループに分けました。

  1. 好中球減少が見られなかったグループ
  2. 軽度の好中球減少が見られたグループ
  3. 重度の好中球減少が見られたグループ

そして、それぞれの5年生存率を比較したところ、以下のような結果が得られました。

  • 好中球減少なし:65%
  • 軽度の好中球減少あり:89%
  • 重度の好中球減少あり:84%

驚くべきことに、軽度の好中球減少が見られた患者の方が、最も生存率が高かったのです。

さらに、患者の年齢や病期などの条件を統計的に調整した「多変量解析」でも、軽度の好中球減少は死亡リスクをおよそ57%低下させる因子として明確に示されました。
つまり、抗がん剤投与後に適度な好中球減少が見られる患者ほど、抗がん剤の効果が高い可能性がある、というわけです。

乳がん以外のがんでも同様の傾向

乳がん以外のがんでも同様の傾向

このような結果は、乳がんに限られたものではありません。
同様の現象は大腸がん、すい臓がん、子宮頸がん、卵巣がんなど、他のがん種でも確認されています。

たとえば、大腸がんに対して「mFOLFOX6」という抗がん剤治療を行った患者を対象にした研究では、治療の3コース目より前に好中球減少が見られた患者が、もっとも長く生存していました。
すなわち、早い段階で好中球が減るほど治療効果が高いという結果です。

また、すい臓がんに対して「ゲムシタビン」を中心とした治療を受けた患者のデータでも、治療初期に好中球減少が見られた人は、そうでない人に比べて死亡リスクが約30%低下していました。

これらの研究から、「好中球減少が起こる=抗がん剤が強く作用している」という可能性が強く示唆されます。
もちろん、好中球が極端に減ると感染症のリスクが高まるため、治療チームによる厳重な管理が必要ですが、「副作用=悪いこと」と一概には言えないことが分かります。

“副作用が出た方が効いている”という考え方

こうした研究結果は、一見矛盾しているようにも思えます。
なぜなら、抗がん剤の副作用が強いほど、治療の負担も大きくなるため、「副作用が強い=体に悪い」という印象を持つのは自然なことだからです。

しかし、抗がん剤の効果と副作用の強さには、薬が体内でどの程度作用しているか(薬物動態)が関係しています。
つまり、薬が十分にがん細胞に届き、活発に働いている場合、副作用も強く出る傾向があるのです。
言い換えれば、副作用がまったく出ないということは、薬が十分に効いていない可能性もある、ということになります。

もちろん、好中球減少が強すぎると治療を中断しなければならない場合もあります。そのため、医師は「効きすぎず、効かなすぎず」のバランスを保つよう、抗がん剤の投与量やスケジュールを細かく調整しています。

好中球減少を“前向きにとらえる”ということ

好中球減少を“前向きにとらえる”ということ

抗がん剤治療を受けている最中に「血液検査で好中球が減っています」と聞くと、不安を感じる患者さんは少なくありません。
しかし、ここまでの研究結果を見ると、好中球減少は必ずしも悪いニュースではなく、「薬がしっかり効いている証拠」と前向きに考えることもできます。

もちろん、感染予防のための注意は欠かせません。手洗いやうがい、人混みを避けるなどの基本的な感染対策を徹底することが大切です。
そして、もし発熱や体調変化があれば、すぐに医療機関に相談しましょう。

まとめ

抗がん剤の副作用として頻繁にみられる「好中球減少」。
一見すると不安を感じる現象ですが、実は、抗がん剤が体内でしっかり働いている証拠であり、予後良好のサインである可能性があることが、複数の研究で報告されています。

もちろん、過度な好中球減少は感染症などの危険を伴いますが、医療チームが慎重にモニタリングすることで安全に治療を継続できます。
副作用の存在を「効いている証」として前向きにとらえることは、長く続く治療の中で心を支える大きな力になるでしょう。