今回は体幹筋とインナーマッスルについて解説していきたいと思います。最近では、健康番組やスポーツのトレーニング指導などでこの言葉を耳にする機会が増えました。けれども、「体幹筋とはどこの筋肉なのか」「インナーマッスルとは具体的に何を指すのか」と問われると、意外と正確に説明できる方は少ないのではないでしょうか。
本記事では、それぞれの言葉の意味と実際の体の構造を整理しながら、誤解されやすいポイントを分かりやすくご紹介します。

まず「体幹」とは、「体の幹(みき)」という言葉のとおり、胴体の部分を指します。つまり、頭と手足を除いた胸・背中・お腹・腰など、体の中心部分です。そのため、「体幹筋」と言われると、胴体の中心を支える大きな一本の筋肉をイメージされる方が多いのですが、実際には「体幹筋」という名前の筋肉は存在しません。
体幹を構成しているのは、複数の筋肉の集合体です。
お腹の前側には「腹直筋」や「腹斜筋」「腹横筋」などの筋肉が何層にも重なり、その奥には内臓があります。背中側には「脊柱起立筋」や「多裂筋」といった背筋群が存在し、こちらも層を成しています。つまり、私たちが「体幹筋」と呼んでいるのは、胴体部分を構成するこれらの筋肉の総称にすぎないのです。
また、お腹の奥には「腰筋(ようきん)」という筋肉があります。腰の奥深く、腸のすぐ後ろに位置するこの筋肉は、骨盤の中央部から太ももの骨につながっています。そのため「体の中心にある筋肉=体幹筋はこの腰筋ではないか」と思われる方もいるかもしれません。しかし、腰筋の主な働きは「腰を伸ばす」ことではなく「股関節を曲げる」こと。つまり、姿勢を保つための筋肉というよりも、脚を持ち上げるための筋肉なのです。
このように、体の真ん中に“体幹筋”という特別な筋肉が存在するわけではなく、実際には腹筋群や背筋群など、複数の筋肉がバランスをとって体を支えているのです。
それでは、なぜ「体幹筋を鍛える」という言葉が広まったのでしょうか。
この背景には、日本古来の身体観が関係しています。たとえば、武道や座禅などで重視される「丹田(たんでん)」という概念があります。丹田はへその少し下、体の中心にあるとされる場所で、「心身の安定」や「力の源」として古くから大切にされてきました。日本人はこの「体の中心を意識する」という考え方を長く受け継いできたため、自然と“体幹を鍛える”という発想にもつながったのだと考えられます。
つまり、現代でいう「体幹トレーニング」というのは、体の中心部分を安定させ、姿勢を整え、バランス感覚を高めるための総合的なトレーニングなのです。
「体幹筋」という筋肉が存在するわけではありませんが、体の中心を支える筋肉群を鍛えることが健康や運動能力の向上に役立つという点では、非常に理にかなった考え方といえるでしょう。
続いて「インナーマッスル」について説明しましょう。
この言葉を聞くと、英語だろうと思われる方が多いのですが、実は“インナーマッスル”は日本で作られた和製英語です。
たとえば「ナイター(ナイトゲーム)」という言葉が英語っぽく聞こえるけれども、実際は日本で生まれた言葉であるのと同じです。英語では「インナーマッスル」という表現は使わず、「deep muscle(深層筋)」などが一般的です。
語源を理解したうえで、この言葉の意味を整理すると、インナーマッスルとは「体の深い部分にある筋肉」ということになります。皮膚のすぐ下にある表面の筋肉(アウターマッスル)に対して、骨や関節の近くで体の動きを安定させる役割を持つ筋肉がインナーマッスルです。
ですから、インナーマッスルは体幹だけでなく、手や足、首など、全身のいたるところに存在します。

インナーマッスルの中でも特に注目されているのが、肩の筋肉です。肩の構造は他の部位と比べて少し特殊で、筋肉が二層構造になっています。外側の大きな筋肉(アウターマッスル)は「三角筋」などで、腕を大きく動かす役割を担っています。一方、内側の薄い筋肉群は「腱板(けんばん)」と呼ばれ、これが肩のインナーマッスルにあたります。
腱板は、肩甲骨から上腕骨を包み込むように付着しており、肩の関節を安定させる非常に重要な役割を果たしています。スポーツ選手、特に野球のピッチャーが肩を痛めやすいのは、この腱板に過度な負担がかかるためです。
そのため、肩を守るためのトレーニングでは、ゴムチューブを使って腕を回すような小さな動きを繰り返すことがあります。これは、まさに肩のインナーマッスルを鍛えるための運動です。見た目には地味なトレーニングですが、肩の安定性を保つうえでは非常に効果的です。
肩が二層構造であること、そして内側のインナーマッスルが外側の動きを支えているという関係性を理解しておくと、ケガの予防や効率的なトレーニングにつながります。
インナーマッスルは、体の深い部分にあるため、外見からはわかりにくい筋肉です。しかし、この筋肉を鍛えることには多くのメリットがあります。

今回のテーマ「体幹筋」と「インナーマッスル」は、どちらも私たちの体を支えるうえで非常に重要な存在です。
ただし、「体幹筋」という名前の筋肉があるわけではなく、腹筋群や背筋群など、胴体を構成する複数の筋肉の総称であること。そして、「インナーマッスル」というのは和製英語であり、体の深い部分にある筋肉全般を指す言葉であることを理解しておきましょう。
体幹やインナーマッスルは、目に見える筋肉ではありません。しかし、私たちが立つ・歩く・動くといった日常の動作を支える“縁の下の力持ち”です。
スポーツをしている方はもちろん、デスクワーク中心の方でも、これらを意識したトレーニングや姿勢づくりを行うことで、腰痛や肩こりの予防、そして安定した体づくりにつながっていきます。
ぜひこの機会に、「体の奥で働く筋肉」に目を向けてみてください。
きっと、あなたの体の感覚が少し変わってくるはずです。