乳がん急増の原因物質がわかった?大気汚染(PM2.5)と乳がんリスクの関係についての最新研究を紹介

はじめに

はじめに

近年、女性のあいだで増え続けている病気のひとつに「乳がん」があります。
この30年ほどで患者さんの数はなんと約5倍に増え、現在では1年間におよそ10万人が新たに乳がんと診断されているといわれています。

乳がんは、女性がかかるがんの中で最も多いがんです。日本だけでなく、世界的にも増加傾向が続いており、その原因を探ることは大きな課題となっています。

これまで、乳がんが増えている背景には「高齢化」や「食生活の欧米化」「お酒を飲む習慣」「肥満」などが関係していると考えられてきました。
また、女性ホルモンの影響も大きく、出産回数や授乳経験、初潮や閉経の年齢など、ホルモンに関わるライフスタイルも影響しているといわれています。

ところが最近、新たな視点から注目を集めているのが「大気汚染」という環境要因です。
実は、私たちが日常的に吸い込んでいる空気の中にも、健康に悪影響を与える可能性のある微粒子が含まれているのです。

PM2.5という小さな粒の正体

PM2.5という小さな粒の正体

大気汚染の原因のひとつとしてよく耳にするのが「PM2.5(ピーエム・ツー・ポイント・ファイブ)」という言葉です。
これは非常に細かい粒子で、髪の毛の太さの30分の1ほどしかなく、肺の奥まで入り込みやすいのが特徴です。
車の排気ガスや工場の煙、燃焼によって発生し、風にのって遠くまで運ばれることもあります。

このPM2.5が健康に悪いことは以前から知られており、たとえば心臓や肺の病気を悪化させるほか、がんとの関係も指摘されてきました。
とくに、肺の一部にできる「腺がん」と呼ばれるタイプのがんでは、PM2.5との関連が海外の有名な医学誌で報告されています。

では、このPM2.5は肺以外の臓器、たとえば「乳房」にも影響を与えるのでしょうか?
この疑問を調べるため、アメリカで大規模な研究が行われました。

アメリカでの大規模調査の結果

2023年9月、アメリカの国立がん研究所の専門誌に発表された研究では、約20万人の女性を対象に、過去10〜15年の間に住んでいた地域のPM2.5濃度と乳がんの発症率を調べました。

結果は驚くべきものでした。
PM2.5の年間平均濃度が「1立方メートルあたり10マイクログラム」増えるごとに、乳がんの発症リスクがおよそ8%高くなるというのです。

さらに詳しく調べると、この影響は「エストロゲンレセプター陽性」と呼ばれるタイプの乳がんで特に強く見られました。
これは、女性ホルモンの影響を受けやすいタイプの乳がんで、閉経前後の女性に多い傾向があります。

つまり、PM2.5は単に肺や心臓に悪いだけでなく、女性ホルモンに関わるタイプの乳がんを増やす一因となっている可能性が示されたのです。

デンマークでも同様の結果が

アメリカだけではなく、ヨーロッパのデンマークでも同じような研究が行われています。
そこでも、PM2.5の濃度が高い地域では乳がんの発症が増える傾向が確認されました。
異なる国や地域で共通した結果が出たことで、この関連性は偶然ではない可能性が高いと考えられています。

日本ではどうなのか?

では、日本ではどうなのでしょうか。
同じようにPM2.5と乳がんの関係を直接調べた研究はまだありませんが、関連する興味深い報告があります。

2023年2月に日本人女性を対象に行われた研究では、居住地のPM2.5濃度と「高濃度乳腺(デンスブレスト)」との関係が調べられました。

「高濃度乳腺」とは、乳房の中に脂肪よりも乳腺の割合が多い状態のことです。
マンモグラフィー検査では白く写るため、乳がんが見つかりにくいという問題があります。
さらに、この状態の人は乳がんのリスク自体も高いことがわかっています。

研究の結果、PM2.5の濃度が高い地域に住む女性では、高濃度乳腺の人がやや多く見られました。
1年間のPM2.5への曝露で約3%増加、5年間で4%、7年間で5%と、長く住むほどリスクが高まる傾向があったのです。

この結果は、PM2.5が直接乳がんを引き起こすと断定するものではありませんが、「乳がんになりやすい体の状態」に影響している可能性を示しています。

私たちにできること

私たちにできること

大気汚染の問題は、一人ひとりがすぐに解決できるものではありません。
車や工場、海外からの大気の流れなど、さまざまな要因が関わっているため、国や地域レベルでの取り組みが必要になります。

しかし、日常生活の中でも、少し意識するだけでリスクを減らすことは可能です。

  • 黄砂やPM2.5の数値が高い日は、できるだけ長時間の外出を控える
  • 外出する場合は、できるだけマスクを着用する
  • 室内では空気清浄機を活用する
  • たばこの煙(特に副流煙)を避ける

こうした小さな工夫でも、身体への負担を減らすことができます。

さいごに

今回紹介した研究からは、「大気汚染」が乳がんの増加に関係している可能性があることがわかってきました。
とくにPM2.5のような微粒子は、知らないうちに体の中に入り込み、長い年月をかけて健康に影響を与えることがあると考えられています。

ただし、がんの原因はひとつではありません。
遺伝や生活習慣、ホルモンの影響、環境要因など、いくつもの要素が積み重なって発症します。
そのため、大気汚染も数ある要因のひとつと考えるのが自然です。

それでも、「きれいな空気を守ること」が私たちの健康を守ることにつながるのは間違いありません。
日々の生活の中でできる対策を心がけながら、自分の体を守っていきたいものですね。