
近年、健康志向やダイエットブームの高まりとともに、世界的に人工甘味料の消費量が増加しています。私たちの身近な食品の多くに使われているため、日常的に摂取している方も少なくありません。砂糖の代わりとしてカロリーを抑える目的で利用されることが多く、「ヘルシー」なイメージを持たれがちな人工甘味料ですが、果たして本当に安全なのでしょうか。
現在、食品や飲料に広く使用されている人工甘味料には、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース、そして天然由来とされるステビアなどがあります。とくに「シュガーレス」「糖質オフ」「低カロリー」といった表示のある商品には必ずといっていいほど含まれていますが、実はそうした表示がない一般的な加工食品にも、人工甘味料が使われていることは珍しくありません。
こうした背景のもと、「人工甘味料は砂糖より健康的」という考え方が広く浸透しています。しかし、最近の研究結果からは、必ずしもそうとは言い切れない実態が明らかになりつつあります。人工甘味料を長期間、あるいは過剰に摂取すると、体重増加や肥満、糖尿病のリスク上昇だけでなく、認知症、脳卒中、心血管疾患、さらにはがんの発症リスクまでも高まるという報告が増えてきているのです。なかには、がんのリスクが10%以上上昇するという調査結果もあります。
とはいえ、「なぜ人工甘味料によってがんのリスクが高まるのか」というメカニズムは、これまで十分に解明されていませんでした。ところが2023年3月15日、世界的な科学雑誌『Nature(ネイチャー)』に掲載された最新の研究論文が、この問題に新たな光を当てました。論文のタイトルは、「人工甘味料スクラロースはT細胞による免疫応答を抑える(Sucralose suppresses T-cell-mediated immune responses)」というものです。

この研究では、人工甘味料の一種である「スクラロース」が、体の免疫反応の中心を担うT細胞にどのような影響を与えるのかを詳細に調べました。T細胞とは、体内に侵入したウイルスや細菌、あるいはがん細胞などの異常細胞を見つけ出し、排除する重要な免疫細胞です。つまり、私たちの体を守る最前線に立つ防衛部隊のような存在といえます。
研究チームはまず、マウスにスクラロースを溶かした水、または通常の水を与えて比較実験を行いました。その結果、スクラロースを与えられたマウスでは、免疫細胞のうちCD8陽性およびCD4陽性のT細胞の増殖がいずれも減少していることがわかりました。さらに、T細胞ががん細胞などを攻撃するためには、未熟な状態から「攻撃型」へと分化する必要がありますが、この分化の能力までもが低下していました。
つまり、スクラロースを摂取することでT細胞の数が減るだけでなく、免疫としての機能そのものが弱まってしまうことが示されたのです。
研究チームは次に、このT細胞の弱体化が実際にがんの発生や進行にどのように影響するかを検証しました。特殊な抗原を発現するがん細胞をマウスの体内に移植し、スクラロースを摂取させたグループとそうでないグループを比較したところ、驚くべき結果が得られました。通常の水を与えたマウスでは、免疫システムがしっかり働き、一時的に腫瘍が大きくなっても、その後は小さくなっていきました。ところがスクラロースを摂取したマウスでは、免疫による抑制効果が弱まり、腫瘍がどんどん成長してしまったのです。同様の結果は他のがんモデルでも確認され、スクラロースが免疫反応を抑制することでがんの進行を促進する可能性があることが示唆されました。
このように、人工甘味料が健康に与える悪影響は、単なる代謝の問題にとどまりません。免疫の中枢を担うT細胞の働きを直接的に弱めるということは、感染症への抵抗力が下がるだけでなく、体内で発生する初期のがん細胞を見逃してしまうリスクにもつながるのです。
では、なぜ人工甘味料が免疫や代謝に悪影響を及ぼすのでしょうか。これまでの研究から、人工甘味料が腸内環境を変化させ、慢性的な炎症を引き起こすことがわかっています。腸内細菌のバランスが崩れると、腸の免疫機能が低下し、全身の免疫システムにも悪影響を及ぼします。さらに今回の研究で、スクラロースがT細胞そのものの働きを抑制することが確認されたことで、人工甘味料が多方面から免疫機能を弱体化させる可能性が高いと考えられています。
このような研究結果を聞くと、「人工甘味料はもう一切摂ってはいけないのか」と心配になる方もいるでしょう。しかし、重要なのは「過剰に摂取しないこと」です。多くの食品添加物と同じく、適量であればすぐに健康被害を及ぼすわけではありません。問題は、日常的に大量の人工甘味料を摂取し続ける生活習慣です。清涼飲料水やお菓子、調味料、加工食品などを頻繁に摂る方は、知らず知らずのうちに摂取量が増えているかもしれません。
また、「人工甘味料が危険なら、砂糖に戻せばいいのか」という疑問もあると思いますが、砂糖もまた血糖値を急上昇させ、糖尿病や肥満の原因となるため、摂りすぎは禁物です。では、甘みを楽しみながら健康を損なわないためには、どのような選択肢があるのでしょうか。

私がおすすめしたいのは「オリゴ糖」です。オリゴ糖は摂取しても血糖値をほとんど上昇させず、インスリンの分泌にも影響を与えません。それだけでなく、腸内の善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌のエサとなり、腸内環境を整える働きもあります。腸の健康は免疫力にも深く関わっているため、オリゴ糖を選ぶことは結果的に免疫を守ることにもつながります。実際に使ってみると、少量でもしっかり甘みを感じられ、料理やお菓子作りにも十分活用できます。
人工甘味料は「カロリーゼロ」「糖質オフ」という言葉の陰に隠れた、見えにくいリスクを持つ成分です。便利で甘い生活を楽しむことは悪いことではありませんが、自分の体を守るためには、その甘さの裏側にあるデメリットを理解し、賢く選ぶことが大切です。
私たちの健康は、毎日の小さな選択の積み重ねでつくられています。人工甘味料の摂取を見直し、自然に近い甘味料やオリゴ糖をうまく取り入れることで、免疫力を保ちながら安心して「甘いひととき」を楽しめるのではないでしょうか。