今回は「五十肩」についてお話ししていきたいと思います。
中高年の方で肩が痛いと整形外科を受診される方は非常に多くいらっしゃいます。その中で「自分の肩の痛みは何が原因なのだろう」と疑問を持たれる方も多いでしょう。実際に、肩の痛みの原因を統計的に調べた研究によると、最も多いのが「五十肩(肩関節周囲炎)」で、全体の約60%を占めています。次に多いのが腱板断裂で23%、続いて石灰沈着性腱炎が約7.6%という結果でした。つまり、肩の痛みを訴える患者さんのうち、およそ6割は五十肩によるものですが、裏を返せば4割は別の病気であるということも知っておく必要があります。

「五十肩」という名前のとおり、発症のピークは50代にあります。40代ではやや少なく、60代を超えるとむしろ減っていく傾向が見られます。このことから、五十肩は単純に「加齢」や「老化」によるものではないと考えられています。
つまり、年を取れば取るほど増える病気ではなく、50代前後という特定の時期に起こりやすい、いわば“中年期特有”の肩の病気なのです。
医療現場では「五十肩」という呼び方のほかに、「肩関節周囲炎」や「凍結肩(フローズンショルダー)」とも呼ばれます。これは、肩の関節を包んでいる組織が炎症を起こしたり、固くなったりすることで、関節の動きが制限されてしまう状態を指します。
肩の動きを理解するために、まず「関節可動域」という概念を知っておくことが大切です。
関節可動域とは、関節がどこまで動かせるかという範囲のことを指します。そして、これには「自動的関節可動域」と「他動的関節可動域」の2種類があります。
この2つの違いは非常に重要です。自分で腕を上げられない場合、その原因は「筋力不足」や「痛みのために動かせない」ことが考えられます。一方、他人に動かしてもらっても腕が上がらない場合は、関節そのものが硬くなっている、つまり「拘縮(こうしゅく)」が起きている状態といえます。
五十肩では、この「他動的可動域」まで制限されることが特徴です。医師が患者さんの腕を持ち上げても、肩が固くてほとんど上がらない――それが五十肩の典型的な状態です。
五十肩の根本的な原因は「関節包(かんせつほう)」という組織の変化にあります。
関節包とは、骨と骨をつなぐ関節を袋のように覆っている膜のことです。通常、この関節包は柔軟で伸び縮みができるのですが、五十肩ではこの関節包が硬く縮んでしまいます。その結果、関節が動かしにくくなり、痛みや可動域制限が起こるのです。
正常な関節包は、しなやかで弾力があり、まるで綿菓子のような構造をしています。しかし、五十肩になるとこの袋がカチカチに固まり、全体的に小さく縮こまった状態になります。これが、肩の動きを制限している主な要因です。
MRI検査では筋肉や骨の異常は分かりますが、この関節包の柔軟性は映りにくいため、画像では異常が見つからないこともしばしばあります。関節包の状態を調べるには、関節造影という検査で造影剤を注入し、袋の膨らみ方を観察する方法が有効です。

五十肩の症状は、時間の経過とともに大きく3つの段階をたどります。
五十肩の治療法
治療は、どの時期にあるかによって方針が異なります。
炎症期(急性期)
痛みが強いこの時期は、無理に動かすと症状が悪化します。そのため、積極的なリハビリは控え、まずは炎症と痛みを抑えることを優先します。
治療の中心は以下の通りです。
特に夜間痛が強い場合には、注射が有効なこともあります。
拘縮期(慢性期)
痛みが落ち着いてきたら、今度はリハビリテーションが重要になります。
関節を温めてから、少しずつ可動域を広げていく訓練を行います。ホットパックや温熱療法を併用しながら、無理のない範囲で継続することが大切です。
代表的な運動には以下のようなものがあります。
これらの体操を半年から1年ほど根気強く続けることで、肩の柔軟性が徐々に戻っていきます。

五十肩は「老化による病気」と誤解されがちですが、実際には中年期に一過性で起こる炎症性の疾患です。発症すると強い痛みや可動域の制限に悩まされますが、多くの場合、時間の経過とともに自然に改善します。
ただし、炎症期に無理をして動かすと症状が悪化するため、医師の指導のもとで適切な治療とリハビリを行うことが大切です。
焦らず、あせらず、少しずつ肩の動きを取り戻していくこと。これが五十肩の回復への最短の道です。