私たちの外来診療では、「首から腕にかけての痛み」を訴える患者さんが非常に多くいらっしゃいます。この症状は一見単純に思えるかもしれませんが、実際には**首(頚椎)**が原因のものと、肩関節が原因のものがあり、それぞれ原因や治療法が大きく異なります。したがって、まずどちらのタイプなのかを見極めることが非常に重要です。

まず首そのものが原因となるケースです。代表的な病気が**頚椎症(けいついしょう)**です。これは、首の骨の老化現象によって起こる疾患で、加齢とともに骨が変形し、首を動かすときに痛みを感じるようになります。
頚椎は7つの骨が積み木のように並んでおり、その中央には太い脊髄神経が通っています。この脊髄からは左右に「神経根」と呼ばれる枝のような神経が分かれ、首から肩・腕・手の指先までつながっています。
老化によって骨が変形すると、この神経を圧迫して痛みやしびれが起こることがあります。骨そのものの痛みだけでなく、神経が圧迫されることで神経痛として痛みを感じることもあります。
骨の変形によって脊髄(神経の幹の部分)が圧迫されると「頚椎症性頚髄症」に、枝の部分(神経根)が圧迫されると「頚椎症性神経根症」と診断されます。どちらの場合も、首から肩、腕、手先にかけて痛みやしびれが広がることがあります。
とくに神経根が圧迫されると、肩から腕、時には手の指先まで電気が走るような痛みを感じることもあります。このような痛みが出た場合は、整形外科での神経学的検査や画像診断(MRIなど)が必要になります。
首の痛みを引き起こすもう一つの代表的な病気が頚椎椎間板ヘルニアです。これは、首の骨と骨の間にある「椎間板」というクッションのような組織が後方に飛び出して神経を圧迫するものです。
老化が主因の頚椎症に対し、椎間板ヘルニアは30~40代の比較的若い世代にも多くみられます。症状は似ていますが、発症の仕組みが異なるため、診断の区別が大切です。

一方、首ではなく肩関節が原因で同じように腕まで痛みを感じるケースもあります。肩の動きに関係する筋肉や腱に異常が生じると、首から腕にかけての痛みを引き起こすことがあるのです。
肩関節が原因の痛みは、肩を動かすと痛みが強くなるのが特徴です。動作時に痛みが悪化する場合は、首ではなく肩に問題があると考えられます。
肩の痛みの原因で最も多いのが**五十肩(ごじゅうかた)**です。中年以降に多く見られ、肩関節を包む「関節包」が硬くなる(拘縮)ことによって痛みや動かしにくさが生じます。肩を動かすたびにズキッとした痛みが走り、腕を上げたり後ろに回したりする動作が困難になります。
五十肩は自然に軽快する場合もありますが、痛みの強い時期には無理をせず、温熱療法や適度な運動で徐々に可動域を回復させることが大切です。
もう一つ重要な病気が**腱板断裂(けんばんだんれつ)**です。肩を支える筋肉群(腱板)が老化や外傷で切れてしまうことで起こります。高齢者に多く見られ、肩を動かしたときの鋭い痛みや、腕を上げにくいといった症状が特徴です。
肩関節が原因の痛みのうち、およそ半数は五十肩、6分の1程度が腱板断裂によるものとされています。どちらも肩を動かすことで痛みが増強する点が共通しています。

首や肩の痛みと聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのが肩こりでしょう。肩こりは年齢や性別を問わず非常に多くの人を悩ませており、国民生活基礎調査でも常に上位に挙げられる症状です。
多くの場合、肩こりは首の付け根から肩甲骨の内側あたりにかけて「重だるい」「張る」「こっている」といった不快感を感じます。原因は一つではなく、いくつかの要因が複合的に関係しています。
首から腕にかけての痛みは、「頚椎(首)」が原因のものと「肩関節」が原因のもの、そして「筋肉のこり」が関係するものに大きく分けられます。
首の老化による頚椎症や椎間板ヘルニア、肩関節の病気である五十肩や腱板断裂など、原因によって治療法がまったく異なります。
もし「どこが原因か分からない」「首から腕が痛む」「肩を動かすとズキッと痛む」といった症状がある場合は、自己判断せず、整形外科での診察を受けることをおすすめします。早期に原因を特定し、適切な治療を行うことで、日常生活の不快な痛みを軽減することができます。