あの有名なアミノ酸で「がん」のリスクが低下?グルタミンと癌との関係

グルタミンとがん:アミノ酸が果たす多面的な役割

グルタミンとがん:アミノ酸が果たす多面的な役割

私たちの体を構成する栄養素の中で、特に重要なもののひとつにアミノ酸があります。アミノ酸はご存じの通り、タンパク質の原料となる物質ですが、体内では単に筋肉や臓器の材料になるだけではありません。実は、酵素やホルモンの合成にも関与し、さらに免疫機能の維持・向上にも深くかかわっている非常に重要な栄養素です。このため、アミノ酸が不足すると、筋肉量の減少や栄養状態の悪化だけでなく、感染症やがんの発症リスクが高まると指摘されています。

アミノ酸の中でも、特にがんとの関連が注目されているものがあります。それが「グルタミン」です。グルタミンは非必須アミノ酸に分類されるため、体内で合成することが可能ですが、その機能は非常に多岐にわたります。具体的には、筋肉の分解を抑えること、傷の治癒を助けること、消化管の機能を整えること、さらには免疫機能を維持・向上させることなどが知られています。こうした多面的な役割から、グルタミンは健康維持だけでなく、がん予防や治療の補助的栄養素としても注目されています。

血中グルタミン濃度とがんリスクの関係

では、実際にグルタミンが体内で多い人と少ない人では、がんのリスクにどのような違いがあるのでしょうか。2023年2月に発表された論文(BMC Medicine)では、ヨーロッパにおける観察研究を通じて、血液中のアミノ酸濃度と大腸がん発症リスクとの関連を調査しました。その結果、アミノ酸の中でもヒスチジンとグルタミンの血中濃度が高い人では、低い人に比べて大腸がんのリスクが低下していることがわかりました。特にグルタミンに関しては、血中濃度が最も高いグループでは、低いグループに比べて大腸がんの発症リスクが約15%低いという結果が得られています。

さらに、昨年報告された別の研究でも、血中のグルタミン濃度が高い人は、大腸がんのみならず、乳がん、子宮内膜がん、肝臓がんのリスクも低下していることが示されました。このように、血液中のグルタミンが多いことは、がんの発症リスク低下と関連している可能性があることがわかります。

グルタミンはがんを抑制するのか

グルタミンはがんを抑制するのか

次に、グルタミンが実際にがんの発生や進行を抑制する効果があるかどうかについて見てみましょう。2020年に発表された研究(Nature Communications)では、マウスを用いた皮下移植モデルを使い、食事とともにグルタミンを投与する実験が行われました。その結果、皮膚がんの一種であるメラノーマの成長が抑えられ、生存期間が延長することが確認されました。さらに、グルタミンを投与することで、分子標的薬であるBRAF阻害剤の効果も高まることが報告されました。

ただし、これはあくまで動物実験の結果であり、現在のところ人間における確実なエビデンスはありません。したがって、現時点で「グルタミンを摂取すればがんが抑制される」と断言することはできません。一方で、2016年に大阪大学から報告された研究では、大腸がん細胞はグルタミンを取り込み、細胞の生存に必要な物質を作ることで増殖していることが示されています。このように、グルタミンはがん細胞の成長に寄与する側面もあり、研究によって相反する結果が得られています。したがって、人におけるグルタミン摂取とがんリスクの関係は、今後のさらなる研究によって明らかにされる必要があります。

グルタミンを多く含む食品とサプリメント

では、日常生活でどのようにしてグルタミンを摂取すればよいのでしょうか。グルタミンは牛肉、豚肉、鶏肉などの肉類、まぐろやサーモンなどの魚、卵、大豆製品などに多く含まれています。アメリカで行われた国民を対象とした観察研究では、食事からグルタミンを多く摂取している人は、少ない人に比べてがんを含めた死亡リスクが低いことが報告されています。

ただし、肉の種類にも注意が必要です。赤肉(牛肉・豚肉)や加工肉(ハム、ベーコン、ソーセージなど)は摂りすぎると逆にがんリスクが高まる可能性があるため、バランスの取れた食事が重要です。また、食事から十分に摂取できない場合は、グルタミンのサプリメントを活用することも選択肢のひとつです。

がん患者におけるグルタミンの重要性

がん患者におけるグルタミンの重要性

がん患者にとって、筋肉量を維持することは非常に重要です。筋肉量の減少は体力の低下や治療への耐性低下につながるため、積極的に防ぐ必要があります。グルタミンは筋肉の分解を抑える作用があるため、体重が減少する悪液質(カヘキシア)を伴う患者さんにとって、特に重要な栄養素です。食事からの摂取に加え、必要に応じてサプリメントを活用することで、筋肉量の維持や体力の保持に寄与すると考えられます。

まとめ

アミノ酸の中でもグルタミンは、免疫機能の維持、筋肉量の保持、消化管機能の改善など多岐にわたる役割を持っています。血液中のグルタミン濃度が高い人は、がんのリスクが低下する可能性が示されており、動物実験ではがんの進行抑制効果も報告されています。しかし、人に対する確実な効果はまだ明らかではなく、今後の研究が待たれる状況です。

日常生活においては、肉や魚、卵、大豆などの食品からバランスよくグルタミンを摂取することが望ましいです。がん患者さんや筋肉量の維持が重要な方にとっては、サプリメントを上手に活用することも一つの手段となります。グルタミンを適切に摂取することで、健康維持や体力の保持、場合によってはがんリスクの低下にもつながる可能性があるため、日々の食生活に取り入れてみる価値があると言えるでしょう。