私たちの身近な薬のひとつに「アスピリン」という名前を聞いたことがある人も多いでしょう。
頭痛や発熱のときに使う薬として知られていますが、実はこの薬、もっと幅広い働きを持っていることがわかっています。

アスピリンは、100年以上も前から世界中で使われている古い薬です。
風邪で熱が出たとき、頭痛があるときなどに飲む「解熱鎮痛剤」として有名ですが、現在では「血液をサラサラにする薬」としてもよく使われています。
血液のかたまり(血栓)ができるのを防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞の再発を防ぐために、医師の指示で毎日少量を飲み続けている人も多いです。
そんなアスピリンに、じつは「がんの予防や再発を防ぐかもしれない」という研究結果が次々に報告されています。
いわば「昔からある安い薬に、思いがけない新しい効果があるのでは?」ということで注目が集まっているのです。

まず、2011年に世界的な医学雑誌『ランセット』に掲載された研究では、25,000人以上を対象とした複数の試験をまとめた結果、
毎日75mg以上のアスピリンを飲み続けていた人は、がんによる死亡のリスクが約20%低かったという驚くべき報告がありました。
さらに注目すべきは「長く飲み続けた人ほど効果が大きかった」という点です。
5年以上アスピリンを続けた人では、胃がんや大腸がんなど消化器のがんによる死亡リスクがなんと50%以上も低かったというデータもあります。
つまり、がんにかかる前から少量のアスピリンを飲み続けることで、体の中の炎症を抑え、結果的にがんの発生や進行を防いでいるのではないかと考えられています。
実際、海外では「がん予防のためにアスピリンを飲む」という人も少なくありません。
ただし、これはあくまで「医師の管理のもとで行う」ことが前提です。
次に、2017年に発表されたアメリカの研究では、「がんと診断されたあとにアスピリンを飲み始めるとどうなるのか?」が調べられました。
対象となったのは大腸がんの患者617人。がんの診断後にアスピリンを常用していた人と、していなかった人とを比べたところ、
アスピリンを飲んでいた人は大腸がんによる死亡リスクが84%も低かったという結果が出ました。
さらに詳しく調べると、アスピリンの効果は「免疫の働きが低下しているタイプのがん」で特に強く出ていたのです。
つまり、アスピリンは炎症を抑えるだけでなく、体の免疫バランスにも良い影響を与えている可能性がある、ということです。
この研究では、生存期間のグラフでもはっきりと差が出ており、アスピリンを飲んでいた人のほうが明らかに長く生きていました。
さらに2021年、台湾の研究グループが発表した調査では、胆嚢(たんのう)や胆管などの「胆道がん」に対してもアスピリンが有効かもしれない、という結果が出ています。
16,000人以上の患者さんのデータを調べたところ、がんの診断後にアスピリンを服用していた人は全体の約16%。
このグループでは、がんによる死亡のリスクが45%も低かったというのです。
このように、アスピリンは単に「がんになりにくくする」だけでなく、「がんの診断後に生存率を上げる」可能性まで示唆されています。
研究はまだ進行中ですが、すでに世界各地で臨床試験が進められており、今後は「がん治療のサポート薬」としての活用も期待されています。
では、なぜアスピリンが「がんの予防や再発防止」に役立つと考えられているのでしょうか?
その理由のひとつは、「体の中の炎症を抑える力」です。
体の中で慢性的な炎症が続くと、細胞が傷つきやすくなり、その結果としてがんができやすくなると言われています。
アスピリンは、炎症を起こす物質の働きをおさえることで、細胞のダメージを減らし、がんの発生を防いでいるのではないかと考えられています。
また、血液をサラサラにして細胞に酸素を届けやすくする作用も、がんの進行を遅らせる助けになっているのかもしれません。

ただし、どんな薬にも「メリット」と「リスク」があります。
アスピリンは比較的安全な薬として知られていますが、注意が必要な人もいます。
たとえば、
こうした場合には、自己判断で飲むのは危険です。
また、手術や抜歯などを予定している人は、血液が固まりにくくなる作用のため、事前に医師と相談して中止する必要があります。
最近では、海外の通販サイトなどで「低用量アスピリン」を簡単に購入できるようになりましたが、健康のために飲み始める場合も、必ず医師に相談してからにしましょう。
アスピリンは、もともと「痛み止め」として誕生した薬です。
しかし、研究が進むにつれて「血液サラサラ効果」だけでなく、「がんの予防・再発防止」にまでつながる可能性が見えてきました。
特に、長期的に飲み続けた人でがん死亡リスクが半減したという報告は、非常に注目すべき結果です。
もちろん、すべての人に同じ効果があるとは限りませんし、副作用のリスクもゼロではありません。
しかし、「日常的に使われてきた薬が、がんとの戦いにも役立つかもしれない」という事実は、多くの人にとって希望になるのではないでしょうか。
今後のさらなる研究で、アスピリンがどこまでがん治療や再発防止に貢献できるのか、注目していきたいところです。
そして、もし将来、医師の判断のもとで安全に使えるようになれば、「がんの治療を支える身近な薬」として、多くの人の健康を守る力になってくれるかもしれません。