年齢を重ねるにつれ、
「階段の上り下りがつらい」
「正座ができなくなった」
「膝がズキズキして眠れない」
――そんな膝の痛みに悩む方は多いのではないでしょうか。
その多くの原因が
「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」
です。
変形性膝関節症は、膝のクッションである軟骨がすり減ってしまうことで、
関節に炎症や変形が生じ、痛みを感じる病気です。
これまでは
「湿布」
「痛み止め」
「ヒアルロン酸注射」
などの保存的治療で経過をみるか、重症になると
「人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)」
で膝の関節を人工物に置き換えるという二択が一般的でした。
しかし、最近ではその“間”を埋めるような新しい治療法が登場しています。
今回は、そんな注目の治療法
「ラジオ波焼灼療法」
「自家培養軟骨移植」
「PRP療法」
について、わかりやすく解説します。

まず不思議なのは、
「軟骨には神経がないのに、なぜ痛みを感じるのか」
ということです。
軟骨そのものには痛みを感じる神経が通っていません。
では、痛みの正体はどこから来るのでしょうか?
それは、**膝の周囲に張り巡らされた“末梢神経”**です。
具体的には、次のような神経が関係しています。
・上外側膝神経
・上内側膝神経
・下外側膝神経
・下内側膝神経
これらの神経が、関節内の炎症や摩擦、
骨の変形によって刺激され、脳に「痛い」と伝えてしまうのです。
つまり、膝の痛みは「神経の痛み」であり、
軟骨がすり減ること自体ではなく、その結果として
神経が興奮してしまうことで起こるのです。
こうした神経をターゲットにしたのが、
「ラジオ波焼灼療法(しょうしゃくりょうほう)」
です。
この治療では、膝の痛みを伝える末梢神経を
高周波の熱エネルギーで“焼灼”し、痛みを感じにくくします。
治療の流れはこうです。
・局所麻酔をして、膝の周囲に細い電極(プローブ)を挿入します。
・電極の先端から微弱な電流を流して、痛みを感じる神経を正確に特定します。
・特定された神経を、ラジオ波の熱(約80℃)で数十秒焼灼します。
このとき、プローブの先端は冷却されており、熱による
周囲組織へのダメージを最小限に抑えます。
この技術を開発したのが、アメリカの「アバノス・メディカル社」。
2023年6月から、日本でも正式に保険適用となりました。
治療時間は片膝で30分程度、日帰りで行うことができ、
治療直後から歩行も可能です。
ある研究では、NRDスコア(膝痛評価)7だった患者が、
治療1か月後には3、6か月~24か月後でも2.5~3.6
と改善が続いたと報告されています。
つまり、中長期的にも痛みが軽くなる効果が期待できるのです。
Q1:目に見えないほど細い神経を、本当に皮膚の上から正確に焼けるの?
→ 高周波焼灼前に微弱な電流を流して、患者が「ここが痛い」と感じる場所を特定します。そのため、非常に精度の高い治療が可能です。
Q2:他の保存的治療と比べて利点は?
→ ヒアルロン酸注射や鎮痛薬のように“効果が短い”ものと違い、ラジオ波焼灼療法は半年〜2年ほど痛みが軽減するケースが多いとされています。
Q3:神経を焼いてしまって大丈夫なの?
→ 焼灼するのは“痛みを伝える枝の神経”のみ。運動神経や重要な感覚神経は残すため、歩行や感覚に支障はありません。

次に紹介するのは、「自家培養軟骨移植(じかばいようなんこついしょく)」です。
これは、ケガやスポーツなどで膝の軟骨が欠けてしまった「外傷性軟骨欠損症」や「離断性骨軟骨炎」に対して行われる治療です。
治療の手順は次の通りです。
・自分の膝から“余っている健康な軟骨”を少しだけ採取する。
・その軟骨の細胞を培養して増やし、「グミ状の軟骨組織」に再生する。
・数週間後、再生した軟骨を損傷部分に移植する。
この方法により、人工物ではなく“自分の軟骨”で修復できるのが大きなメリットです。
ただし、現時点では変形性膝関節症のような
「慢性的な軟骨消失」
には適応されていません。
対象となるのはあくまで“外傷性”の軟骨損傷など限られた症例であり、
保険適用外となることが多いのが現状です。
もうひとつ注目されているのが、「PRP療法(多血小板血漿療法)」です。
これは、患者自身の血液から
**PRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)**
を取り出し、関節内や靭帯などに注射するという再生医療の一種です。
血小板には“組織修復を促す成長因子”が多く含まれており、
炎症を抑えたり、痛みを軽減したり、軟骨の再生を促すといわれています。
▶ PRP療法の流れ
・自分の血液を少量採取。
・遠心分離機で血小板を高濃度に抽出。
・そのPRPを膝関節に注入する。
治療時間は30分ほどで、入院の必要はありません。
さらに、PRPを“凍結乾燥”して成分を濃縮した「PRP-FD療法」も登場しています。
こちらは効果がより長持ちするとされ、1回あたり30万円前後の費用がかかります。
一方、通常のPRP療法は1回3万円程度と比較的手軽に受けられる再生医療です。

これまで
「膝が痛い=年だから仕方ない」
「最終的には人工関節しかない」
と言われてきました。
しかし、今ではその間をつなぐ“中間的治療”が次々と登場しています。
これらの治療法は、
「まだ人工関節には早いけれど、薬や注射では限界を感じている」
という方にとって、新たな希望となるかもしれません。
膝の痛みは、単なる“老化現象”ではなく、医学的に改善できる時代に入りました。
最新の医療技術を活用しながら、自分に合った治療法を選ぶことで、痛みに
悩まされない日常を取り戻すことができます。
そして何より大切なのは、治療を受けるだけでなく、リハビリや軽い運動で筋肉を保つこと。
「治療」と「運動」を組み合わせることで、膝関節はより健康に、
そして長く自分の足で歩ける未来につながっていきます。
――あなたの膝には、まだ希望があります。