線維筋痛症の話

「体のあちこちが痛い」
「十分に寝ても疲れが取れない」
「検査では異常がない」

と言われるのに、つらさは続く。

このような状態が3か月以上続く場合、

繊維筋痛症(せんいきんつうしょう)

という病気が疑われます。

一見健康に見えても、全身に広がる慢性的な痛みや強い倦怠感、
こわばり、不眠、うつ傾向など、心身の両面に症状があらわれます。
にもかかわらず、血液検査やレントゲン、CT、MRIなど、あらゆる検査で
「異常なし」と言われてしまうのが、この病気の大きな特徴です。

■ 痛みの特徴と診断の手がかり

■ 痛みの特徴と診断の手がかり

繊維筋痛症の痛みは、関節や筋肉、腱などの広範囲にわたって起こります。
そのため、「肩こり」「腰痛」「関節痛」といった個別の痛みと混同されがちです。

しかしこの病気では、痛みの範囲が非常に広く、全身のあらゆる場所に
移動するように出現するのが特徴です。

米国リウマチ学会が1990年に示した診断基準では、

18か所の圧痛点(押すと痛みを感じる部位)


のうち、

11か所以上に圧痛がある

ことが診断の目安とされてきました。
さらに2013年の日本の診療ガイドラインでは、
以下のような診断基準が用いられています。

圧痛が7か所以上あり、疲労感・不眠・認知症状などの付随症状がある
圧痛が3~6か所であっても、3か月以上の付随症状がある

付随症状とは、以下のようなものを指します。

  • 強い疲労感
  • 朝起きたときの不快感(熟睡感がない)
  • 記憶力や集中力の低下(「ブレインフォグ」と呼ばれる)
  • 腹痛や下痢などの消化器症状
  • ドライアイや皮膚の乾燥
  • あざができやすい など

これらの症状が重なり、日常生活に
大きな支障をきたすケースも少なくありません。

■ 発症の背景と患者数

繊維筋痛症の原因は、はっきりとはわかっていません。
ただし、

脳や脊髄で痛みを感じる神経の過敏化

が関係しているのではないかと考えられています。

つまり、体の一部に小さな刺激があっても、脳がそれを

「大きな痛み」

として認識してしまう状態です。

ストレスや過労、睡眠不足、感染症、
外傷などが引き金になることもあります。

日本では人口の約1.7%(約200万人)が
この病気にかかっていると推計されており、
欧米でもおよそ2%と報告されています。


男女比は女性が圧倒的に多く、男性の約5倍
特に40代後半から50代の女性に多く見られます。

発症後は、痛みや疲労のために仕事や家事が続けられず、
約3分の1の人が休職・休学を経験すると言われています。

平均で3年ほど、社会生活に影響を及ぼすことも
あるため、早期の理解と支援が欠かせません。

■ 似た症状の病気との違い

■ 似た症状の病気との違い

繊維筋痛症は、他の病気と症状が似ているため
診断が難しいことが多い病気です。

医師の中でも

「実際に遭遇したことがない」

と話す人もいます。

似ている病気としては、次のようなものがあります。

  1. 関節リウマチ
     関節の腫れや変形を伴い、血液検査で炎症反応(リウマチ因子など)が陽性になる場合が多い。
     繊維筋痛症では、こうした炎症マーカーが正常です。
  2. 加齢による関節痛や変形性関節症
     レントゲンで骨や軟骨の変形が確認できる。
     繊維筋痛症では、画像上は異常が見られません。
  3. うつ病や不安障害
     精神的なストレスから体の痛みを感じるケースもありますが、繊維筋痛症は脳の痛み処理機能に異常がある「身体的疾患」として扱われます。

■ 治療法と対処の考え方

繊維筋痛症には

「これで完治する」

という治療法は、現時点では確立していません。

しかし、薬物療法と非薬物療法
を組み合わせることで、

痛みや不安、睡眠障害を
大きく軽減できることがわかっています。

① 薬物療法

  • 抗うつ薬(サインバルタなど)
     神経伝達物質のバランスを整え、痛みの感じ方を和らげます。
  • 抗けいれん薬(リリカなど)
     神経の過敏性を抑える効果があります。
  • 弱オピオイド系鎮痛薬(トラムセットなど)
     強い痛みに対して使用されることがあります。
     一方で、一般的な鎮痛薬(ロキソニンやボルタレン)
    は効果が限定的とされています。

② 非薬物療法

  • 運動療法
     軽いストレッチやウォーキング、ヨガなど、体を
    ゆるやかに動かすことで、痛みの感じ方が改善することがあります。
  • 心理・行動療法
     ストレスや不安が痛みを悪化させることが
    あるため、認知行動療法などで心の負担を軽減します。
  • 睡眠指導・生活リズムの改善
     夜更かしを避け、規則正しい生活を心がけることも大切です。

■ 周囲の理解が何よりの支えに

■ 周囲の理解が何よりの支えに

繊維筋痛症は、外見からは痛みがわからないため、
周囲の人から

「怠けているのでは?」

と誤解されることがあります。

しかし、これはれっきとした医学的な疾患であり、
本人の努力不足ではありません。

「痛い」
「つらい」


と言えない

苦しさを抱えながらも、日々の生活を送っている人

がたくさんいます。

家族や職場の理解、そして社会全体の認識が

少しずつ広がっていくことが、
治療と回復への大きな一歩になります。

■ まとめ:痛みとともに生きる人たちへ

繊維筋痛症は、検査に異常が見られないにもかかわらず
確かに存在する“痛みの病気”です。

原因が完全には解明されていないからこそ、患者さん一人
ひとりの生活や心の状態に寄り添ったケアが求められます。

痛みと付き合いながらも、自分のペースで生活を整え、無理なく動くこと。
そして、周囲の人が理解と支援を示すこと。

その積み重ねが、繊維筋痛症とともに
生きるための何よりの支えになるでしょう。