〜「少しだけなら大丈夫」は本当なのか〜

コンビニやスーパーで手軽に買える「ストロング系チューハイ」。
そのアルコール度数の高さと飲みやすさから、一時は爆発的なブームとなり、2020年頃まで売上は右肩上がりを続けていました。現在はやや落ち着いたとはいえ、いまだに根強い人気を保っています。
ストロング系とは、一般的にアルコール度数が7〜9%程度のチューハイを指します。最大の特徴は、アルコール度数が高いにもかかわらず、甘くて飲みやすいものが多いこと。そして価格が比較的安いことから、「手軽に酔えるお酒」として若い世代を中心に愛飲されています。
しかし、「350mlを1本だけなら大丈夫」「毎日飲んでも1缶だけだから問題ない」と思っている人も少なくありません。果たして本当にそう言い切れるのでしょうか。
アルコールと健康の関係については、近年さまざまな研究が進んでいます。
2018年に世界的に有名な医学雑誌『Lancet(ランセット)』に掲載された研究では、195の国と地域を対象に、アルコール摂取による23の健康リスクを解析した結果が報告されました。
その結論は非常に衝撃的なものでした。
「健康への悪影響を最小化するためには、アルコール摂取量はゼロにすべきである」――つまり、「一滴も飲まないのが最も安全」という結果です。
さらに、世界保健機関(WHO)も2020年に発表した報告書で、世界中で診断されたがん患者のうち、約4%にあたる75万人がアルコール摂取に関連していたと指摘しています。そのうち10万人以上は「軽度から中程度の飲酒」が原因だったということです。
こうした結果を受け、WHOは「アルコールに安全な量は存在しない(No safe level of alcohol consumption)」と明言しました。
かつては「お酒も適量なら健康に良い」と言われていた時代がありましたが、いまや「少しでも飲むとリスクがある」という認識に世界の医学界はシフトしています。
アルコールは、さまざまな臓器に影響を及ぼします。
とくにがんとの関係は深く、代表的なものとして以下の種類が知られています。
なかでも乳がんは、あまりお酒と関係ないように思われがちですが、実際には女性の飲酒によってリスクが上昇することが明らかになっています。少量の飲酒でも、乳がんの発症率が有意に高まるという報告が複数あります。

日本人は欧米人と比べて、アルコールを分解する酵素(ALDH2など)の働きが弱い人が多いことが知られています。いわゆる「お酒に弱い体質」の人が多く、飲酒による健康被害を受けやすい傾向にあります。
2019年、東京大学を中心とする研究チームが「少量の酒でもがんリスクが上昇する」という内容を発表し、大きな話題となりました。この研究結果は2020年に『Cancer』という国際的な医学誌に掲載されています。
研究では、約6万3千人のがん患者と、同数のがんのない人を対象に、長期的な飲酒量と飲酒期間を詳細に調査しました。その結果、まったく飲まない人に比べ、少量でも飲む人は明らかにがんの発症リスクが高いことがわかりました。さらに、「飲酒量 × 年数」が増えるほど、リスクが直線的に上昇していたのです。
たとえば、1日に日本酒1合(純アルコール約23g)を10年間飲み続けると、全体のがんリスクは5%上昇。
一見すると小さな数字に見えますが、がんの種類別に見ると、
というように、部位によっては非常に大きな差が見られました。
ここで注目したいのは、この「純アルコール量23g」という数字です。
実は、9%のストロング系チューハイ350ml缶1本に含まれるアルコール量が、ちょうどこの23gに相当します。
つまり、「毎日ストロング系を1本だけ飲む」という生活は、上記の研究でリスクが上昇していた「日本酒1合を10年間飲み続ける」ケースとほぼ同じなのです。
たった1本でも、毎日飲み続けることで確実に健康リスクが積み重なっていきます。

医学的に見れば、飲酒しないこと――すなわち「禁酒」こそが最も安全です。
しかし、長年お酒を習慣としてきた人にとって、急にやめるのは簡単ではありません。
そこで現実的な第一歩として、「減酒(げんしゅ)」がすすめられます。
たとえば、次のような工夫をしてみましょう。
「今さら減らしても遅い」と思う人もいるかもしれません。
しかし、韓国で行われた最新の研究では、「飲酒量を減らした人」は、同じ量を飲み続けた人よりも、その後のがん発症リスクが有意に低下していたという報告があります。つまり、「減らすこと」には確かな意味があるのです。
ストロング系のお酒は、手軽でおいしく、つい習慣になってしまうものです。
しかし、たとえ1本でも毎日続けることで、がんや生活習慣病のリスクが確実に高まることが、多くの研究で明らかになっています。
「安全な量」は存在しません。
けれども、「減らす努力」には確実な価値があります。
もし今、毎晩のようにストロング系を飲んでいるなら――
今日から少しだけ、飲む量や回数を減らしてみませんか?
その小さな一歩が、あなたの健康と未来を守る大きなきっかけになるはずです。