梨状筋症候群の話

「梨状筋(りじょうきん)」

という筋肉の名前を、
聞いたことがある方は少ないかもしれません。
梨状筋は、お尻の奥の方、骨盤の中で

「坐骨神経(ざこつしんけい)」

という太い神経のすぐそばに位置しています。

人が歩いたり、姿勢を支えたりするときに働く
股関節を外に開くための重要な筋肉です。

しかし、この梨状筋が硬くなったり、
炎症を起こしたりするとすぐ近くを通る坐骨神経を圧迫してしまいます。

この状態が、

「梨状筋症候群(Piriformis Syndrome)」


と呼ばれるものです。

■ 梨状筋症候群とは?

■ 梨状筋症候群とは?

梨状筋症候群とは、お尻(臀部)から足にかけて
の痛みやしびれを引き起こす病気です。

「坐骨神経痛」とよく似た症状を示すため、
混同されることも多いのですが原因が異なります。

  • 坐骨神経痛というのは「症状の名前」であり、
    腰やお尻のどこかで坐骨神経が圧迫されることで生じます。

  • 一方、梨状筋症候群はその「原因のひとつ」であり、
    梨状筋が坐骨神経を圧迫している状態を指します。

つまり、「梨状筋が原因の坐骨神経痛」と言い換えることもできるのです。

■ 坐骨神経痛を起こす主な原因とは?

梨状筋症候群の症状は、腰の病気による坐骨神経痛とよく似ています。
腰が原因で神経が圧迫される病気として、次のようなものが知られています。

  1. 腰椎椎間板ヘルニア
     背骨の間のクッション(椎間板)が飛び出して神経を圧迫。
  2. 腰椎変形性脊椎症
     加齢や姿勢の悪さで骨が変形し、神経を刺激。
  3. 腰部脊柱管狭窄症
     神経の通り道が狭くなり、足にしびれが出る。
  4. 腰椎すべり症・分離症
     背骨の位置がずれて神経が引っ張られる。

これらは、X線やMRI検査で原因を確認できるのが特徴です。

一方で、梨状筋症候群は画像検査ではほとんど
異常が見つからないため、診断が難しいのです。

■ 腰痛の約85%は「原因不明」

腰痛の原因を調べても、実は**約85%が

「非特異的腰痛」


といわれています。

つまり、レントゲンやMRIで異常が見つからず、
はっきりとした原因がわからないケースが多いのです。

この中には、筋肉や靭帯、姿勢、ストレスなど、
さまざまな要因が関係していると考えられています。

梨状筋症候群も、この

「原因が特定しにくい腰痛」


のひとつです。

■ 梨状筋症候群の症状

梨状筋が硬くなり、坐骨神経を圧迫すると
次のような症状が現れます。

  • お尻の奥に鈍い痛みがある
  • 長時間座っていると痛みやしびれが悪化する
  • 太ももやふくらはぎ、足先にまでしびれが広がる
  • 仰向けに寝るとお尻が痛くて眠れない

腰自体はそれほど痛くないのに、お尻や足にしびれがある場合
梨状筋が関係している可能性があります。

ただし、画像検査で明確な異常が映らないため、
診断は「症状の出方」から行うのが基本です。

医師が徒手検査(お尻を押したり、脚を動かしたりするテスト)
で痛みの再現性を確認することで、梨状筋症候群を疑います。

■ 梨状筋症候群の診断と課題

■ 梨状筋症候群の診断と課題

ここが重要なポイントですが、梨状筋症候群には
決定的な検査方法がありません。

MRIやCTを撮っても、神経が圧迫されている
様子がはっきり見えないことが多いのです。

そのため、

  • 梨状筋が原因の痛みなのか、
  • 腰椎の神経圧迫が原因なのか、
  • あるいは筋肉の疲労や姿勢不良が関係しているのか、

を正確に見分けるのは容易ではありません。

このような事情から、

「梨状筋症候群という病気は本当に存在するのか?」

と疑問視する医師もいます。

それでも、梨状筋をゆるめたり、神経への圧迫を
軽減する治療で症状が改善するケースがあるため、
臨床的には確かに存在していると考えられています。

■ 治療法:まずは保存的治療から

梨状筋症候群の治療は、

**ほとんどが保存的治療(手術をしない方法)**


で行われます。

1. 自然治癒を促す保存療法

  • 消炎鎮痛剤の内服
     炎症や痛みを抑え、日常生活を送りやすくします。
  • ブロック注射
     梨状筋周囲や坐骨神経の付近に局所麻酔を注射し、痛みの原因を鎮めます。
     診断と治療を兼ねた方法でもあります。
  • 理学療法(リハビリ)
     梨状筋のストレッチやマッサージ、骨盤の位置を整える運動などが行われます。
     ストレッチを続けることで、筋肉のこわばりが取れ、症状が改善することが多いです。

これらの治療で、時間とともに症状が軽くなるケースがほとんどです。

2. 手術治療が検討される場合

痛みが強く、半年以上続いて日常生活に支障がある場合、
まれに

**「梨状筋切離術」**


という手術を行うことがあります。

これは、圧迫している梨状筋の一部を切除し、
坐骨神経への圧迫を取り除く方法です。

ただし、手術が必要になるケースはごくわずかで
多くの患者さんは保存療法で改善します。

■ 日常生活でできる予防とセルフケア

■ 日常生活でできる予防とセルフケア

梨状筋症候群は、姿勢や筋肉のバランスが崩れることでも起こりやすくなります。
以下のような習慣を見直すことで、予防や再発防止につながります。

  • 長時間のデスクワークを避け、こまめに立ち上がってストレッチする
  • 足を組む癖をやめる
  • 正しい姿勢で座る(背筋を伸ばし、骨盤を立てる)
  • 適度な運動を取り入れる(ウォーキングやストレッチ)

特に、お尻の筋肉を伸ばすストレッチは効果的です。

床に仰向けに寝て、片方の膝を反対側の胸に
引き寄せるなど、軽い動作から始めましょう。

■ まとめ:お尻の奥の“見えない痛み”を理解する

梨状筋症候群は、

腰や脚の痛み・しびれの原因


として見落とされやすい病気です。

画像検査で異常が見つからないため、
長期間悩まされる人も少なくありません。

しかし、原因を正しく理解し、ストレッチや薬、注射などの
治療を組み合わせることで、多くの人が改善を実感しています。

腰やお尻の痛みがなかなか取れないとき、

「もしかしたら梨状筋が関係しているのかも」


と考えてみることが、回復への第一歩になるかもしれません。