上腕骨近位部骨折の話

転倒して手をついたときや、肩から地面に
倒れたときに

「ズキン」と肩が痛み、腕が上がらなくなる。


そんなときに起こりやすいのが

**上腕骨近位部骨折(じょうわんこつきんいぶこっせつ)**

です。

この骨折は、特に

高齢者の方に多い骨折

のひとつで、

日常生活のちょっとした転倒

がきっかけで発生することがあります。

今回は、この上腕骨近位部骨折について、原因から治療、
リハビリまでをやさしく解説していきます。

■ 上腕骨近位部とは?

上腕骨とは、肩から肘までをつなぐ長い骨のことです。
そのうち、肩の関節に近い部分(骨頭・頸部・結節部など)
「上腕骨近位部」と呼びます。

この部分は、肩関節を形成する重要な場所で、腕を
上げたり回したりといった動きを支えています。
しかし構造的に細く、筋肉が多く付着しているため、

外力が加わると折れやすい部位

でもあります。

■ 高齢者に多い骨折 ― 加齢と骨折リスクの関係

■ 高齢者に多い骨折 ― 加齢と骨折リスクの関係

上腕骨近位部骨折は、若い人にも起こることはありますが、
圧倒的に多いのは高齢の女性です。

その背景には、骨粗しょう症が大きく関係しています。
加齢に伴って骨密度が低下すると、骨がスカスカになり、
ちょっとした転倒でも骨折しやすくなるのです。

特に女性は閉経後、

女性ホルモン(エストロゲン)の減少

により骨の代謝バランスが崩れ、骨がもろくなります。

そのため、手をついただけ、あるいは軽く肩をぶつけた
だけでも骨折してしまうことがあります。

また、高齢になるとバランス感覚や
筋力も低下し、転倒のリスクが高まります。

「骨が弱くなる」

「転びやすくなる」

のダブルパンチで、
上腕骨近位部骨折が起きやすくなるのです。

■ どんなときに疑うべき? 主な症状

上腕骨近位部骨折を起こすと、以下のような症状が現れます。

  • 肩から腕にかけての強い痛み
  • 腫れや内出血(紫色になる)
  • 腕を動かすと激痛が走る
  • 肩の形が変わって見えることがある
  • 手を動かせるが、肩から上に上がらない

痛みが強いため、

「五十肩(肩関節周囲炎)

と間違えられることもありますが、
転倒や打撲の直後に症状が出た場合は、
骨折の可能性を疑う必要があります。

整形外科でレントゲンを撮ることで、
骨折の有無やズレの程度が確認できます。

■ 骨折のタイプと治療方針

■ 骨折のタイプと治療方針

上腕骨近位部骨折は、折れた部位やズレ(転位)
の程度によって治療法が異なります。
大きく分けると、

保存的治療(手術なし)と手術的治療

の2つがあります。

● 保存的治療(手術をしない方法)

骨のズレが少なく、骨片(折れた骨の断片)が安定している場合には、
手術を行わずに自然に骨がくっつくのを待つ方法が選ばれます。

治療の流れは次の通りです。

  1. 三角巾や腕つり用の装具で固定(約4〜6週間)
     肩の動きを制限し、骨の癒合を待ちます。
  2. 痛みが落ち着いたらリハビリ開始
     長期間固定していると、肩の関節が硬くなってしまうため、
     1か月ほどで可動域訓練(リハビリテーション)を始めます。
  3. 約3か月で骨癒合(骨がくっつく)
     通常、3か月程度で骨がしっかりと癒合し、
    日常生活への復帰が可能となります。

ただし、リハビリを怠ると

拘縮(こうしゅく)


といって、関節が固まってしまうことがあるため、
医師や理学療法士の指導のもとで根気強く動かすことが大切です。

● 手術的治療(骨を固定する手術)

骨のズレが大きい場合や、関節面がずれている場合は、
自然に治すのが難しいため手術が必要です。
主に次のような方法が選ばれます。

① プレート固定術

折れた骨の外側に金属プレートをネジで固定する方法です。
ズレた骨を元の位置に戻し、しっかり固定することで、
早期のリハビリが可能になります。
比較的若い方や、骨質がある程度保たれている方に向いています。

② 髄内釘(ずいないてい)固定術

骨の内部(髄腔)に

細い金属棒(髄内釘)を通して固定

する方法です。
骨の外側を大きく切らずに済むため、

手術の負担が少ない

という利点があります。
中程度のズレや複数箇所の骨折に適しています。

③ 人工骨頭置換術

骨折が粉砕して形を保てない場合や、
骨の血流が途絶えてしまった場合には、

折れた部分を人工の骨頭(関節)に置き換える手術


を行います。

特に高齢者で骨がもろい場合や、

頭の血流が損なわれている場合

に選択されることが多い方法です。
手術後は、比較的

早い段階でリハビリを始めること

ができます。

■ 骨の血流がカギを握る

上腕骨の近位部は、血流が限られた場所です。
特に骨頭部分は、血液を供給する血管が細いため、
骨折によって血流が途絶えると

骨頭壊死

という合併症を起こすことがあります。

そのため、治療法を選ぶ際には

骨の血流が保たれているかどうか

が重要な判断基準となります。
血流が保たれていれば保存療法や固定術が選ばれますが、
途絶している場合は人工骨頭置換術が必要になることもあります。

■ リハビリテーションの重要性

■ リハビリテーションの重要性

上腕骨近位部骨折の治療では、リハビリが非常に大切です。

骨折が治っても、長期間の固定により肩関節が硬くなり、
腕が上がらなくなることがあります。
そのため、痛みの程度を見ながら、

できるだけ早い時期から関節を動かす訓練

を始めることが推奨されます。

リハビリでは、以下のような内容を段階的に行います。

  • 肩や肘、手首をゆっくり動かす可動域訓練
  • 肩周囲の筋肉をほぐすストレッチ
  • ゴムチューブなどを使った筋力トレーニング
  • 肩を支える姿勢の改善

焦らず、少しずつ動かすことが回復への近道です。
医療スタッフと相談しながら、無理のない範囲で続けましょう。

■ 回復までの目安

  • 三角巾などでの固定期間: 約4〜6週間
  • リハビリ開始: 2〜4週頃から段階的に
  • 骨癒合: 約3か月程度
  • 通常生活への復帰: 3〜4か月

年齢や骨の状態によって回復スピードは異なりますが、
しっかりと治療とリハビリを行えば、日常生活に
支障がない程度まで回復するケースが多いです。

■ まとめ ― 骨を守るためにできること

上腕骨近位部骨折は、

高齢者にとって非常に身近で、生活の質を左右する骨折

です。
しかし、早期に正しい治療とリハビリを行えば、
多くの方が元の生活に戻ることができます。

再発防止のためには、次のような日常的な工夫も大切です。

  • 骨粗しょう症の検査と治療を受ける
  • カルシウム・ビタミンDを意識した食生活
  • 筋力トレーニングやストレッチで転倒を防ぐ
  • 段差や滑りやすい床など、転倒リスクを減らす工夫

肩の骨折は痛みも不安も大きいですが、正しい理解
とケアによって必ず前進できます。
焦らず、確実に、体と向き合いながら回復を目指しましょう。