肘部管症候群の話

「最近、手の小指や薬指がしびれる」
「手を伸ばしても力が入りにくい」
そんな症状を感じたことはありませんか?

手のしびれにはさまざまな原因がありますが、その中でも**肘の神経が圧迫されることによって起こる「肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)」**は、比較的よく見られる病気のひとつです。

本記事では、肘部管症候群の原因・症状・診断・治療について、できるだけわかりやすく解説していきます。

■ 手のしびれの原因はいろいろ

■ 手のしびれの原因はいろいろ

まず、「手がしびれる」という症状の原因は、実は一つではありません。
代表的なものを挙げると、以下のようになります。

  1. 頸椎症(けいついしょう)
     首の骨や椎間板が変形し、首から出ている神経が圧迫されることで手にしびれが出る状態です。
     肩から腕にかけて広範囲に症状が及ぶこともあります。
  2. 手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)
     手首の部分で正中神経が圧迫される病気です。
     親指から中指にかけてのしびれや、物をつまみにくいなどの症状が現れます。
  3. 肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)
     今回取り上げる病気です。
     肘の内側で尺骨神経(しゃっこつしんけい)が圧迫されることで、薬指や小指にしびれが出ます。
  4. 糖尿病などの内科的疾患
     血糖値が高い状態が続くと、末梢神経に障害が起こり、手足のしびれが出ることがあります。
  5. 脳の病気(脳梗塞や脳出血など)
     脳の中枢神経が障害されると、片側の手や足にしびれや麻痺が起こることもあります。

このように、手のしびれには多くの原因があり、場所や症状の出方によって病気を見分けていきます。
その中でも、「小指」「薬指」に限定したしびれがある場合には、肘部管症候群が疑われます。

■ 尺骨神経とは?

肘部管症候群を理解するためには、まず「尺骨神経」について知っておく必要があります。

私たちの腕には、いくつかの神経が通っています。
代表的なのが「正中神経」「橈骨神経」「尺骨神経」の3本です。

このうち尺骨神経は、肩から腕、肘を通って手の小指と薬指の一部に分布しています。
手の細かい動きをコントロールする重要な神経です。

■ 「肘をぶつけてビリッとする」―― それが尺骨神経

机の角などに肘をぶつけたとき、「ビリッ」と電気が走るような感覚を経験したことはありませんか?
あれこそが、肘の内側を通る尺骨神経が一瞬圧迫された時の反応です。

この神経は「肘部管(ちゅうぶかん)」というトンネル状の狭い空間を通っており、外部からの衝撃や圧迫に弱い構造をしています。
そのため、長期間にわたって肘を酷使したり、一定の姿勢で圧迫が続いたりすると、神経が傷つき、慢性的なしびれや麻痺を引き起こすことがあります。
これが「肘部管症候群」です。

■ 肘部管症候群とは

■ 肘部管症候群とは

肘部管症候群は、肘の内側(上腕骨の内側のくぼみ)で尺骨神経が圧迫されることで起こる障害です。

圧迫が起こると、神経の伝達が悪くなり、以下のような症状が現れます。

  • 薬指・小指のしびれや感覚の鈍さ
  • 指先の細かい動きがしにくい
  • 手の筋肉(特に小指側)のやせ(萎縮)
  • 指が完全に伸ばせない、変形する

特に重症になると、**「鷲手(わして)」**と呼ばれる、手の形が鷲のように曲がった状態になることもあります。

■ 原因 ― 長期間の肘の酷使や圧迫

肘部管症候群の原因は、主に「神経が圧迫されること」です。
具体的には次のような状況が関係します。

  • 長時間の肘の曲げ伸ばし(大工、配管工、事務作業など)
  • 肘をつく姿勢が多い(机や肘掛けに長時間肘を当てる)
  • **肘の骨の変形(骨棘:こつきょく)**による圧迫
  • 過去の骨折やけがによる神経の通り道の変化

特に職業柄、肘を頻繁に使う人(大工さん、配線工、スポーツ選手など)では発症しやすい傾向があります。

■ 診断 ― 診察でわかることが多い

肘部管症候群の診断は、問診と診察によって行われます。

医師はまず、しびれの場所や症状の出方を確認します。
そして、肘の内側を軽く叩いてしびれが誘発されるか(ティネル徴候)、小指側の筋肉に力が入るかなどを調べます。

必要に応じて、神経伝導検査MRI・レントゲン検査を行い、どこで圧迫が起きているかを確認します。

頸椎や手首の神経障害と区別することも大切です。

■ 治療 ― 保存的治療と手術療法

肘部管症候群の治療は、症状の程度によって「保存的治療」と「手術療法」に分かれます。

① 保存的治療(軽症の場合)

初期の段階では、神経への負担を減らすことで改善することも多くあります。

  • 肘を強く曲げない姿勢を意識する
  • 肘をつく癖をやめる
  • 夜間は肘をまっすぐに保つための**肘装具(サポーター)**を着ける
  • 神経周囲の炎症を抑えるために湿布や内服薬を使用する

日常生活の中で肘を守ることが、回復への第一歩です。

② 手術療法(中〜重症の場合)

保存的治療で改善しない場合、または筋肉の萎縮が進んでいる場合は、**手術による神経の除圧(圧迫を取り除く)**が検討されます。

代表的な手術方法は次のとおりです。

  • 肘部管開放術:神経の通り道(肘部管)を広げ、圧迫を取り除く手術。
  • 骨棘(こつきょく)切除術:神経を圧迫している骨の出っ張りを削る。
  • 神経移行術:神経を前方の圧迫されにくい位置に移す。
  • 腱移行術:重度の筋力低下がある場合に、他の腱を移して手の機能を補う。

手術は比較的安全で、術後は数週間〜数か月でしびれが改善する例も多くあります。
ただし、長期間放置して神経が強く損傷している場合は、完全な回復に時間がかかることもあります。

■ 予防とセルフケア

■ 予防とセルフケア

肘部管症候群を防ぐためには、日常生活で「肘を守る意識」を持つことが大切です。

  • 肘を長時間曲げた姿勢を避ける(スマホ操作・読書なども注意)
  • 机や肘掛けに肘を押しつけない
  • 就寝時に肘を軽く伸ばした状態を保つ
  • 肘まわりのストレッチや軽い運動で血流を促す

早期に異変に気づき、無理をせず整形外科で相談することが何よりの予防になります。

■ まとめ ― 手のしびれを放置しないで

肘部管症候群は、**「肘の使い過ぎ」や「神経の圧迫」**によって起こる病気です。
手の小指や薬指がしびれる、力が入りにくいといった症状が続く場合には、早めの受診をおすすめします。

放っておくと、神経の損傷が進み、筋肉が萎縮してしまうこともあります。
しかし、早期に対応すれば、多くのケースで回復が見込めます。

手のしびれは、体が発する小さなサインです。
「疲れのせいかな」と軽く考えず、一度専門医に相談してみてください。
正しい診断と治療で、再びしっかりと手を動かせる日常を取り戻せるでしょう。