石灰腱炎の話

ある日突然、肩に激しい痛みが走り、腕が上がらない――。
それが

「石灰腱炎(せっかいけんえん)」

の典型的な発症パターンです。

中高年の方を中心に、

「夜中に目が覚めるほど肩が痛い」
「肩を動かせないほどの激痛がある」

といった訴えで受診される方が少なくありません。
今回は、そんな

石灰腱炎の原因・症状・治療法

を、わかりやすく解説します。

■ 肩の痛みの代表的な3つの原因

■ 肩の痛みの代表的な3つの原因

中高年以降になると、肩の痛みを訴える方が増えてきます。
その主な原因として、整形外科では次の3つがよく知られています。

  1. 五十肩(肩関節周囲炎)
     肩関節を包む関節包や腱が炎症を起こし、
    痛みとともに動かしにくくなる病気です。
    徐々に進行し、数か月〜1年かけて回復することが多いのが特徴です。
  2. 腱板断裂(けんばんだんれつ)
     肩の筋肉を支える「腱板(けんばん)」という組織が、
    加齢や外傷によって部分的・完全に切れてしまう状態です。
     腕を上げるときに力が入らない、引っ掛かるような痛みを伴います。
  3. 石灰腱炎(せっかいけんえん)
     腱の中に「石灰(リン酸カルシウム)」が
    沈着し、炎症を引き起こす病気です。
     ある日突然、激しい痛みで肩が動かせなくなるのが特徴です。

このうち、痛みの強さが特に激しいのが「石灰腱炎」です。

■ 「腱板」とはどんな組織?

石灰腱炎の話に入る前に、まず

「腱板(けんばん)」


について理解しておきましょう。

肩関節は、腕を前後・上下・回転など
あらゆる方向に動かせる関節です。
その自由な動きを支えているのが、

「腱板」

と呼ばれる4つの筋肉の集合体です。

腱板は、

・棘上筋(きょくじょうきん)
・棘下筋(きょくかきん)
・小円筋(しょうえんきん)
・肩甲下筋(けんこうかきん)

の4つの筋肉で構成されており、肩の安定
とスムーズな動きを担っています。

また、上腕の前側には

「上腕二頭筋腱(じょうわんにとうきんけん)」

という腱も走っており、これも石灰が
沈着しやすい部分のひとつです。

■ 石灰腱炎とは?

石灰腱炎とは、
腱板や上腕二頭筋腱などの腱の中に

「リン酸カルシウム(石灰)」


がたまる病気です。

この石灰は、チョークの粉のような白く
ドロッとした物質で、レントゲンや超音波検査で白く写ります。

腱の中にこの石灰が沈着すると、炎症反応が
強く起こり、突然の激痛を引き起こします。

■ 石灰腱炎の特徴的な症状

■ 石灰腱炎の特徴的な症状

石灰腱炎の症状には、次のような特徴があります。

  1. 何の前触れもなく突然起こる肩の激痛
     特に夜間に強い痛みが出ることが多く、

    「寝返りも打てない」

    「服を着替えられない」

    と訴える方が多いです。
  2. 発熱や腫れを伴うことがある
     炎症が強いため、肩の周囲が腫れて熱を持つことがあります。
  3. 数日~1週間ほどで急速に軽快する
     発症時の痛みは非常に強いものの、不思議なことに、
    数日経つと痛みが嘘のように消えるケースが少なくありません。
  4. 石灰が自然に吸収されて消えることもある
     画像上で確認された石灰沈着が、治療をしなくても時間の
    経過とともに体内で吸収され、なくなることがあります。

■ なぜ石灰がたまるのか?

実は、石灰腱炎の根本的な原因は

まだ明確には解明されていません。

いくつかの仮説がありますが、主な
説としては以下のようなものが挙げられます。

  • 腱の血流が一時的に低下し、カルシウムが沈着しやすくなる
  • ホルモンバランスや代謝の変化による影響
  • 小さな炎症や摩擦が慢性的に続くことで、石灰が形成される

また、発症の傾向として、20代から50代の女性に多いことが知られています。
これは、女性ホルモンや代謝バランスの影響が
関係しているのではないかと考えられています。

■ どのように診断するの?

石灰腱炎の診断は、問診と画像検査で比較的容易に行うことができます。

  • X線(レントゲン)検査:白く写る石灰沈着が確認できます。
  • 超音波(エコー)検査:腱の中にどのくらい石灰が溜まっ
    ているか、炎症の程度も含めて詳細に確認可能です。

また、腱板断裂など他の病気と
区別するためにMRI検査を行うこともあります。

■ 石灰腱炎の治療

石灰腱炎の治療は、痛みの強さ症状の持続期間に応じて選択されます。
多くのケースでは、数日〜数週間で自然に
軽快するため、手術が必要となることはほとんどありません。

① 急性期の激痛に対して

痛みが強い発作期には、以下のような治療が行われます。

  • 安静・冷却
     まずは肩を安静に保ち、患部を冷やして炎症を鎮めます。
  • 鎮痛薬(消炎鎮痛剤)の投与
     ロキソニンなどのNSAIDsが使われ、炎症と痛みを抑えます。
  • エコーガイド下穿刺吸引
     超音波装置(エコー)で石灰の位置を確認し、
    注射針で穿刺して内部の石灰を吸引する方法です。
     痛みの軽減が早く、再発予防にも効果が期待されます。

② 慢性期・再発予防の治療

痛みが落ち着いた後も、石灰が残っている場合や
再発を防ぐために次のような治療が行われます。

  • 温熱療法や運動療法(リハビリ)
     肩関節の可動域を保ち、筋肉の柔軟性を高めます。
  • H₂ブロッカーの内服(胃薬として知られる薬)

     「シメチジン(タガメット)」

    「ファモチジン(ガスター)」

    などが、石灰沈着の予防や溶解を促す作用を持つことが報告されています。

    もともとは胃酸を抑える薬ですが、近年では
    石灰腱炎にも効果が期待されています。

■ 石灰腱炎の経過と予後

■ 石灰腱炎の経過と予後

石灰腱炎の痛みは非常に強烈ですが、

ほとんどのケースで自然に回復

します。

数日で激痛が和らぎ、数週間以内には
日常生活に支障がない程度まで回復することが多いです。

また、レントゲンで確認された石灰が、
数か月後には完全に消失しているケースも珍しくありません。

ただし、まれに石灰が慢性的に残り、再発を
繰り返すタイプもあるため、その場合は
医師と相談しながら治療を継続することが大切です。

■ 石灰腱炎と他の肩の病気との違い

五十肩や腱板断裂と混同されることも多いですが、
発症のしかたや経過には明確な違いがあります。

病名発症の特徴痛みの強さ治癒までの期間
五十肩徐々に痛みと動かしづらさが進行中等度数か月~1年
腱板断裂力を入れると痛い、夜間痛あり中~強治療により改善
石灰腱炎突然の激痛、数日で軽快することも非常に強い数日~数週間

■ まとめ ― 肩の激痛、実は治る病気

石灰腱炎は、ある日突然、肩に激しい痛みを
起こす病気ですが、多くは自然に治る一過性の炎症です。

原因はまだはっきりしていないものの、正しい診断と
早めの治療によって、短期間で回復するケースがほとんどです。

もし

「夜眠れないほど肩が痛い」
「急に腕が上がらなくなった」

という症状が出たときは、
無理をせず整形外科を受診してください。

適切な診断と対処を受けることで、痛みを
早くやわらげ、再発を防ぐことができます。