がんの治療が進み、もう積極的な治療が難しくなったとき、多くの患者さんは「終末期」と呼ばれる段階に入ります。
この時期には、体の変化や病状の進み方から「そろそろお別れが近いかもしれない」と、医療スタッフがある程度の予測を立てることができます。
たとえば、「少しずつ息が苦しくなり、食事が取れなくなって、やがて眠るように亡くなる」といった、ゆるやかな経過が多いものです。
しかし実際の現場では、まったく予想していなかったタイミングで急に亡くなってしまうことがあります。
昨日まで会話をしていたのに、翌朝には意識がなく、あっという間に息を引き取る──。
こうした「予期せぬ急死」は、医療者にとっても、ご家族にとっても大変ショックな出来事です。

「急な死」と聞くと、ごくまれなことのように思われるかもしれません。
ところが、2021年に日本の研究グループが行った調査によると、がん患者さんのうち約6〜17%が「急に亡くなる」ケースにあたると報告されています。
これは、おおよそ10人に1人前後の割合です。
この研究は、全国のホスピスや緩和ケア病棟など、終末期医療を専門に行う23の施設で行われました。
調査対象は、がんが進行して入院中の1,896人。平均年齢は72歳で、がんの種類は消化器系(胃・大腸・肝臓・すい臓など)や肺がんなど、さまざまでした。
研究では、「急死」といっても幅があるため、次のように4つのタイプに分けて定義しています。
このうちもっとも多かったのは「数日での急死」で、全体の16.8%。
「驚くような急死」が9.6%、「予期せぬ急死」が9.0%、「全身状態から見た急死」が**6.4%**でした。
つまり、ホスピスや緩和ケアのように“死を見つめる準備”が比較的整っている場所でさえ、急な変化による死が決して少なくないということです。
「数日前まで元気だったのに、なぜ?」──
これは、ご家族の方が最も強く抱く疑問でしょう。
急死の原因は一つではなく、いくつかの要因が重なって起こることが多いです。
代表的なものをいくつかご紹介します。
これらはいずれも急激に進行し、ほんの数時間で命に関わることもあります。
医療の力でも止められないことが多く、まさに“予期せぬ変化”といえるでしょう。

先ほどの研究では、どんな患者さんが「急死しやすい傾向にあるか」も調べられました。
解析の結果、次のような特徴がある人は急死のリスクがやや高いことがわかっています。
これらの状態があると、体のバランスが非常に不安定になり、ちょっとした変化で急激に悪化することがあると考えられます。
急な死は、ご家族にとって深い悲しみを残します。
「もっと何かできたのでは」「気づかなかったのでは」と悔やむ声も少なくありません。
しかし実際には、がんが全身に広がった状態では、ほんのわずかな変化が大きな結果を引き起こすことがあります。
そのため、医療者にも予測できない自然な経過の一部として、理解していただくことが大切です。
また、コロナ禍以降、面会が制限されている病院も多く、最期の瞬間に立ち会えないご家族も少なくありません。
そのようなときは、あらかじめ「急な変化が起こることもある」と説明を受けておくことで、突然の別れに少しでも心の準備をすることができます。
医療者にとっても、急死は大きな心の負担となります。
「もう少し何かできたのでは」と感じることも多いですが、同時に、こうした出来事を通して“患者さんと家族に寄り添うケア”の大切さをあらためて学ぶ機会にもなります。

がん患者さんの「予期せぬ急死」は、まれなことではありません。
最新の研究によると、終末期にある患者さんのおよそ1割前後が、医療者の予想を超えて急に亡くなるといわれています。
その背景には、血栓や感染、出血など、体の中で起こる突然の変化があります。
そして、その多くは誰のせいでもなく、病気の自然な流れの中で起こることです。
もし、あなたやご家族がそのような状況に直面したとき、
「なぜこんなに急に…?」と戸惑うのは当然のことです。
けれども、その一瞬まで懸命に生き抜いたという事実を、どうか忘れないでください。
急な別れは悲しく、受け入れるには時間がかかります。
それでも、患者さんが最後まで頑張っていたこと、そして医療チームが最善を尽くしていたことを、少しでも理解してもらえるように──。
それが、この研究が伝えたい大切なメッセージでもあります。