近年、医療の世界では「全身と口腔の健康が深く結びついている」という考え方が広く認識されるようになりました。とりわけ注目を集めているのが、歯周病菌と大腸がんの関係です。
従来、大腸がんは食生活の乱れや遺伝、肥満、運動不足などが主な原因とされてきました。しかし今、歯周病菌の一種である “フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)” が大腸がんの発生・進行と密接に関係している可能性が、研究によって指摘されています。
本記事では、そのメカニズムと予防のポイントを、分かりやすく丁寧にご説明いたします。

歯周病は、歯と歯ぐきの境目に細菌がたまり、炎症が起きる病気です。軽度では出血や腫れだけですが、進行すると歯ぐきが下がり、やがて歯が抜けることもあります。
歯周病が深刻なのは「口の中にとどまらない」という点です。炎症によって歯ぐきに微小な傷ができると、そこから歯周病菌が血管に入り込み、血液に乗って全身に運ばれる可能性があります。また、日常的に飲み込む唾液から菌が腸に到達することもわかってきました。
つまり、口腔内の状態が腸の細菌バランスに影響を与え得るのです。

腸は「第二の脳」と呼ばれ、消化だけでなく免疫の中心でもあります。体内の免疫細胞の約7割が腸に存在するとされ、腸内細菌はその働きを調節しています。
フソバクテリウムは通常、腸内に大量には存在しない菌です。しかし歯周病により口腔内で増えた菌が腸に定着すると、腸の免疫環境が乱れ、以下の変化を引き起こすと考えられています。
このように、フソバクテリウムは大腸がんにとって「住みやすく、増えやすい環境」を作り出してしまうのです。
さらに、一部の研究では、フソバクテリウムが腫瘍の表面にある分子と結びつき、がん細胞へ選択的に集まる性質がある可能性も示唆されています。これにより、腫瘍内の細菌量が多い患者ほど再発リスクが高く、治療の効果が出にくい傾向が報告されています。
ここまでの内容から、口と腸は離れた臓器ではなく、一本の消化管として連続し、さらに血液を通じて全身とつながっていることが実感いただけると思います。
つまり、口腔環境を整えることは、腸の健康や全身の健康を守る第一歩なのです。

大腸がんを予防するために、難しいことをする必要はありません。毎日の習慣が最も大切です。
1. 正しい歯磨きとフロス
歯ブラシだけでは約6割の汚れしか取れないとされています。
フロスや歯間ブラシを併用し、1日2回の丁寧なケアを心がけましょう。
2. 定期的な歯科受診
歯周病は自覚症状の乏しい病気です。
半年〜1年に1回の定期検診とプロのクリーニングが、早期発見・予防につながります。
3. 食事で腸と口の「善玉菌」を増やす
口と腸の細菌バランスを整えましょう。
おすすめの食品
また、甘いものや加工食品、アルコールのとりすぎは菌バランスを乱します。
4. 禁煙と適度な運動
タバコは歯周病とがんのリスクを同時に上げます。
1日30分程度の歩行は腸の動きを促し、免疫も高めます。
大腸がんは日本で非常に身近ながんであり、早期発見と予防がとても重要です。
その予防の一端を担うのが、意外なことに口の中のケアなのです。
毎日の歯磨き、フロス、歯科検診、そして腸を意識した食事や生活習慣。
これらの積み重ねが、将来の大きな病気を遠ざけ、健康な人生につながります。
「歯のケアは、全身のケア」
その視点を今日から取り入れ、口と体の健康を守っていきましょう。