「膝が痛い」と訴える方は多いですが、
「股関節(こかんせつ)」
の痛みを訴える人も決して少なくありません。
特に中高年の女性に多く見られる
「変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)」
は、加齢による関節の老化と思われがちですが、実は
それだけではない深い背景があります。

股関節は、体の中でも特に大きな関節のひとつです。
「骨盤(こつばん)」
のくぼみである**臼蓋(きゅうがい)と、
「太ももの骨(大腿骨)」
の先端にある
大腿骨頭(だいたいこっとう)
がかみ合うことでできています。
臼蓋は半円形の受け皿のような形をしており、
大腿骨頭は丸い球体状になっています。
臼蓋は約45度ほど傾いていて、歩いたり立ったり
する際に体重をバランスよく支える構造になっています。
関節の表面は
「軟骨(なんこつ)」
というクッションのような組織で覆われており、
動くたびに骨と骨が直接こすれないように守ってくれています。
そのおかげで、股関節は滑らかに動き、体の重さを
支えながらスムーズに足を動かすことができるのです。
変形性股関節症は、股関節の軟骨が
すり減ることで、痛みや動かしづらさが生じる病気です。
「変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)」
と似ていますが、実は少し性質が異なります。
膝の変形性関節症は、いわば
“関節の老化”
による軟骨の摩耗が主な原因です。
一方、変形性股関節症は老化が直接の原因ではなく、
先天的(うまれつき)または発育の段階での問題が関係しているのです。
特に女性に多く、国内ではおよそ
1000万人が罹患しているといわれています。
変形性股関節症の多くは、
「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」
と呼ばれる骨の発育異常が背景にあります。
臼蓋は本来、大腿骨頭をしっかり
包み込むような深いカップ状をしています。
しかし、臼蓋形成不全があると、
この“受け皿”が浅くなり、骨頭を十分に支えられません。
結果として、股関節の一部分に負担が集中し、
時間とともに軟骨がすり減ってしまうのです。
これは「生まれつきの形の問題」であり、
決して生活習慣のせいではありません。
つまり、変形性股関節症は単なる“老化”ではなく、
“構造上の負担”
によって生じる疾患なのです。

変形性股関節症の代表的な症状は股関節の痛みです。
ただし、痛み方にはいくつかの特徴があります。
初期では、単なる
「足の付け根の違和感」や「腰痛」
として見過ごされることもあります。
しかし、放置すると関節の変形が進み、
歩行困難につながることもあるため、早めの受診が大切です。
診断の基本はレントゲン検査です。
股関節の隙間(関節裂隙)が狭くなっているか、骨の変形や
骨棘(こつきょく)ができていないかを確認します。
必要に応じて、CTやMRI検査で軟骨や
周囲の筋肉の状態も詳しく調べます。
痛みの程度とレントゲンの見た目は、必ずしも
一致しないことが多いのがこの病気の特徴です。
見た目で大きく変形していても痛みが軽い方もいれば、
逆に変形が少なくても強い痛みを訴える方もいます。
変形性股関節症の治療の基本は、まず
**保存的治療(手術をしない治療)**
です。
痛みを和らげるために、
**消炎鎮痛剤(しょうえんちんつうざい)**
が使われます。
これらは炎症を抑え、痛みを軽減する効果があります。
ただし、根本的に軟骨を再生させるものではないため、
痛みをコントロールしながらリハビリと併用します。
股関節周囲の筋肉を柔らかくし、
関節への負担を軽くする目的で行います。
最近では、血流を促すための
「貧乏ゆすり運動」
が注目されています。
リズミカルに脚を動かすことで関節液(関節の潤滑液)の
循環が促進され、軟骨の代謝が活発になると考えられています。
ストレッチや筋トレも有効ですが、
無理のない範囲で行うことが大切です。

次のような場合には、手術が検討されます。
手術にはいくつかの方法があります。
股関節の形を整え、負担のかかる部分を
変えることで痛みを軽減する手術です。
特に初期の段階で行われることが多く、
自分の関節を温存できるのが特徴です。
変形が進行して関節の機能が失われた場合に行います。
すり減った関節を人工の金属やセラミックの関節に
置き換えることで、痛みを取り除き、再び歩けるようにします。
現在では手術技術も進歩し、術後のリハビリを経て
多くの方が日常生活に復帰しています。
変形性股関節症は、「関節の老化」というよりも、
「うまれつきの形の問題」が背景にある病気です。
「歳のせいだから」と諦める必要はありません。
痛みの原因を正しく理解し、体に合った治療を続けることで、
再び快適に歩けるようになる方はたくさんいます。
股関節は私たちの“歩く力”を支える大切な関節です。
少しでも違和感を感じたら、早めに整形外科で相談してみましょう。
正しい診断とケアが、将来の健康な足取りを守る第一歩になります。