肩関節は、人間の体の中でもっとも可動域の広い関節です。
私たちは腕を前に伸ばしたり、横に上げたり、後ろへ引いたりと、
あらゆる方向に動かすことができます。
しかし、その自由度の高さの裏側には、
「不安定さ」
という弱点も潜んでいます。
今回は、そんな肩関節で起こりやすい
「反復性肩関節脱臼(はんぷくせいけんかんせつだっきゅう)」
について、わかりやすく解説します。

肩関節は「肩甲骨」と「上腕骨」の間にあります。
肩甲骨には
「関節窩(かんせつか)」
という浅いくぼみがあり、そこに上腕骨の丸い
骨頭(骨の先端部分)がはまり込むことで成り立っています。
しかしこの関節窩は非常に浅く、まるで
「ティーの上に乗ったゴルフボール」
のような構造をしています。
そのため、少しの外力や衝撃でボール(上腕骨頭)が
ティー(関節窩)から外れてしまうことがあるのです。
関節の安定を支えているのが
「関節包」
と
「関節唇(かんせつしん)」
という組織です。
関節包は関節を包む袋のようなもので、内部を
保護しながら関節液を保持しています。
一方、関節唇は関節窩の縁にある軟骨で、
くぼみを少し深くすることで骨頭が
外れにくくなるよう補強しています。
「脱臼」とは、関節を構成する骨同士の位置関係が
完全にずれてしまった状態を指します。
肩関節では、転倒したり、スポーツで
腕を強く引っ張られたりしたときなどに起こります。
肩関節の脱臼の多くは「前方脱臼」です。
これは、腕を外に開いて後ろへひねる動き(外転・外旋)
をしたときに、上腕骨頭が前方へ飛び出してしまうものです。
脱臼の瞬間には強い痛みが走り、腕を動かせなくなります。

一度脱臼すると、その後も何度も
脱臼を繰り返すようになることがあります。
これが「反復性肩関節脱臼」です。
肩関節を初めて脱臼した人のうち、約50~70%が
その後も再発するといわれています。
特に、10代後半から20代の若い人では
再発率が高く、スポーツをしている人に多くみられます。
なぜ繰り返すのかというと、初回脱臼の際に
関節唇がはがれたり(バンカート病変)、
上腕骨頭の一部にへこみ(ヒルサックス病変)
ができたりして、関節を安定させる
構造が損なわれてしまうためです。
その結果、少し腕を外に回しただけで、
簡単に
「肩が抜ける」
ような状態になってしまいます。
反復性脱臼が進むと、関節包が伸びてゆるみ、
関節の安定性がさらに失われます。
これを
「肩関節不安定症」
または
「ルースショルダー」
と呼びます。
この状態になると、転倒などの強い外力が加わらなくても、
ちょっとした動作で脱臼してしまいます。
日常生活の中で
「服を着替えようとしたとき」
「寝返りを打ったとき」
などに突然肩が外れてしまうこともあり、
生活に大きな支障をきたします。
反復性肩関節脱臼の診断は、
問診と診察、そして画像検査で行います。
医師は、脱臼の回数やきっかけ、痛みの場所を
詳しく聞き、肩の可動域や不安定性を確認します。
画像検査としては、
X線(レントゲン)で骨の位置関係や損傷の有無を確認し、
さらにMRIで関節唇や靱帯の損傷状態を詳しく調べます。
MRIはバンカート病変やヒルサックス病変
の有無を判断するのにとても有用です。
治療は症状の重さや年齢、生活スタイルによって異なります。
初回の脱臼で、関節の損傷が軽い場合には、まず保存療法を行います。
・肩を三角巾などで固定して安静を保つ
・炎症を抑えるための鎮痛薬を使用する
・リハビリテーションで筋肉を強化する
特に、肩を安定させる
「回旋筋腱板(ローテーターカフ)」
や肩甲骨周囲の筋肉を鍛えることが再発防止につながります。
ただし、一度関節唇が損傷している場合や、何度も
脱臼を繰り返す場合は保存療法では限界があります。
再発を防ぐために行われる代表的な手術が
バンカート修復術
です。
この手術では、関節唇を元の位置に縫い戻し、関節包を
引き締めることで関節の安定性を取り戻します。
手術は主に関節鏡(内視鏡)を使って行われるため、
傷跡は小さく、入院期間も比較的短くて済みます。
手術後は一定期間、肩を固定して安静にします。
その後、医師や理学療法士の指導のもとで
徐々にリハビリを進めていきます。
特に重要なのは、
「肩の外旋(外にひねる動き)」
を禁止する期間をしっかり守ることです。
完全にスポーツ復帰できるまでには、
一般的に3~6か月程度かかります。

なかには、明らかな外傷歴がなくても
肩が外れやすい人がいます。
これは、もともと関節包がゆるく、
靱帯や筋肉の張りが弱い
「肩関節不安定症(ルースショルダー)」
と呼ばれる状態です。
生まれつきの体質によることが多く、
女性や関節が柔らかい人にみられます。
この場合も、リハビリによる筋力強化が基本ですが、重症の場合
は手術で関節包を引き締める治療が検討されます。
肩関節脱臼は
「一度外れたら終わり」
ではありません。
しっかりとした診断と適切な治療、そして
根気強いリハビリを行うことで、再び
快適に腕を動かせるようになります。
肩の不安定さを感じたら、自己判断せずに
整形外科で早めに相談することが大切です。