反復性肩関節脱臼の話

肩関節は、人間の体の中でもっとも可動域の広い関節です。
私たちは腕を前に伸ばしたり、横に上げたり、後ろへ引いたりと、
あらゆる方向に動かすことができます。

しかし、その自由度の高さの裏側には、

「不安定さ」


という弱点も潜んでいます。

今回は、そんな肩関節で起こりやすい

「反復性肩関節脱臼(はんぷくせいけんかんせつだっきゅう)」


について、わかりやすく解説します。

■ 肩関節の構造を知ろう

■ 肩関節の構造を知ろう

肩関節は「肩甲骨」と「上腕骨」の間にあります。
肩甲骨には

「関節窩(かんせつか)」

という浅いくぼみがあり、そこに上腕骨の丸い
骨頭(骨の先端部分)がはまり込むことで成り立っています。

しかしこの関節窩は非常に浅く、まるで

「ティーの上に乗ったゴルフボール」


のような構造をしています。

そのため、少しの外力や衝撃でボール(上腕骨頭)が
ティー(関節窩)から外れてしまうことがあるのです。

関節の安定を支えているのが

「関節包」



「関節唇(かんせつしん)」


という組織です。

関節包は関節を包む袋のようなもので、内部を
保護しながら関節液を保持しています。

一方、関節唇は関節窩の縁にある軟骨で、

くぼみを少し深くすることで骨頭が
外れにくくなるよう補強しています。

■ 肩関節脱臼とは?

「脱臼」とは、関節を構成する骨同士の位置関係が
完全にずれてしまった状態を指します。

肩関節では、転倒したり、スポーツで
腕を強く引っ張られたりしたときなどに起こります。

肩関節の脱臼の多くは「前方脱臼」です。

これは、腕を外に開いて後ろへひねる動き(外転・外旋)
をしたときに、上腕骨頭が前方へ飛び出してしまうものです。

脱臼の瞬間には強い痛みが走り、腕を動かせなくなります。

■ 反復性肩関節脱臼とは?

■ 反復性肩関節脱臼とは?

一度脱臼すると、その後も何度も
脱臼を繰り返すようになることがあります。

これが「反復性肩関節脱臼」です。

肩関節を初めて脱臼した人のうち、約50~70%
その後も再発するといわれています。

特に、10代後半から20代の若い人では
再発率が高く、スポーツをしている人に多くみられます。

なぜ繰り返すのかというと、初回脱臼の際に

関節唇がはがれたり(バンカート病変)、

上腕骨頭の一部にへこみ(ヒルサックス病変)


ができたりして、関節を安定させる
構造が損なわれてしまうためです。

その結果、少し腕を外に回しただけで、

簡単に

「肩が抜ける」

ような状態になってしまいます。

■ 脱臼を繰り返すとどうなるの?

反復性脱臼が進むと、関節包が伸びてゆるみ、
関節の安定性がさらに失われます。
これを

「肩関節不安定症」

または

「ルースショルダー」

と呼びます。

この状態になると、転倒などの強い外力が加わらなくても、
ちょっとした動作で脱臼してしまいます。
日常生活の中で

「服を着替えようとしたとき」
「寝返りを打ったとき」

などに突然肩が外れてしまうこともあり、
生活に大きな支障をきたします。

■ 診断と検査

反復性肩関節脱臼の診断は、
問診と診察、そして画像検査で行います。

医師は、脱臼の回数やきっかけ、痛みの場所を
詳しく聞き、肩の可動域や不安定性を確認します。

画像検査としては、

X線(レントゲン)で骨の位置関係や損傷の有無を確認し、

さらにMRIで関節唇や靱帯の損傷状態を詳しく調べます。

MRIはバンカート病変やヒルサックス病変
の有無を判断するのにとても有用です。

■ 治療:保存療法と手術療法

治療は症状の重さや年齢、生活スタイルによって異なります。

● 保存的治療

初回の脱臼で、関節の損傷が軽い場合には、まず保存療法を行います。

・肩を三角巾などで固定して安静を保つ
・炎症を抑えるための鎮痛薬を使用する
リハビリテーションで筋肉を強化する

特に、肩を安定させる

「回旋筋腱板(ローテーターカフ)」

や肩甲骨周囲の筋肉を鍛えることが再発防止につながります。

ただし、一度関節唇が損傷している場合や、何度も
脱臼を繰り返す場合は保存療法では限界があります。

● 手術療法

再発を防ぐために行われる代表的な手術が

バンカート修復術

です。

この手術では、関節唇を元の位置に縫い戻し、関節包を
引き締めることで関節の安定性を取り戻します。

手術は主に関節鏡(内視鏡)を使って行われるため、
傷跡は小さく、入院期間も比較的短くて済みます。

手術後は一定期間、肩を固定して安静にします。
その後、医師や理学療法士の指導のもと
徐々にリハビリを進めていきます。

特に重要なのは、

「肩の外旋(外にひねる動き)」

を禁止する期間をしっかり守ることです。

完全にスポーツ復帰できるまでには、
一般的に3~6か月程度かかります。

■ 肩が「抜けやすい体質」もある?

■ 肩が「抜けやすい体質」もある?

なかには、明らかな外傷歴がなくても
肩が外れやすい人がいます。

これは、もともと関節包がゆるく、
靱帯や筋肉の張りが弱い

「肩関節不安定症(ルースショルダー)」

と呼ばれる状態です。

生まれつきの体質によることが多く、
女性や関節が柔らかい人にみられます。

この場合も、リハビリによる筋力強化が基本ですが、重症の場合
は手術で関節包を引き締める治療が検討されます。

■ まとめ

  1. 肩関節は可動域が広い反面、構造的に不安定で脱臼しやすい。
  2. 初回脱臼の50~70%が反復性になりやすく、特に若年者やスポーツ選手に多い。
  3. 前方脱臼が大半で、関節唇損傷(バンカート病変)や
    骨欠損(ヒルサックス病変)が関係している。

  4. 軽症ならリハビリ中心の保存療法、再発例では
    関節鏡手術(バンカート修復術)が有効。

  5. 手術後は外旋禁止などリハビリのルールを守ることが回復の鍵。

肩関節脱臼は

「一度外れたら終わり」

ではありません。
しっかりとした診断と適切な治療、そして
根気強いリハビリを行うことで、再び
快適に腕を動かせるようになります。

肩の不安定さを感じたら、自己判断せずに
整形外科で早めに相談することが大切です。