【手術痕】手術後の傷口の治療を解説

手術痕を美しく残さないために ― 傷跡に影響する二つの要素

手術痕を美しく残さないために ― 傷跡に影響する二つの要素

手術を受けた後、多くの方が気になるのが「傷跡(手術痕)」です。手術は成功しても、術後に残る痕が目立つと精神的にも大きな負担となります。今回は、この手術痕にどのような要素が関係しているのか、そして医師や患者がどのように注意すべきなのかを、わかりやすくご紹介します。

手術痕に影響する二つの要素

手術痕の仕上がりに関係するのは、主に次の二つの要素です。

  1. 術者(医師)のテクニック
  2. 患者の皮膚の体質

この二つのバランスが、傷跡の目立ちやすさを大きく左右します。どちらか一方だけではなく、両者の要因が複雑に関わり合って最終的な「見た目」を決定していくのです。

皮膚の構造と手術の基本

まず、皮膚の構造を簡単に確認しておきましょう。皮膚はおおよそ4〜5mmの厚さがあり、上から順に「表皮」「真皮」、その下に「皮下組織」があります。さらにその下には、筋肉や骨、臓器などが位置しています。
外科手術を行う際は、当然この皮膚を切開して目的の組織まで到達し、治療が終われば再び丁寧に縫い合わせていくという手順を踏みます。

このとき重要なのが、各層を正確に対応させて縫い合わせることです。表皮は表皮同士、真皮は真皮同士、皮下組織は皮下組織同士というように、ズレなく丁寧に閉じることが理想です。わずかなずれが後の「段差」や「引きつれ」につながることもあります。

手術縫合の難しさ ― 緩みと血流障害のバランス

縫い合わせる際、実は単純に「きつく縫えばいい」というものではありません。
たとえば真皮を縫合した場合、動作や体の動きでわずかに皮膚が引っ張られ、糸が緩むことがあります。一方で、あまり強く縫いすぎると今度は血流が妨げられ、傷口の治りが悪くなったり、壊死を起こしたりする可能性もあります。

つまり、**「緩みすぎず、締めすぎず」**という非常に微妙な力加減が求められるのです。経験を重ねた外科医ほど、この感覚を重要視します。

表皮の閉鎖法 ― テープやステープラーの活用

■ 表皮の閉鎖法 ― テープやステープラーの活用

表皮の最終的な閉鎖方法にはいくつかの手段があります。
最近では、縫合糸を使わずに「サージカルテープ(医療用テープ)」を使用する方法も一般的です。これは皮膚の表面を軽く引き寄せて貼ることで、段差の少ない自然な仕上がりを得られる上、手術時間の短縮にもつながります。

また、「皮膚用ステープラー」と呼ばれる医療器具も広く使われています。一般的なホッチキスのような構造で、金属の小さな輪が皮膚を固定します。施行は非常に速く、見た目も比較的きれいに仕上がるため、多くの手術で活用されています。抜去後はごく小さな点状の痕が残る程度で済みます。

傷の治癒過程と「肉芽組織」

縫い終わった後、皮膚の間には「肉芽(にくげ)」と呼ばれる新しい結合組織が形成されます。これは傷を埋めて修復するための大切な組織で、通常2〜3週間ほどかけて完成します。
しかし、この期間中に皮膚を頻繁に動かしたり、強い緊張(張力)がかかると、肉芽が広がってしまい、傷跡が太く目立つ原因になります。
そのため、術後しばらくは安静を保ち、患部に不要な力が加わらないようにすることがとても大切です。

ランガー皮膚割線と皮膚皺線 ― 傷跡を目立たせない工夫

皮膚には「ランガー割線」と呼ばれる自然な張力の方向があります。これは、19世紀に解剖学者ランガーが発見したもので、皮膚の緊張線を示しています。この割線に沿って切開を行うと、傷口に余計な力が加わりにくく、治りが早く、より目立ちにくい傷跡になります。

また、美容外科などで特に重視されるのが「皮膚皺線(しわせん)」です。これは顔や身体の自然なシワの方向を示すもので、これに沿ってメスを入れることで、時間が経っても傷がシワのように馴染み、より自然に見えるという利点があります。

ただし、整形外科や一般外科では、必ずしもこの線に沿って切ることができるとは限りません。
なぜなら、外科手術の目的は「皮膚を切ること」ではなく、「その下にある骨や筋肉、臓器を治療すること」だからです。たとえば上腕骨の骨折手術では、骨の走行に沿って縦に切開する必要があります。皮膚割線とは異なる方向ですが、治療の安全性と確実性を優先するためには、やむを得ない選択となります。

傷跡の仕上がりに影響する「皮膚の体質」

■ 傷跡の仕上がりに影響する「皮膚の体質」

ここまで医師側の技術や配慮についてご説明しましたが、同じくらい重要なのが「患者の皮膚の性質」です。
どんなに丁寧な手術をしても、体質的に傷跡が残りやすい方がいます。その代表的な例が「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」や「ケロイド」です。

これらは、皮膚の修復過程で肉芽が過剰に増殖し、赤く盛り上がってしまう状態を指します。ひどい場合には、痛みやかゆみを伴い、見た目にも強く残ります。特に胸や肩、下腹部などはケロイドができやすい部位として知られています。

このような体質は、遺伝的要素やホルモンバランスなども関係しており、完全に予防することは難しいのが現実です。
しかし、早期にステロイド外用薬や圧迫療法を行うことで、症状を軽減させることは可能です。また、傷跡が大きく残った場合には、形成外科的に修正手術を行うこともあります。

まとめ ― 医師と患者が共に意識すること

手術痕の美しさを左右するのは、医師の技術だけではありません。
術後の過ごし方、皮膚の体質、さらには体の動かし方までもが、最終的な仕上がりに影響します。

医師は「ズレを最小限に」「血流を保つ」「張力の方向を意識する」といった専門的配慮を行い、
患者は「安静を守る」「清潔を保つ」「早期の異常に気づく」ことが求められます。

傷跡を完全にゼロにすることは難しいかもしれませんが、医師と患者の協力によって、できる限り目立たない形に近づけることは可能です。
手術痕は「治療の証」であると同時に、医療技術と患者の努力が生み出す「共同の成果」でもあるのです。