
がんを経験した方にとって、「筋肉を維持すること」はとても大切なテーマです。
これは、がんの種類や治療の内容に関係なく共通しています。治療のための手術や薬の副作用に負けず、元気に過ごすためには、体の「筋肉量」を保つことが欠かせません。
実際、筋肉が少ない人ほど治療中に合併症が起こりやすく、体力が落ちやすいことが報告されています。反対に、筋肉の多い人ほど治療を乗り越えやすく、長く元気に過ごす傾向があります。
つまり、がん治療の成功や、その後の生活の質を左右するカギのひとつが「筋肉」なのです。
ところが、がん患者さんの中には、どうしても筋肉が減ってしまう方がいます。最近の研究によって、そうした方には共通する“5つの特徴”があることがわかってきました。
今回は、その特徴をわかりやすく紹介しながら、どうすれば筋肉を守れるのかを一緒に考えていきましょう。
まず一つ目の特徴は、「眠りの質が悪い」ことです。
「眠れない」「途中で何度も目が覚める」「朝起きても疲れがとれない」といった状態が続くと、筋肉が減りやすくなることがわかっています。
ある日本の研究では、消化器のがんを抱える患者さんを対象に、睡眠の状態と筋肉量の関係を調べました。その結果、睡眠の質が悪い人ほど筋肉量が少ない傾向にあったのです。
なぜ睡眠と筋肉が関係しているのでしょうか?
眠りが浅いと、体が十分に休めず、成長ホルモンなどの「筋肉を修復・再生するホルモン」がうまく働かなくなります。また、寝不足が続くと食欲が落ちたり、日中の活動量が減ることも筋肉減少の原因になります。
つまり、筋肉を保つためには「ぐっすり眠ること」も大切な“トレーニング”の一つなのです。寝る前のスマートフォンを控える、入浴で体を温める、照明を落として寝室を落ち着かせるなど、できる範囲で工夫してみましょう。
二つ目の特徴は、「歩くスピードが遅い」ことです。
歩く速度は、実はその人の体力や筋肉の状態を反映しています。イギリスの大規模な調査では、がんを経験した人の中で「歩くのが遅い」人ほど、筋肉量が少ない傾向があることがわかりました。
普段の生活の中で、「前より歩くのが遅くなった」「階段がつらい」と感じるようなら、それは筋肉が減ってきているサインかもしれません。
無理のない範囲で散歩を続けたり、軽いストレッチを取り入れたりして、体を動かす習慣を持ちましょう。ちょっとした買い物や家事も、立派な筋トレです。
「動くこと」が筋肉を守る最良の薬といえるでしょう。
三つ目の特徴は、「いくつかの持病を抱えている」ことです。
たとえば、心臓や血圧、糖尿病などの慢性的な病気を複数かかえていると、どうしても体力を保つのが難しくなります。病気の影響で食欲が落ちたり、薬の副作用で活動量が減ることもあります。
また、体に慢性的な負担がかかると、筋肉を作る力よりも「分解される力」が強くなってしまうこともあります。
こうした場合は、主治医と相談しながら体調を安定させることが大切です。病気のコントロールがうまくいけば、筋肉を取り戻す力も自然と高まります。
四つ目の特徴は、「体の中で炎症が起きている」ことです。
炎症と聞くと、ケガや風邪のような一時的なものを思い浮かべるかもしれませんが、がん患者さんの中には、自覚がなくても体の中で慢性的な炎症が続いている人がいます。
炎症が長く続くと、体はエネルギーを消耗し、筋肉を壊す物質が増えると考えられています。
実際、血液検査で炎症のサインが高い人ほど、筋肉が少ないという報告があります。
「最近なんとなく疲れやすい」「微熱が続く」「だるい」など、体のサインを無視せず、きちんと体を休めることが大切です。
栄養バランスのよい食事や十分な睡眠は、炎症を抑えることにもつながります。
最後の特徴は、「ビタミンDが不足している」ことです。
ビタミンDは、カルシウムの吸収を助けて骨を強くするだけでなく、筋肉の働きを保つ役割もあります。足りなくなると、筋力の低下や疲れやすさにつながることが知られています。
ビタミンDは日光を浴びることで体内でも作られますが、室内で過ごす時間が長い人や、日焼けを避ける生活をしている人は不足しがちです。
また、魚や卵、きのこ類などの食品からも摂れますので、食事で意識して取り入れることも大切です。

ここまで紹介した5つの特徴を振り返ると、どれも日常生活と深く関係しています。
つまり、筋肉を減らさないためには「生活を整えること」が何より重要なのです。
特別なことをしなくても、日々の小さな積み重ねが大きな違いを生みます。
では、実際に何を意識すればよいのでしょうか?

がんと向き合う上で、「筋肉を守る」ことは、体力を保つだけでなく、心の支えにもなります。
睡眠、歩行、栄養、体調管理など、少しずつ生活を整えることが、長く健やかに過ごすための第一歩です。
もし最近「体が弱ってきた」「動くのがつらい」と感じている方は、無理せず、できることから始めてみてください。
筋肉は年齢に関係なく、努力すれば取り戻すことができます。
がんと戦う力は、日々の生活の中にこそ隠れているのです。