がん再発の原因は休眠だった?抗癌剤が効かない「がん幹細胞」のかぎを握るp57

がん治療はここ数十年で大きく進歩してきました。抗がん剤や放射線、手術などの治療法は日々改善され、患者さんの命を救う力は確実に高まっています。しかし、依然として大きな課題として残っているのが「再発」です。治療後に一度はがんが小さくなった、あるいは見えなくなったにもかかわらず、時間が経って再び姿を現す――。これは、患者さんと医療者にとって非常に辛い現実です。

そんな中、九州大学の研究チームが発表した最新研究が注目を集めています。大腸がんの再発を引き起こす“がん幹細胞”の正体を解明し、その鍵となるタンパク質「p57」を特定したというのです。この発見は、将来的にがんの再発を防ぐ新たな治療法につながる可能性を秘めています。

がんはなぜ再発するのか?

がんはなぜ再発するのか?

まず、がん再発について改めて考えてみましょう。抗がん剤を用いると、多くの場合、がん細胞は死滅し、腫瘍は小さくなります。しかし、すべてのがん細胞が均一な性質を持っているわけではありません。

最近の研究によって、「がん幹細胞」と呼ばれる特殊ながん細胞が存在することが明らかになってきました。がん幹細胞は、いわば「がんの親玉」です。通常のがん細胞よりも高い自己複製能力を持ち、再発や転移の原因になると考えられています。そして厄介なことに、このがん幹細胞は抗がん剤に対して強い耐性を持つ傾向があります。

治療中、ほとんどのがん細胞が抗がん剤によって壊されても、わずかに残ったがん幹細胞が静かに潜み続け、治療後に再び活動を始めることで再発が起こる――それが、現在のがん治療の大きな壁なのです。

研究の焦点は「休眠状態」にある細胞

九州大学の研究グループが注目したのは、このがん幹細胞の中でも、特に「休眠状態」にある細胞でした。がん幹細胞には、活発に増殖するものと、ほとんど増殖せず休眠するものが存在します。抗がん剤は増殖の速い細胞を狙うため、活発ながん幹細胞は治療中にある程度除去されます。しかし、休眠している細胞はその攻撃を逃れてしまうのです。

研究では、マウスを用いた大腸がんモデルでがん細胞を詳細に解析しました。その結果、がん細胞は5種類の性質に分かれることが判明し、その中に増殖速度の極めて遅いがん幹細胞の集団が見つかりました。これこそが、休眠状態のがん幹細胞です。

再発の鍵を握るタンパク質「p57」

再発の鍵を握るタンパク質「p57」

さらに研究を進めると、休眠がん幹細胞は「p57」というタンパク質を多く発現していることが分かりました。p57は細胞周期を抑制し、細胞の増殖を止める働きを持つ物質です。つまり、p57が多いがん幹細胞は、自らの増殖を意図的に止め、抗がん剤の攻撃を避けていたのです。

研究チームは、このp57を標的として休眠がん幹細胞を取り除けるのではないかと考えました。そこで、マウスの体内でp57を発現する細胞だけを特異的に除去できる仕組みを導入し、抗がん剤と併用して治療を行いました。その結果、抗がん剤だけの治療に比べ、再発を大幅に抑制することに成功しました。

これは、がん治療における非常に有望な成果です。休眠状態のがん幹細胞を攻撃できれば、再発を防げる可能性が高まるからです。

では、人への応用はいつ?

重要なのは、この結果がまだ動物実験の段階であるという点です。今後、p57を阻害する薬の開発や人での臨床試験を経て、安全性と有効性を示す必要があります。実用化までには時間がかかると考えられますが、がん再発を防ぐ新たな道が示されたという点で、大変意義のある研究成果です。

未来のがん治療は「休眠細胞」が鍵になる

未来のがん治療は「休眠細胞」が鍵になる

がん治療は、単にがん細胞を減らすだけでは根治に至らないことが多く、その裏には「休眠状態のがん幹細胞」という見えづらい敵が潜んでいます。今回の研究により、がん幹細胞の休眠メカニズムが少しずつ解明され、そこに介入することで再発を防げる可能性が示されました。

今後、がん治療は

  • 活動中のがん細胞を攻撃する治療
  • 休眠中のがん幹細胞を“目覚めさせて”から排除する治療

この二つを組み合わせる方向へ進むかもしれません。

まとめ

今回の九州大学の研究は、がん再発の鍵を握る「休眠がん幹細胞」と、それを維持するタンパク質「p57」を特定した重要な成果です。再発防止につながる新しい治療法の開発が期待されます。がんと闘う患者さんや医療者にとって、大きな希望となる発見だと言えるでしょう。

研究の進展を見守りながら、一人ひとりが健康を守るためにできることを考えていきたいものです。