【死亡率が3割も?】腸が過敏な「あの病気」の人、がん死亡が・・・過敏性腸症候群(IBS)とがん発症率・死亡率との意外な関係とは?

腸が過敏になる「あの病気」とがんの意外な関係とは?

今回は、腸の調子が乱れやすい「過敏性腸症候群」という病気と、がんとの関係についてのお話です。
少し難しそうに聞こえる名前ですが、実は私たちの身近な病気の一つ。診断されていない人も含めると、日本人の10人に1人以上がこの症状を持っているといわれています。

□ おなかが痛いのに「異常なし」?それが過敏性腸症候群

□ おなかが痛いのに「異常なし」?それが過敏性腸症候群

過敏性腸症候群とは、腸の検査をしても潰瘍や腫瘍といったはっきりした異常が見つからないのに、
「おなかが張る」「痛む」「下痢や便秘をくり返す」といった症状が続く病気です。

病院で検査をしても「特に問題はありません」と言われたのに、おなかの不調が続く…。
そんな経験がある方は、この病気の可能性があるかもしれません。

この症状は、10〜15%ほどの日本人に見られるとされ、特に20代から40代の若い世代に多くみられます。
朝の通勤や通学中、会議中などに突然おなかが痛くなってトイレに駆け込む──。そんな生活に支障が出てしまうケースも珍しくありません。

しかも、下痢だけでなく、便秘型や「下痢と便秘を交互にくり返すタイプ」もあるため、人によって症状はさまざまです。

□ なぜ起こる?ストレスと腸の不思議なつながり

過敏性腸症候群のはっきりとした原因は、実はまだ解明されていません。
ただ、心理的なストレスと深く関係していることは確かだと考えられています。

「脳と腸はつながっている」とよくいわれますが、これは医学の世界でも「脳腸相関」と呼ばれている考え方です。
強いストレスを感じると、腸の動きが乱れたり、痛みを感じやすくなったりする。
また、腸内の細菌バランスが崩れることでも、腸の働きが不安定になることがわかっています。

つまり、心のストレスと腸の不調は、お互いに影響しあっているのです。
「おなかの調子が悪い」と思っていたら、実は心の疲れが原因だった──そんなこともあるわけです。

□ 意外な研究結果:過敏性腸症候群の人は「がんになりにくい」?

□ 意外な研究結果:過敏性腸症候群の人は「がんになりにくい」?

ここからが今回の本題です。
過敏性腸症候群と「がん」にどんな関係があるのか?
最近、この疑問に答えるような大規模な研究結果が海外から報告されました。

まず紹介したいのは、2022年にイギリスで行われた研究です。
45万人以上の健康データをもとに、過敏性腸症候群の人とそうでない人とで、その後のがんの発症率を比べました。

その結果──驚くことに、過敏性腸症候群の人は結腸がんのリスクが25%、直腸がんのリスクが32%も低かったのです。
つまり、腸の調子が不安定な人ほど、大腸がんになりにくかったという意外な結果が出ました。

全体のがん発症率には差がなかったものの、腸に関わるがんのリスクが下がっていたというのは興味深い発見です。

□ さらに2024年には「がんの死亡率」にも関係が

次に、2024年に発表された同じくイギリスの研究を見てみましょう。
こちらは50万人以上を対象に、過敏性腸症候群と「がんやその他の病気で亡くなるリスク」との関係を長期間追跡したものです。

すると、診断後5年以内では、過敏性腸症候群の人はすべてのがんによる死亡リスクが約30%低いという結果が出ました。
しかも、がんに限らず、すべての原因を合わせた死亡率も30%低下していたのです。
つまり、「この病気を持つ人のほうが長生きしていた」ということになります。

さらに、10年以上たっても死亡リスクは10%以上低いままでした。
がんの種類で見ると、乳がん、前立腺がん、大腸がんの死亡リスクが特に低くなっていました。

□ なぜリスクが下がるのか?

なぜ、このような結果が出たのでしょうか?
その理由はまだはっきりしていませんが、いくつかの可能性が考えられています。

まず一つは、「医療との接点が多いこと」です。
過敏性腸症候群の人は、おなかの不調で病院に通う回数が自然と多くなります。
その際に大腸カメラなどの検査を受ける機会も増えるため、もしポリープや初期のがんがあっても、早い段階で見つけられることが多いのです。

早期発見・早期治療ができれば、当然ながんの発症率や死亡率は下がります。
これはとても現実的な説明です。

もう一つは、過敏性腸症候群そのものが、体の免疫や腸の働きに影響を与えて、結果的にがんのリスクを下げている可能性です。
腸は「第二の脳」とも呼ばれ、免疫の働きをつかさどる重要な臓器。
腸内環境が活発に動いていることで、がん細胞が増えにくくなっているのではないか、という仮説もあります。

まだ仮説の段階ですが、今後の研究が待たれる興味深いポイントです。

□ 「腸の不調」は体のサインかもしれない

□ 「腸の不調」は体のサインかもしれない

「たかがおなかの不調」と思うかもしれませんが、腸はとてもデリケートで、心や体の状態を映し出す鏡のような存在です。
ストレスがたまると腸が張ったり、緊張するとおなかが痛くなったりするのも、まさにその証拠です。

そして今回の研究結果が示すように、腸のトラブルを放っておかずに早めに病院で相談することは、
がんの早期発見につながり、結果的に命を守ることにもなるのです。

過敏性腸症候群そのものは、命にかかわる病気ではありません。
しかし、生活の質を下げてしまうことがあるため、上手に付き合うことが大切です。
食事のリズムを整える、十分な睡眠をとる、ストレスをためないなど、日々の小さな工夫が大きな助けになります。

まとめ

腸が過敏に反応してしまう「過敏性腸症候群」。
つらい症状に悩む人は少なくありませんが、最近の研究では、この病気を持つ人ほど大腸がんをはじめとするがんのリスクが低いという、意外な事実がわかってきました。

これは、病院で検査を受ける機会が多いことによる早期発見の効果、
あるいは腸そのものの働きが健康を守っている可能性など、さまざまな要因が考えられます。

いずれにしても、「腸の調子」は体全体の健康を映すバロメーターです。
おなかの不調を「よくあること」と見過ごさず、必要に応じて専門の医師に相談する。
それが、自分の健康を守る第一歩になるかもしれません。