期待の「がんゲノム医療」問題点5つ

がん治療は日々進歩しています。中でも近年特に注目を集めているのが「がんゲノム医療」です。2015年、当時のアメリカ大統領バラク・オバマ氏が「プレシジョン・メディシン(精密医療)」を推進すると発表したことをきっかけに、世界中で個別化医療への期待が高まりました。その流れの中で、患者さん一人ひとりの遺伝子情報に基づいて最適な治療薬を選択するという、がんゲノム医療の研究と普及が進んでいます。

日本でも2019年には「がん遺伝子パネル検査」が保険適用となり、がんゲノム医療へのアクセスが大きく広がりました。自費で56万円ほど必要だった検査が、保険3割負担で約16万8千円で受けられるようになったため、多くの患者さんが検査を検討するきっかけにもなりました。

一方で、がんゲノム医療は魔法の治療ではありません。実際に治療につながる患者さんは全体の一部であり、まだ多くの課題が指摘されています。本記事では、がんゲノム医療の期待とともに、現時点で明らかになっている5つの課題について、やさしく解説していきます。

そもそも「がんゲノム医療」とは

そもそも「がんゲノム医療」とは

がんは、細胞の遺伝子に異常が起きることで発生します。この遺伝子の変化は患者さんごとに異なります。がんゲノム医療では、その遺伝子異常を詳しく調べ、異常に応じて最も効果が期待できる薬剤を選択します。

たとえば、ある遺伝子に異常がある患者さんにはAという薬を、別の異常を持つ患者さんにはBという薬を使う、といった具合です。まさに「オーダーメイド医療」と呼べるアプローチです。

しかし、すべての患者さんに対応する薬が見つかるわけではありません。また、がん細胞の性質は複雑で、一つの遺伝子だけでは説明できない場合も多いのです。

がんゲノム医療の5つの問題点

ここからは、実際に指摘されている主な課題を5点紹介します。

1. 実施施設が限られている

がんゲノム医療は、どこの病院でも受けられるわけではありません。
受けられるのは以下の限られた施設です。

  • がんゲノム医療中核拠点病院(全国12か所)
  • がんゲノム医療拠点病院(全国33か所)
  • 連携病院

これらの施設で専門チームが検査と解析を行い、治療方針を検討します。しかし、住んでいる地域によっては受診が難しく、希望しても断念せざるを得ないケースがあるのが現状です。

2. 検査を受けても治療につながるのは約1割

2. 検査を受けても治療につながるのは約1割

がんゲノム医療への期待は高い一方で、現実には遺伝子異常が見つかっても、その異常に対応する薬が存在しない場合が多くあります。実際に、検査を受けた人の中で実際に治療につながるのは約1割程度とされています。

つまり、せっかく高額な検査費を負担し、数週間の解析を待っても、治療法が見つからない場合がほとんどなのです。

3. 薬が見つかっても必ず効果があるわけではない

遺伝子異常に対応する薬が見つかり、治療を受けられたとしても、必ず効果があるとは限りません。
中には、

  • 思ったほど効果が見られない
  • 副作用が強くて継続できない

といったケースもあります。

がんゲノム医療に基づく治療は「有望だが、万能ではない」という点を理解する必要があります。

4. 対応薬が未承認のケースがある

遺伝子異常に対応する薬が見つかったとしても、その薬が日本国内で承認されていない場合があります。承認されていない薬は保険適用できず、治療費は全額自己負担となり、高額になることが多いです。

「患者申出療法制度」という仕組みを使って治療を受けることも可能ですが、申請手続きが煩雑で、実際には広く活用されていないのが現状です。

5. 検査対象が限定されている

現在、がんゲノム医療の対象は

  • 標準治療が効かない患者
  • 標準治療が終了した患者

に限られています。つまり、がんが進行してから検査を受けることになります。そのため、検査結果を待っている間に病状が悪化し、治療が難しくなるケースもあります。

この課題に対し、国立がん研究センターなどでは、より早期の段階で遺伝子パネル検査を行う臨床研究が進められており、将来的には診断の初期から検査を受けられるようになる可能性があります。

がんゲノム医療は「未来の希望」、だが情報整理が重要

がんゲノム医療は「未来の希望」、だが情報整理が重要

がんゲノム医療は、新たな治療の扉を開く可能性を秘めています。
中には、ステージIV(末期)のがんが寛解した例など、劇的な効果が報告されている症例もあります。

しかし同時に、現時点では次の点を理解しておく必要があります。

  • まだ治療が成立していないケースが多い
  • 期待が先行しやすい
  • 情報の非対称性が大きい(患者が内容を理解しにくい)

大切なのは、最新医療に無条件で飛びつくのではなく、メリットと限界を正しく理解することです。

これからの展望

研究は大きく進んでおり、今後は

  • 解析技術の向上
  • 承認薬の増加
  • 早期検査の普及
  • 遺伝子情報と生活習慣データの統合

などにより、治療効果が高まることが期待されています。

がん治療は「一人ひとりに最適な医療へ」という方向に着実に向かっています。
がんゲノム医療は、その未来を切り開く大きな一歩と言えるでしょう。

まとめ

がんゲノム医療は革新的な技術であり、未来のがん治療に欠かせない存在です。ただし、現段階では次の課題があります。

  1. 実施できる施設が限定されている
  2. 治療につながる患者は約1割
  3. 薬が見つかっても効果は人によって異なる
  4. 対応薬が未承認のことがある
  5. 検査のタイミングが遅くなることがある

希望を持ちながらも、冷静にメリットとデメリットを理解し、主治医と相談しながら最適な選択をしていくことが大切です。