今回は「がん代替医療の闇」というテーマでお話しします。
以前、「がん医療の闇」として、現在行われている標準治療の課題についてお伝えしましたが、がんの治療には本当にさまざまな考え方があります。
私は医師として手術などの標準治療を行っていますが、必ずしもすべての方にとってそれが“最善の方法”であるとは限りません。年齢、体力、がんの進行具合など、人それぞれに違いがあるためです。
一方で、標準治療ではない治療法、いわゆる「代替医療」や「民間療法」と呼ばれるものも世の中にはたくさん存在します。
中には、患者さんによって体調がよくなったと感じる例もあり、すべてを否定するわけではありません。
ただし、注意が必要なのは、こうした代替医療の中には「科学的な根拠(エビデンス)」がはっきりしていないものが多く、時には患者さんの不安や希望につけこむような“闇の部分”が存在することです。
特に、標準治療ではこれ以上の治療が難しいと告げられた方や、どうにか別の方法でがんを治したいと考える方が、悪質な代替医療ビジネスのターゲットになってしまうことがあります。
今回は、そうした「がん代替医療の落とし穴」について、よくある三つのパターンを紹介しながらお話しします。

最も多いのが、インターネットで治療法を検索していて高額な民間療法に誘導されるケースです。
たとえば「諦めないがん治療」「ステージ4でも」「奇跡の回復」「からだにやさしい治療」といった言葉を見かけたことがあるかもしれません。
これらのサイトの中には、患者さんの気持ちにつけこむような広告も多く、クリックすると「最新の免疫療法」や「独自の複合治療法」といった、いかにも効果がありそうな名前が並んでいます。
しかし、こうした治療は健康保険が使えず、すべて自己負担です。
中には数百万円という高額な費用を請求されるケースもあります。
しかも、多くの場合、実際にその治療がどの程度の効果を示したのか、客観的なデータがありません。
代わりに「体調がよくなった」「奇跡の回復を遂げた」などの体験談や、「治療実績1000例」といった数字が並びます。
もちろん、すべてが偽りというわけではないかもしれません。
しかし、体験談というのは個人差が大きく、科学的な裏付けがないまま宣伝されていることが多いのです。
「実績」や「症例数」という言葉を鵜呑みにせず、慎重に判断することが大切です。

次に多いのが、「無料の健康法」を装って高額な商品を売りつけるパターンです。
たとえば、「食事を変えればがんは治る」「体をアルカリ性にすればがんは消える」「天然の塩で体質改善」など、一見するとお金がかからず体に良さそうな情報がSNSや動画で広がっています。
ところが、内容をよく見ると、「この方法を詳しく知りたい方はこちら」として、有料の情報商材や高価なサプリメントに誘導していることがあります。
情報商材の例としては、「病院に行かずにがんが治った方法」というタイトルのPDFや電子書籍(noteなど)があります。
また、サプリメントでは「免疫を高める」「がん細胞を弱らせる」「○○大学名誉教授監修」「海外ではすでに認められている」「特許取得済み」などの宣伝文句がよく使われます。
ですが、「特許がある」ことと「効果がある」ことはまったく別の話です。
こうした言葉は、消費者の不安を和らげ、信頼してもらうための“おまじない”のようなものにすぎません。
本当に体に良いものであれば、きちんとしたデータや医師の間での評価があるはずです。
無料でできる健康法を紹介するだけならまだしも、最終的には高額な商品を売ることが目的になっているケースがほとんどです。
そのため、「信じて続けたのに効果がなかった」「お金だけ失った」といった被害も少なくありません。
「無料」という言葉に安心せず、冷静に判断するようにしましょう。

三つ目は、SNSなどを使って信者を集め、自分の著書や商品を売るタイプです。
こうした人たちは、あえて過激な発言をします。
「現代医療は嘘だ」「病院は金儲けのためにある」「薬はすべて毒」「製薬会社の陰謀だ」といった極端な主張で、人々の不信感や不安をあおるのです。
そのうえで、「でもまだ間に合います」「この方法で体を解毒できます」といった言葉で“希望”を見せ、書籍やセミナー、サプリメントを販売します。
これは典型的な“恐怖と救済”のビジネスモデルです。
不安を抱える人ほど、強い言葉や簡単な解決法に引き寄せられてしまいます。
実際には、こうした商品や本の多くが根拠に乏しく、作者自身が印税や売上を目的としているケースもあります。
もちろん、がんに限らず、心の支えや励ましになる情報は大切です。
ただし、誰かの言葉を「絶対」だと信じ込んでしまうと、かえって本当に必要な治療やサポートから離れてしまう危険もあります。
「医療を全否定するような情報」や「これさえすれば治る」といった極端なメッセージには、特に注意してください。
ここまで紹介した三つのパターンは、がん患者さんが陥りやすい「代替医療の落とし穴」です。
どれも、最初は希望を与えるように見えて、最終的にはお金や信頼を失ってしまうケースが少なくありません。
大切なのは、「焦らないこと」「一人で抱え込まないこと」です。
つらいとき、不安なときこそ、冷静な判断が難しくなります。
だからこそ、どんな情報も一度は主治医や信頼できる医療者に相談してみてください。
また、家族や友人など、あなたを大切に思ってくれる人の意見を聞くことも助けになります。
世の中には、誠実に患者さんを支えようとしている人もたくさんいます。
正しい知識を持ち、うまく情報を選び取ることができれば、あなたに合った治療法や生活の工夫が必ず見つかるはずです。
がんと向き合うとき、何より大切なのは「希望を失わないこと」。
その希望を悪質なビジネスに奪われないよう、どうか冷静に、そして自分を守る気持ちを忘れずにいてください。