「高濃度ビタミンC療法」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
美容や疲労回復、アンチエイジング効果を期待して行う方もいますが、一部のクリニックでは、がん治療の一環としての利用が提案されることもあります。高濃度のビタミンCを静脈から点滴で投与するもので、日本では自由診療(保険適用外)の治療です。
「抗酸化作用のあるビタミンCでがん細胞を攻撃できる」
「抗がん剤の効果が高まる」
そのように宣伝されることもありますが、果たして本当に科学的根拠はあるのでしょうか。今回は、最新の臨床研究の結果をもとに、その可能性と現状についてわかりやすくお伝えします。

ビタミンCには抗酸化作用があり、身体の細胞を守る働きがあることはよく知られています。しかし、高濃度ビタミンC療法では逆に「酸化作用」を利用してがん細胞を壊すという、少し特別な仕組みが想定されています。
ビタミンCは糖と似た構造を持っており、がん細胞は増殖のため多くの糖を取り込む性質があります。そのため、ビタミンCも大量に取り込まれやすいと考えられています。その際、細胞内でビタミンCが変化して過酸化水素という物質が発生し、それががん細胞を傷つける――このような理論です。
実験室レベルでは、ビタミンCが特定の遺伝子変異(KRAS変異など)を持つがん細胞を選択的に攻撃するという報告もあります。こうした背景から、ビタミンCはがんの新たな治療法になるのではと期待されてきました。

これまでの多くの研究は細胞やマウスを対象にした実験であり、人間での効果を示す臨床試験はほとんどありませんでした。そのため「効果があるとは言い切れない」というのが医学界の一般的な見解でした。

2024年8月、アメリカのがん研究誌「Clinical Cancer Research」に、大腸がん患者を対象とした大規模研究が発表されました。
結果はどうだったのでしょうか。
全体としては効果なし
奏効率(がんがどれだけ小さくなるか)も全生存期間も、ビタミンCを投与しなかったグループと差は見られませんでした。副作用も同程度で、安全性もほぼ同じでした。
つまり「すべての大腸がん患者に有効」とは言えない結果でした。
興味深いのは、患者のがん遺伝子を調べた「サブ解析」です。KRAS遺伝子というがん関連遺伝子に変異がある患者では、ビタミンCを併用したグループの方が、病状が進行するまでの期間が有意に長かったのです。
以前の実験研究(2015年、Science誌)でも、KRAS変異やBRAF変異を持つがんにビタミンCが効果を示す可能性が報告されていましたが、今回の臨床結果はそれを支持する形となりました。
現時点での結論は次の通りです。
高濃度ビタミンC療法が「がん治療として確立した」とはまだ言えません。一方で、特定の患者群では効果が出る可能性が示されつつあります。今後、より大規模で精密な臨床研究が進むことで、ビタミンC療法の位置づけが明確になっていくでしょう。

高濃度ビタミンC療法は、日本では保険適用外であり、費用も決して安くありません。また、治療方針に迷った際には、主治医や専門のがん相談窓口、セカンドオピニオンなど、信頼できる医療機関に相談することが大切です。
新しい治療法が話題になると、期待や不安が混ざりやすいものです。今回の研究結果は、科学的根拠に基づいた冷静な判断材料のひとつとして、参考にしていただければ幸いです。